17:15 〜 18:30
[SCG63-P35] 2003年十勝沖地震の余効変動の特徴と粘弾性構造の推定
キーワード:2003年十勝沖地震、粘弾性緩和、余効すべり、余効変動、GNSS
1.はじめに
2003年十勝沖地震(Mw8.0)は千島海溝で発生し,余効変動を伴っていることが報告されてきた.余効変動の原因は主に余効すべりと粘弾性緩和とされているが,十勝沖地震の余効変動を扱った先行研究はいずれも1年以内の変動を粘弾性緩和の影響は考慮せず余効すべりのみで推定しており,また,この地域の粘弾性構造もこれまで推定されていない.余効すべりの時空間発展を調べることは固着の回復過程を調べる手掛かりとなるが,その際粘弾性緩和の影響を適切に評価しなければ,推定された余効すべりが系統誤差を含むことになる.そこで本研究では,本震発生後2~7年目の余効変動に含まれる余効すべりと粘弾性緩和の両方の影響を同時に評価し,粘弾性構造の推定を行った.
2.データ解析
道内にある81点のGEONET観測点でのデータを使用した.北海道南西部の観測点は1993年北海道南西沖地震と有珠山の火山活動の影響を受けていたため使用しない.最初に,本震前の1999年3月1日〜2003年9月1日のデータの線形トレンドを推定し地震後へ外挿して除去した.その後,周辺域で発生した地震時の変動をオフセット補正した.2004年釧路沖地震(Mw7.0, Mw6.7)と2006年千島列島沖地震(Mw7.8)の変動量はそれぞれ,Takahashi and Kasahara [2007],Nishimura [2009]のモデル計算値を使用し,2007,8,9年十勝沖地震(Mw6.0, Mw6.8, Mw6.4)は,地震前後の座標値の変化を変動量とした.最後に2003年十勝沖地震発生後2~7年目のデータを,水平は1年毎,上下は2年毎に年周・半年周変動を考慮して折れ線近似して速度を得た.
3.モデリング
余効すべりと粘弾性緩和によって余効変動をモデル化した.観測点xの時刻tでの余効すべりによる変位U(x,t)は,次の式(1)でモデル化した.
U(x,t)=A×u(x)×ln(1+t/B) (1)
ここで,u(x)は本震直後4ヶ月間の余効すべり分布による計算値で,Nishimura [2009]の方法で推定を行った.式(1)によるモデリングは,本震直後4ヶ月間の余効すべりの空間分布が変化せず,すべり量が対数関数で時間発展をすると仮定している.さらに,4ヶ月間の余効すべり分布と調和的なモデルを得るため,
A×ln(1+1/3B)=1 (2)
でAとBを拘束し,時定数Bのみを推定した.
粘弾性緩和は,2003年十勝沖地震と2004年釧路沖地震のものを考慮し,震源断層はそれぞれ国土地理院[2003]とNishimura [2009]のものを使用した.厚さHの弾性層と粘性率ηの半無限粘弾性層からなる成層構造を仮定し,計算コードPSGRN/PSCMP (Wang et al., 2006)でこれらの地震による粘弾性緩和を計算した.
以上による観測値と計算値を用いてgrid searchを行い,B,H,ηと各期間,全観測点共通の並進成分を推定した.
4.結果と考察
B=0.115年,H=50km,η=2.0×1019Pa・sが推定された.推定された粘弾性構造は先行研究による東北地方の前弧側の粘弾性構造(例えば,Diao et al. 2014)と調和的だった.
水平成分は全期間で本モデルにより大局的に説明されたが,一方で系統的な残差がみられた.これらの残差は局所的に分布しており,2004年釧路沖地震や2008,9年の十勝沖地震の余効すべりの影響によるものと考えられる.また,上下成分は,太平洋岸の隆起が定性的には説明されたが,十勝平野を中心とした広域に系統的な残差(隆起)が分布した.これらの系統誤差は余効すべり域が4ヶ月後から変化していることを示唆しており,本震発生後2~7年目では,本震のすべり域のdown-dip側の余効すべり速度が(1)式の対数関数モデルから計算されるすべり速度よりも大きかったことが考えられる.
2年目では余効すべりの影響がほぼ全域で卓越しており,7年目でも震源域周辺では余効すべりの影響が継続して卓越していたことがわかった.一方で北海道中央部から北部にかけては,7年目では余効すべりと粘弾性緩和の影響が同程度であった.また,2004年釧路沖地震の粘弾性緩和は,十勝沖地震の余効変動と比べて非常に小さかった.
謝辞:本研究では国土地理院による「日々の座標値(F3解)」を利用しました.
2003年十勝沖地震(Mw8.0)は千島海溝で発生し,余効変動を伴っていることが報告されてきた.余効変動の原因は主に余効すべりと粘弾性緩和とされているが,十勝沖地震の余効変動を扱った先行研究はいずれも1年以内の変動を粘弾性緩和の影響は考慮せず余効すべりのみで推定しており,また,この地域の粘弾性構造もこれまで推定されていない.余効すべりの時空間発展を調べることは固着の回復過程を調べる手掛かりとなるが,その際粘弾性緩和の影響を適切に評価しなければ,推定された余効すべりが系統誤差を含むことになる.そこで本研究では,本震発生後2~7年目の余効変動に含まれる余効すべりと粘弾性緩和の両方の影響を同時に評価し,粘弾性構造の推定を行った.
2.データ解析
道内にある81点のGEONET観測点でのデータを使用した.北海道南西部の観測点は1993年北海道南西沖地震と有珠山の火山活動の影響を受けていたため使用しない.最初に,本震前の1999年3月1日〜2003年9月1日のデータの線形トレンドを推定し地震後へ外挿して除去した.その後,周辺域で発生した地震時の変動をオフセット補正した.2004年釧路沖地震(Mw7.0, Mw6.7)と2006年千島列島沖地震(Mw7.8)の変動量はそれぞれ,Takahashi and Kasahara [2007],Nishimura [2009]のモデル計算値を使用し,2007,8,9年十勝沖地震(Mw6.0, Mw6.8, Mw6.4)は,地震前後の座標値の変化を変動量とした.最後に2003年十勝沖地震発生後2~7年目のデータを,水平は1年毎,上下は2年毎に年周・半年周変動を考慮して折れ線近似して速度を得た.
3.モデリング
余効すべりと粘弾性緩和によって余効変動をモデル化した.観測点xの時刻tでの余効すべりによる変位U(x,t)は,次の式(1)でモデル化した.
U(x,t)=A×u(x)×ln(1+t/B) (1)
ここで,u(x)は本震直後4ヶ月間の余効すべり分布による計算値で,Nishimura [2009]の方法で推定を行った.式(1)によるモデリングは,本震直後4ヶ月間の余効すべりの空間分布が変化せず,すべり量が対数関数で時間発展をすると仮定している.さらに,4ヶ月間の余効すべり分布と調和的なモデルを得るため,
A×ln(1+1/3B)=1 (2)
でAとBを拘束し,時定数Bのみを推定した.
粘弾性緩和は,2003年十勝沖地震と2004年釧路沖地震のものを考慮し,震源断層はそれぞれ国土地理院[2003]とNishimura [2009]のものを使用した.厚さHの弾性層と粘性率ηの半無限粘弾性層からなる成層構造を仮定し,計算コードPSGRN/PSCMP (Wang et al., 2006)でこれらの地震による粘弾性緩和を計算した.
以上による観測値と計算値を用いてgrid searchを行い,B,H,ηと各期間,全観測点共通の並進成分を推定した.
4.結果と考察
B=0.115年,H=50km,η=2.0×1019Pa・sが推定された.推定された粘弾性構造は先行研究による東北地方の前弧側の粘弾性構造(例えば,Diao et al. 2014)と調和的だった.
水平成分は全期間で本モデルにより大局的に説明されたが,一方で系統的な残差がみられた.これらの残差は局所的に分布しており,2004年釧路沖地震や2008,9年の十勝沖地震の余効すべりの影響によるものと考えられる.また,上下成分は,太平洋岸の隆起が定性的には説明されたが,十勝平野を中心とした広域に系統的な残差(隆起)が分布した.これらの系統誤差は余効すべり域が4ヶ月後から変化していることを示唆しており,本震発生後2~7年目では,本震のすべり域のdown-dip側の余効すべり速度が(1)式の対数関数モデルから計算されるすべり速度よりも大きかったことが考えられる.
2年目では余効すべりの影響がほぼ全域で卓越しており,7年目でも震源域周辺では余効すべりの影響が継続して卓越していたことがわかった.一方で北海道中央部から北部にかけては,7年目では余効すべりと粘弾性緩和の影響が同程度であった.また,2004年釧路沖地震の粘弾性緩和は,十勝沖地震の余効変動と比べて非常に小さかった.
謝辞:本研究では国土地理院による「日々の座標値(F3解)」を利用しました.