日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG62] 巨大地震と火山活動:火山活性化過程の基礎研究

2016年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 201A (2F)

コンビーナ:*高橋 栄一(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、中川 光弘(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門地球惑星システム科学講座)、佐竹 健治(東京大学地震研究所)、市原 美恵(東京大学地震研究所)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

11:30 〜 11:45

[SCG62-04] 17世紀に千島・日本海溝で発生した巨大地震と道南3火山の一斉噴火

*佐竹 健治1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:巨大地震、火山噴火、千島海溝、日本海溝、津波

北海道東部沖の千島海溝ではM8クラスの大地震が約70年程度の繰り返し間隔で発生しているが,17世紀にはより大規模な地震が発生したことが,北海道東部の太平洋沿岸における津波堆積物調査から明らかにされている(Nanayama et al., 2003, Nature). 17世紀には北海道南西部の3火山,駒ヶ岳(1640年Ko-d, 1694年Ko-c2) , 有珠山(1663年Us-b),樽前山(1667 Ta-b, 1739 Ta-a)が一斉に噴火している.じっさい,17世紀の津波によって運ばれた砂層は,これらの火山灰層の直下に位置しており,海岸で標高約20 m(平川,2012,科学)に達したほか,海岸から数kmまで追跡された.
17世紀に発生した巨大地震のメカニズムを調べるため,Satake et al. (2008,EPS) は プレート境界断層(深さ50㎞までと深さ85㎞まで)と海溝付近の津波地震モデルについて津波シミュレーションを行い,沿岸5か所の湿地帯における浸水域と津波堆積物の分布を比較した.その結果,十勝沖~根室沖の長さ300 km,幅100 km,深さ17-51㎞の断層面上で,すべり量は十勝沖で10 m,根室沖で5 mというモデル(十勝沖と根室沖のプレート間地震の連動モデル, Mw 8.5)が,津波堆積物の分布をほぼ説明できるとしたが,海岸での津波の高さは最大10m程度であった.Ioki and Tanioka (2016, EPSL)は,上記のモデルに加えて,海溝軸付近のすべりを25 mとすれば,沿岸での津波高さが20m以上になり,17世紀の津波堆積物をすべて説明できるとした.このモデルのMwは8.8である.
北海道の沿岸部では,17世紀よりも古い津波によるとされる砂層が,10世紀の火山灰層(B-Tm)の上にもう1枚,B-TmとTa-c2(樽前火山の約2500年前噴火による火山灰)との間に3-4層あることから,17世紀と同様な津波はおよそ500年間隔で発生したとされている (Nanayama et al., 2003).Sawai et al. (2009, JGR)は,過去6000年間に発生した15回の津波の間隔が,平均約400年だが100-800年とばらつくことを示した.
道南の3火山は,千島弧でなく東北日本弧に属することから,17世紀の一斉噴火に関連するのは,千島海溝の巨大地震ではなく,日本海溝の巨大地震かもしれない.日本海溝北部では1611年慶長地震が発生し,津波によって多くの死者が発生した.この地震による津波は三陸沿岸や仙台平野では2011年と同様な被害を生じている一方,地震動による被害は知られていないことから,津波地震であるとされている.しかし,他の津波地震(例えば1896年三陸津波地震)のように海溝付近のみで断層運動が起きた場合,それが火山活動に影響するとは考えにくい. 1611年慶長地震が17世紀の千島海溝の地震ではないかという考えもあるが,千島海溝の波源で三陸海岸や仙台平野の津波高さ・浸水域を再現するためには,上記のモデルの3倍程度のすべり量が必要である(岡村・行谷,2011,活断層・古地震研究報告).また,釧路市春採湖湖底コアの年縞からは,17世紀の津波の発生は1636年とされている(石川他,2012,連合大会).なお,北東北(盛岡や弘前)では,1650年頃からは藩の日記が残っており,千島海溝の地震は有感地震として記録されているはずである(佐竹,2002,歴史地震).
17世紀の北海道南部の3火山の一斉噴火と千島あるいは日本海溝の巨大地震の関連性を議論する際,一斉噴火は過去数千年間で唯一の現象であるのに対し,津波堆積物をもたらした巨大地震はおよそ500年間隔で繰り返してきたことにも注意する必要がある.