日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD22] 重力・ジオイド

2016年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*西島 潤(九州大学大学院 工学研究院 地球資源システム工学部門)、青山 雄一(国立極地研究所)、座長:田中 愛幸(東京大学地震研究所)、青山 雄一(国立極地研究所)

15:45 〜 16:00

[SGD22-08] 衛星重力計測に基づくアジア高山域の氷河質量収支の再推定

*松尾 功二1日置 幸介2 (1.国土地理院、2.北海道大学)

キーワード:宇宙測地学、氷河、気候変動、GRACE、重力

重力観測衛星GRACEの登場により、アジア高山域が有する広大な山岳氷河群の質量収支を、遠隔から連続的に計測できるようになった。Matsuo & Heki (EPSL, 2010)は、GRACEデータからアジア高山域の氷河質量収支を初めて推定し、2003-2009年の年平均として約-470億トンの質量減少率を導いた。一方、Jacob et al.(Nature, 2012)は、同じくGRACEに基づく解析から、2003-2010年の年平均として約-110億トンの質量減少率を導いた。両者の推定結果は大きく異なるが、松尾・日置(雪氷, 2014)によると、その原因は、氷河域に近接するインド北部の灌漑に伴う地下水変動の影響と、解析期間の違いによる氷河質量の年々変動の影響、に帰することができる。すなわち、アジア高山域の氷河質量収支の正確な把握には、地下水変動シグナルの分離と、可能な限り長期間のGRACEデータの活用が、解決すべき課題であると言える。
そこで本研究では、新たなデータと解析手法を導入し、アジア高山域の氷河質量収支の再推定を行った。地下水変動シグナルの分離を図るために、二つの方法を試してみた。一つは、陸水モデルWaterGAP (Doll et at., WRR 2014)を用いた地下水変動の補正である。もう一つは、スレピアン関数を用いた空間局在化処理(Wieczorek & Simons, GJI 2005)の適用である。Matsuo & Heki (2010)と比較するべく、2003-2009年の期間に対し上記の解析を行ったところ、地下水補正モデルを適用した場合では年平均約-307億トン、空間局在化処理を適用した場合では年平均約-343億トン、両方を適用した場合では年平均約-340億トン、という結果が得られた。続いてデータ期間を伸ばし、2002-2015年の期間に対し同様の解析を行った。ただし、WaterGAPモデルは2009年12月までしか利用できないため、空間局在化処理のみを適用した。その結果、氷河質量減少率として年平均約-238億トンを得た。
以上の結果から、先行研究では、地下水変動の寄与と氷河年々変動の影響が、かなり含まれていたことが示唆される。また、2002-2015年の当地域の氷河質量減少率は、1961-2003年のフィールド調査の結果(約-307億トン:Dyurgerov & Meier, 2005)と比べて僅かに小さいことから、当地域の氷河では世界の氷河で見られるような加速的な縮退傾向は見られないことが明らかになった。