日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 変動帯ダイナミクス

2016年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 A08 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、重松 紀生(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、加藤 愛太郎(名古屋大学大学院環境学研究科)、岩森 光(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)、池田 安隆(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)、座長:中村 仁美(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)、竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)

11:30 〜 11:45

[SCG63-10] 三重県東部中央構造線の発展史と大規模断層帯の弱化: 試験的モデル

*竹下 徹1荒井 駿1 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)

キーワード:中央構造線、大規模断層帯の弱化、カタクレーサイト、圧力溶解、粉砕岩

中央構造線(以下,Median Tectonic Line, MTL)は西は九州東部から東は関東山地まで,西南日本を800 kmにわたって延長される日本で最も大規模な断層である。MTLの発展史は複雑であるが,もともと白亜紀の後期に西南日本内帯の領家帯に貫入した花崗岩質岩にマイロナイト帯として形成されたものが,古第三紀の初頭(63-58 Ma)に西南日本外帯の三波川変成岩の上昇により本変成岩と接合しその原型(物質境界)が形成された(市の川フェーズ)。したがって,MTLは大規模正断層として発生した(例えば,Kubota and Takeshita, 2008)。三重県東部では,MTLは第四紀に活動しておらず,MTLの原型(市の川フェーズ)を良く保持していると考えられる。我々は2014年以降,大規模断層帯の発展と弱化を解明する目的で三重県東部MTLをモデルフィールドに選びこれまで研究を重ねて来た。その結果,暫定的ではあるがいくつかの新事実が明らかとなって来たのでここに報告する。以下に結果を箇条書きにする。(1)本地域(松阪市月出地区)では,MTLは東西方向に追跡されるが,0.5 kmから1 km程度延長されるセグメント群からなり,各々のセグメントは東端で70 m程度北にステップし(断層ジョグ),東北東―西南西方向の断層に結合される構造を持つ。現在までに3つの断層ジョグが見つかっているが,断層セグメントを結合する断層は大規模正断層形成の際に形成されたトランスファー断層と考えられる。(2)中角度で北に傾斜するMTLの上盤側には70 m程度の花崗岩質岩マイロナイト起源のカタクレーサイト(断層コア)が重なり,さらにその上位には,割れ目の発達したプロトマイロナイト(断層ダメージゾーン)が重なる。しかし,プロトマイロナイト中にも幅の狭いカタクレーサイト帯が網目状に発達する。(3)カタクレーサイトは,変形の進展とともに片状カタクレーサイトに変化していく。また,MTLに沿うカタクレーサイト中には,ウルトラマイロナイトの破片(クラスト)が認められる(Jefferies et al., 2006)。(4)割れ目の発達したプロトマイロナイト中に地震時の粉砕(rupture)によって形成されたと考えられるpulverized rocksが発見された。以上の観察事実に基づき,MTLの発展および断層帯の弱化について次のような考察を行った。MTLは最初,正断層活動の際に東西方向の短いセグメント群として形成され,それがリンクして行き,さらに変位の増加とともにカタクレーサイト帯の幅が増加した。最初にMTLが形成される時,脆性―塑性転移点の応力はインタクトな岩石の変形実験から予想される値まで増加し,ウルトラマイロナイトが形成された。しかし,地震性破壊によりカタクレーサイトが形成されると流体が浸透し,雲母・粘土鉱物が成長して摩擦係数が低下するほか,圧力溶解で変形するようになり,カタクレーサイト帯の弱化が起った。片状カタクレーサイトの組織は弱変成岩(準片岩)に酷似し,圧力溶解沈殿が顕著に起ったことを示す。カタクレーサイト帯が弱化すると,その中では応力が高まらないので地震を起こせず,周囲の未破砕岩に応力が集中し,そこで地震が生じるようになった。このような過程が繰り返されてカタクレーサイト帯の幅が増加したとすると,現在,カタクレーサイト帯の中にウルトラマイロナイトの破片があることや,カタクレーサイト帯形成の初期段階で生じた地震性破壊の痕跡がカタクレーサイト帯と接するプロトマイロナイトに認められる事実を都合よく説明することが出来る。