10:45 〜 11:00
[SCG60-01] 九州前弧域における地震波速度構造及び比抵抗構造から推定される地殻流体
1. はじめに
沈み込み帯に位置する日本列島の火山フロント及び背弧側においては,火山に供給するマグマやそれに関連する流体の存在が地球物理学的な手法によって見出されている。地殻やマントル・ウェッジにおける流体の分布は,主として地震波トモグラフィーや電磁探査(Magnetotelluric; MT法)によって推定されているが(例えば,Zhao et al., 1992; Asamori et al., 2010),これらと地殻変動との関連性が指摘されている(飯尾, 2009)。また最近では,前弧域においても地殻流体の存在が指摘されており(例えば,Zhao et al., 2015; Umeda et al., 2015),日本列島における地殻変動を議論する上では,地殻流体の分布を把握することが重要であると考えられる。本研究では,九州地方を対象として,MT法探査により2次元比抵抗構造を推定するとともに,地震波トモグラフィーによって3次元地震波速度構造の推定することで,とくに前弧域における地殻流体の有無や分布について検討した。
2. MT法電磁探査
宮崎県川南町から熊本県八代市に至る約105kmの区間と,宮崎県日南市から鹿児島県湧水町に至る約94kmの区間においてファーリモートリファレンス方式のMT法探査を行なった。これらの二つの測線は,およそ火山フロントに直行し,2-10 kmの間隔で観測点40点を配置した。測定には,Phoenix社製MTU-5システムを使用し,磁場3成分,電場2成分の時系列を測定した。対象地域のノイズ環境を考慮して,測定時間は夜間を含む15時間とし,各測点で2日間以上の測定を行うとともに,リモートリファレンス点を岩手県沢内村(調査地域からの距離約1200km)に設けた。リファレンス処理の結果,各観測点においてノイズ除去の効果が認められ,周波数320Hz-0.0003Hzの信頼性の高いインピーダンスを得ることができた。解析にあたっては,Ogawa and Uchida(1996)のアルゴリズムを用いた2次元インバージョンを行い,見掛比抵抗・位相の観測データから,九州地方中部及び南部の前弧域-火山フロント-背弧域における地殻の2次元比抵抗構造を推定した。
3. 地震波トモグラフィー
本解析には,気象庁一元化カタログによる2003年6月から2012年2月までに日本列島下で発生した2503個の地震データを使用した。また,地殻のみならずマントルの構造も推定するため,Hi-netで記録された51個の遠地地震データも合わせて解析に用いた。解析では,研究領域内にgrid pointを水平方向に約33km,深さ方向に15-30kmの間隔で設置し,Zhao et al. (1994)のアルゴリズムを用いた3次元インバージョンを行うことで,地殻及び上部マントルにおける3次元P波及びS波速度構造を推定した(Asamori and Zhao, 2015)。
4. 結果
本解析により,九州地方の前弧域において,以下に述べる特徴が明らかになった。
(1)九州地方中部の前弧域において,水平方向に約30kmの拡がりを有する低比抵抗体が認められ,地殻中部からモホ面付近まで連続しているようにイメージされた。一方で,九州南部の前弧域には,顕著な低比抵抗体は認められない。
(2)九州地方中部-北部の前弧域において,低比抵抗体に対応すると考えられる低P波,低S波速度異常体が認められた。ただし,火山下に認められる低速度異常体とは異なり,上部マントル深部まで連続する傾向は認められない。
(3)以上の結果は,九州地方の火山に供給する流体とは異なる起源の流体が,前弧域の地殻に存在することを示唆する。
沈み込み帯に位置する日本列島の火山フロント及び背弧側においては,火山に供給するマグマやそれに関連する流体の存在が地球物理学的な手法によって見出されている。地殻やマントル・ウェッジにおける流体の分布は,主として地震波トモグラフィーや電磁探査(Magnetotelluric; MT法)によって推定されているが(例えば,Zhao et al., 1992; Asamori et al., 2010),これらと地殻変動との関連性が指摘されている(飯尾, 2009)。また最近では,前弧域においても地殻流体の存在が指摘されており(例えば,Zhao et al., 2015; Umeda et al., 2015),日本列島における地殻変動を議論する上では,地殻流体の分布を把握することが重要であると考えられる。本研究では,九州地方を対象として,MT法探査により2次元比抵抗構造を推定するとともに,地震波トモグラフィーによって3次元地震波速度構造の推定することで,とくに前弧域における地殻流体の有無や分布について検討した。
2. MT法電磁探査
宮崎県川南町から熊本県八代市に至る約105kmの区間と,宮崎県日南市から鹿児島県湧水町に至る約94kmの区間においてファーリモートリファレンス方式のMT法探査を行なった。これらの二つの測線は,およそ火山フロントに直行し,2-10 kmの間隔で観測点40点を配置した。測定には,Phoenix社製MTU-5システムを使用し,磁場3成分,電場2成分の時系列を測定した。対象地域のノイズ環境を考慮して,測定時間は夜間を含む15時間とし,各測点で2日間以上の測定を行うとともに,リモートリファレンス点を岩手県沢内村(調査地域からの距離約1200km)に設けた。リファレンス処理の結果,各観測点においてノイズ除去の効果が認められ,周波数320Hz-0.0003Hzの信頼性の高いインピーダンスを得ることができた。解析にあたっては,Ogawa and Uchida(1996)のアルゴリズムを用いた2次元インバージョンを行い,見掛比抵抗・位相の観測データから,九州地方中部及び南部の前弧域-火山フロント-背弧域における地殻の2次元比抵抗構造を推定した。
3. 地震波トモグラフィー
本解析には,気象庁一元化カタログによる2003年6月から2012年2月までに日本列島下で発生した2503個の地震データを使用した。また,地殻のみならずマントルの構造も推定するため,Hi-netで記録された51個の遠地地震データも合わせて解析に用いた。解析では,研究領域内にgrid pointを水平方向に約33km,深さ方向に15-30kmの間隔で設置し,Zhao et al. (1994)のアルゴリズムを用いた3次元インバージョンを行うことで,地殻及び上部マントルにおける3次元P波及びS波速度構造を推定した(Asamori and Zhao, 2015)。
4. 結果
本解析により,九州地方の前弧域において,以下に述べる特徴が明らかになった。
(1)九州地方中部の前弧域において,水平方向に約30kmの拡がりを有する低比抵抗体が認められ,地殻中部からモホ面付近まで連続しているようにイメージされた。一方で,九州南部の前弧域には,顕著な低比抵抗体は認められない。
(2)九州地方中部-北部の前弧域において,低比抵抗体に対応すると考えられる低P波,低S波速度異常体が認められた。ただし,火山下に認められる低速度異常体とは異なり,上部マントル深部まで連続する傾向は認められない。
(3)以上の結果は,九州地方の火山に供給する流体とは異なる起源の流体が,前弧域の地殻に存在することを示唆する。