16:30 〜 16:45
[SCG63-23] 山陰ひずみ集中帯における最近の地殻変動と測地・地震・地質学的ひずみ速度の比較
キーワード:ひずみ集中帯、GNSS、山陰地方
はじめに
一昨年と昨年の連合大会において,我々は国土地理院のGNSS連続観測網(GEONET)のデータ解析より,山陰地方の島根県東部から鳥取県にかけて顕著な地殻変動集中域(以下,山陰ひずみ集中帯)が存在していることを指摘し,この地域に新たな稠密GNSS観測網を構築したことを報告した.本講演では,最近の山陰ひずみ集中帯における地殻変動分布と時間スケールの異なる測地・地震・地質(活断層)データからひずみ集中帯及びその周辺のひずみ速度の比較を試みた結果について報告する.
山陰ひずみ集中帯の最近の地殻変動
東北地方太平洋沖地震以前の山陰ひずみ集中帯の変動は,日本海の海岸線に沿って,東西走向の剪断帯が右横ずれ運動をしているという特徴がある.剪断帯を挟む変動速度は,2005-2009年の平均で約4mm/年であり,剪断帯の位置は山陰地方の地震帯にほぼ一致している.新規観測点を含む2013〜2015年の平均水平速度場を見ると,変動パターンとしては東北沖地震以前と大きく変わらないものの,変動速度は約6mm/年に増加している.速度の増加は,東北沖地震の余効変動が原因と考えられるが,長波長の広域的な変動だけでなく,ひずみ集中帯付近での局所的な速度の増加も見られており,広域的な余効変動に伴う応力変化に対するひずみ集中帯のレスポンスが含まれている可能性がある.
測地・地震・地質学的ひずみ速度比較
日本列島では,測地学的ひずみ速度が地質学的ひずみ速度に比べて1桁大きいことが知られている.このひずみ速度の違いは,主に測地学的ひずみ速度が沈み込み帯におけるプレート間固着による弾性変形を含んでいるからだと考えられてきた(例えば,池田・他, 2012).山陰地方を含む中国地方は,沈み込み帯からの距離も比較的遠く,ひずみ速度も日本列島の中では小さいことが知られている.このような地域においても,時間スケール及び手法の異なるひずみ速度がどの程度異なるのかを検証するために,北緯34.7-35.7度,東経133.2-134.8度の領域を2×2に等分した領域毎に,測地・地震・地質(活断層)のデータから平均的ひずみ速度を算出した.測地学的速度としては,GNSS変位速度データからShen et al.(1996)の方法で歪み速度を計算した.地震学的速度としては,まず1923年以降の気象庁一元化カタログからモーメント解放速度を計算し,モーメント解放速度とひずみ速度の間の関係式(WGCEP, 1995)を用いて,ひずみ速度に変換した.地質学的ひずみ速度としては,地震本部及び産総研の活断層データベースに含まれる活断層の長さと平均変位速度をデータとして,Kaizuka and Imaizumi(1984)の方法でひずみ速度を計算した.これら3つのひずみ速度を比較すると,山崎断層を含む領域を除いて測地学的ひずみ速度が地震学的ひずみ速度より1桁大きく,地質学的ひずみ速度よりも2桁大きかった.一方,山崎断層を含む領域では,3者のひずみ速度が同じ桁となった.また,それぞれのひずみ速度で地域毎を比較すると,測地学的ひずみ速度と地震学的ひずみ速度では山陰側が瀬戸内側に比べて数倍以上大きいのに対し,地質学的ひずみ速度では,山崎断層を含む瀬戸内側の領域が他の地域よりも1桁以上大きかった.測地学的及び地震学的ひずみ速度は,数年から百年の時間スケールのひずみ速度を表すことを考えると,現在の山陰地方のひずみ速度は,地質学的時間スケールの平均ひずみ速度と比べて,はるかに大きくなっていることを示唆する.また,測地学的ひずみ速度が地震学的ひずみ速度よりも大きいことは,測地学的ひずみ速度の大部分が非弾性的変形であることを示唆する.
一昨年と昨年の連合大会において,我々は国土地理院のGNSS連続観測網(GEONET)のデータ解析より,山陰地方の島根県東部から鳥取県にかけて顕著な地殻変動集中域(以下,山陰ひずみ集中帯)が存在していることを指摘し,この地域に新たな稠密GNSS観測網を構築したことを報告した.本講演では,最近の山陰ひずみ集中帯における地殻変動分布と時間スケールの異なる測地・地震・地質(活断層)データからひずみ集中帯及びその周辺のひずみ速度の比較を試みた結果について報告する.
山陰ひずみ集中帯の最近の地殻変動
東北地方太平洋沖地震以前の山陰ひずみ集中帯の変動は,日本海の海岸線に沿って,東西走向の剪断帯が右横ずれ運動をしているという特徴がある.剪断帯を挟む変動速度は,2005-2009年の平均で約4mm/年であり,剪断帯の位置は山陰地方の地震帯にほぼ一致している.新規観測点を含む2013〜2015年の平均水平速度場を見ると,変動パターンとしては東北沖地震以前と大きく変わらないものの,変動速度は約6mm/年に増加している.速度の増加は,東北沖地震の余効変動が原因と考えられるが,長波長の広域的な変動だけでなく,ひずみ集中帯付近での局所的な速度の増加も見られており,広域的な余効変動に伴う応力変化に対するひずみ集中帯のレスポンスが含まれている可能性がある.
測地・地震・地質学的ひずみ速度比較
日本列島では,測地学的ひずみ速度が地質学的ひずみ速度に比べて1桁大きいことが知られている.このひずみ速度の違いは,主に測地学的ひずみ速度が沈み込み帯におけるプレート間固着による弾性変形を含んでいるからだと考えられてきた(例えば,池田・他, 2012).山陰地方を含む中国地方は,沈み込み帯からの距離も比較的遠く,ひずみ速度も日本列島の中では小さいことが知られている.このような地域においても,時間スケール及び手法の異なるひずみ速度がどの程度異なるのかを検証するために,北緯34.7-35.7度,東経133.2-134.8度の領域を2×2に等分した領域毎に,測地・地震・地質(活断層)のデータから平均的ひずみ速度を算出した.測地学的速度としては,GNSS変位速度データからShen et al.(1996)の方法で歪み速度を計算した.地震学的速度としては,まず1923年以降の気象庁一元化カタログからモーメント解放速度を計算し,モーメント解放速度とひずみ速度の間の関係式(WGCEP, 1995)を用いて,ひずみ速度に変換した.地質学的ひずみ速度としては,地震本部及び産総研の活断層データベースに含まれる活断層の長さと平均変位速度をデータとして,Kaizuka and Imaizumi(1984)の方法でひずみ速度を計算した.これら3つのひずみ速度を比較すると,山崎断層を含む領域を除いて測地学的ひずみ速度が地震学的ひずみ速度より1桁大きく,地質学的ひずみ速度よりも2桁大きかった.一方,山崎断層を含む領域では,3者のひずみ速度が同じ桁となった.また,それぞれのひずみ速度で地域毎を比較すると,測地学的ひずみ速度と地震学的ひずみ速度では山陰側が瀬戸内側に比べて数倍以上大きいのに対し,地質学的ひずみ速度では,山崎断層を含む瀬戸内側の領域が他の地域よりも1桁以上大きかった.測地学的及び地震学的ひずみ速度は,数年から百年の時間スケールのひずみ速度を表すことを考えると,現在の山陰地方のひずみ速度は,地質学的時間スケールの平均ひずみ速度と比べて,はるかに大きくなっていることを示唆する.また,測地学的ひずみ速度が地震学的ひずみ速度よりも大きいことは,測地学的ひずみ速度の大部分が非弾性的変形であることを示唆する.