13:45 〜 14:00
[SCG63-13] 地殻下部における剪断帯の発達様式:ノルウェー北部,Eidsfjord剪断帯
キーワード:下部地殻レオロジー、斑れい岩マイロナイト、変形機構
下部地殻における剪断帯の発達様式は,地殻のレオロジーや内陸地震の発生過程において最も重要な制約条件であるにもかかわらず,その実態はほとんど分かっていない.そのため,下部地殻における剪断帯の局所化の可否や歪み速度などを明らかにすることが喫緊の課題となっている.このような問題を解く場合,下部地殻が広く露出している地域における野外調査とそれに基づく試料採取・解析が必須となる.本研究では,下部地殻が広く露出しているノルウェー北部,ロフォーテン諸島のLangøya地域において野外調査を実施し,各種変形岩(カタクレーサイト,マイロナイト,シュードタキライト)試料を採取した.本調査地域には,地殻スケールのデタッチメントが推定されており,それに伴うシュードタキライト帯の存在も報告されており(e.g. Markl 1998; Plattner et al. 2003; Steltenpohl et al. 2011),下部地殻の変形過程を研究するのに適している.
本調査地域には,粗粒な含輝石斜長岩とモンゾニ岩が広く分布し,その内部に幅数センチから数メートルの局所的な延性剪断帯が多数認められる.延性剪断帯は粗粒もしくは細粒のマイロナイトからなる.粗粒マイロナイトは主に平均粒径約85 µm(最大約350 µm)の斜長石やCl-rich角閃石,緑簾石,黒雲母,白雲母,藍晶石からなる.細粒マイロナイトは主に平均粒径42 µmの斜長石やCl-rich 角閃石,緑簾石,黒雲母,白雲母,ザクロ石,スカポライトからなる.斜長石は若干線構造方向に伸長した形態(アスペクト比:~2)を呈するが,波動消光などの結晶内塑性を示すような組織は認められない.細粒マイロナイトには,破砕された粗粒(数ミリ程度)の斜長石ポーフィロクラストが認められる場合がある.基質の細粒斜長石は伸長せず等粒状組織を呈する.基質とポーフィロクラストの斜長石とでは化学組成が異なり,後者の方が高いAn値を示す.ポーフィロクラスト中に発達するクラックを充填する細粒斜長石も基質と同様に等粒状組織を呈するが,細粒斜長石とその母晶及び隣接した細粒斜長石同士の間に系統的な結晶方位関係は認められない.これらの組織は斜長石の細粒化は主に,動的再結晶ではなく破砕によることを示唆する.粗粒マイロナイトに含まれる斜長石はしばしば組成累帯構造を持ち,コアはポーフィロクラスト斜長石と同程度の高いAn値を持つのに対して,リムのAn値は細粒マイロナイトの基質の斜長石と類似した値を示す.細粒マイロナイトの形成条件は,斜長石-角閃石温度計(Holland and Blundy 1994)とザクロ石-角閃石-斜長石-石英圧力計(Kohn and Spear 1990)を用いた結果,~700 °C,~800 MPaを得た. EBSDによる結晶方位解析を行った結果,細粒マイロナイトの基質及び粗粒マイロナイトの斜長石集合体は顕著な格子定向配列(LPO)を示さないため,それら集合体の変形機構は粒径依存型クリープ(拡散クリープもしくは粒界すべり)であったと考えられる.
これらの観察結果は,下部地殻において延性剪断帯は局所的に発達し,その変形機構は破砕と流体の流入と変成作用によって形成された細粒斜長石の粒径依存型クリープであったことを示唆する.なお,この粒径依存型クリープは斜長石の粒径が数百ミクロンに達した場合でも有効であったと考えられる.
引用文献:Holland and Blundy (1994) Contrib Mineral Petrol116:433–447; Kohn and Spear (1990) Am Mineral 75:89–96; Markl (1998) NGU Bull 434:53–75; Plattner et al. (2003) Contrib Mineral Petrol 145:316–338; Steltenpohl et al. (2011) J Struct Geol 33: 1023–1043
本調査地域には,粗粒な含輝石斜長岩とモンゾニ岩が広く分布し,その内部に幅数センチから数メートルの局所的な延性剪断帯が多数認められる.延性剪断帯は粗粒もしくは細粒のマイロナイトからなる.粗粒マイロナイトは主に平均粒径約85 µm(最大約350 µm)の斜長石やCl-rich角閃石,緑簾石,黒雲母,白雲母,藍晶石からなる.細粒マイロナイトは主に平均粒径42 µmの斜長石やCl-rich 角閃石,緑簾石,黒雲母,白雲母,ザクロ石,スカポライトからなる.斜長石は若干線構造方向に伸長した形態(アスペクト比:~2)を呈するが,波動消光などの結晶内塑性を示すような組織は認められない.細粒マイロナイトには,破砕された粗粒(数ミリ程度)の斜長石ポーフィロクラストが認められる場合がある.基質の細粒斜長石は伸長せず等粒状組織を呈する.基質とポーフィロクラストの斜長石とでは化学組成が異なり,後者の方が高いAn値を示す.ポーフィロクラスト中に発達するクラックを充填する細粒斜長石も基質と同様に等粒状組織を呈するが,細粒斜長石とその母晶及び隣接した細粒斜長石同士の間に系統的な結晶方位関係は認められない.これらの組織は斜長石の細粒化は主に,動的再結晶ではなく破砕によることを示唆する.粗粒マイロナイトに含まれる斜長石はしばしば組成累帯構造を持ち,コアはポーフィロクラスト斜長石と同程度の高いAn値を持つのに対して,リムのAn値は細粒マイロナイトの基質の斜長石と類似した値を示す.細粒マイロナイトの形成条件は,斜長石-角閃石温度計(Holland and Blundy 1994)とザクロ石-角閃石-斜長石-石英圧力計(Kohn and Spear 1990)を用いた結果,~700 °C,~800 MPaを得た. EBSDによる結晶方位解析を行った結果,細粒マイロナイトの基質及び粗粒マイロナイトの斜長石集合体は顕著な格子定向配列(LPO)を示さないため,それら集合体の変形機構は粒径依存型クリープ(拡散クリープもしくは粒界すべり)であったと考えられる.
これらの観察結果は,下部地殻において延性剪断帯は局所的に発達し,その変形機構は破砕と流体の流入と変成作用によって形成された細粒斜長石の粒径依存型クリープであったことを示唆する.なお,この粒径依存型クリープは斜長石の粒径が数百ミクロンに達した場合でも有効であったと考えられる.
引用文献:Holland and Blundy (1994) Contrib Mineral Petrol116:433–447; Kohn and Spear (1990) Am Mineral 75:89–96; Markl (1998) NGU Bull 434:53–75; Plattner et al. (2003) Contrib Mineral Petrol 145:316–338; Steltenpohl et al. (2011) J Struct Geol 33: 1023–1043