日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG61] K-NET運用開始から20年:強震観測網のこれまでとこれから

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、久田 嘉章(工学院大学建築学部)、引間 和人(東京電力株式会社)

17:15 〜 18:30

[SCG61-P07] K-NETデータを利用した浅部地盤構造の時間変化の検出

*中原 恒1 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)

キーワード:K-NET、地盤構造、時間変化

はじめに
1996年6月に運用を開始した防災科学技術研究所の全国強震ネットワークK-NETは,その後約20年間に発生した数多くの地震に対して貴重な強震動を記録しつづけてきた.これらのデータは,震源過程,波動伝播過程,地盤構造の研究,地震ハザードの評価,構造物の耐震設計など様々な目的に利用されている.本発表では,地盤構造の研究のひとつとして,K-NETデータを利用して浅部地盤構造の時間変化を推定した結果について紹介する.通常,浅部地盤構造の時間変化の検出には,KiK-netのようなボアホールでの観測記録が有効である.しかし,K-NETのような地表観測点の記録の量は膨大で,そのような情報をうまく利用することが望まれていた.そこで,著者は近地地震のコーダ波記録の自己相関関数(ACF)を用いて,浅部地盤の地震波速度変化を推定する手法を提案した(Nakahara, 2015).この手法の推定誤差は数%と大きいものの,それを超える大きな地震波速度変化は実際に検出可能であることを,2011年東北地方太平洋沖地震に対して示した.
データ解析
解析には,東日本の太平洋側(青森から千葉まで)にあるK-NET観測点のデータを使用した.2009年1月から2011年12月の期間に東日本太平洋沖の深さ20-60kmで発生したM7.0以下の地震を用いて,水平動2成分の記録を解析に使用した.2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の後は,余震や誘発地震活動が活発で,コーダを用いた地下構造の監視の時間サンプリングは通常より高い.一方で,本震前は地震活動が低い.解析には1-20Hzの帯域におけるSコーダ波を用い,直達S波走時の1.5倍の時刻から10.24秒間の時間窓を1秒ずつずらしながら20個とり,時間窓ごとに規格化されたACFを計算し,最後にすべての時間窓の結果を重合した.各地震に対する結果を時間順にならべ,ACFに変化が見られるかを観察した.浅部地盤構造の変化に着目するために,ACFのラグタイムが1s以下のフェイズに着目した.
結果
データ解析の結果,前弧側の観測点の多くで,東北地方太平洋沖地震の発生前後でACFの位相が変化していることが検出された.具体的には,本震の発生に伴い,ACFの位相が明らかに遅れている.フェイズの遅れを定量的に求めるために,本震前の地震のACFをすべて重合したものを基準ACFとし,地震毎に計算されたACFを用いて,ストレッチング法(Sens-Schoenfelder and Wegler, 2006)に基づき地震波速度の変化率を求めた.最大の速度低下率は概ね10%程度の値となったが,中には最大30-50%程度となる点も見られた.この変化は本震後数か月で回復する観測点もあるが,数年たっても完全には回復しない観測点もある.10%程度もの大きな速度変化や空間的な変化も大きいことを考えると,観測点直下での強震動によるクラックの生成や拡大が要因であろうと解釈している.なお背弧側の観測点では,使用した周波帯域の地震波は減衰してしまったと考えられ,有意な地震波速度変化を検出できなかった.
まとめ
近地地震のコーダ波記録のACFを用いて,東日本太平洋沿岸のK-NET観測点直下の浅部地盤における地震波速度が,2011年東北地方太平洋沖地震に伴って変化したことを確認した.強震動の直後だけでなく,数か月から数年間にわたって地震波速度の低下が継続することがある.このことは,たとえば短い時間間隔で連動する巨大地震に対しては後の地震時には地盤が弱いままであることを示唆し,地震ハザード評価にあたって注意が必要かもしれない.以上をまとめると,地震活動が高い地域では,K-NETのような地表観測点のデータも地盤構造の時間変化の検出に有効に利用できることが分かった.
謝辞 本研究では防災科学技術研究所のK-NETのデータを使用しました.ここに記して感謝いたします.