日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP42] 鉱物の物理化学

2016年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 301A (3F)

コンビーナ:*興野 純(筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻)、大藤 弘明(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、座長:興野 純(筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻)

10:15 〜 10:30

[SMP42-06] テラヘルツ顕微ラマン分光法と鉱物科学への応用

*神崎 正美1 (1.岡山大学地球物質科学研究センター)

キーワード:顕微ラマン分光法、テラヘルツ、鉱物、アラニン、ラセミ化

ラマン分光法におけるテラヘルツ領域とは、相対波数で約200 cm-1以下を指す。この領域はトリプルモノクロメーターを持つラマンシステムで古くから測定されてきた。しかし、20年くらい前から、より安価でコンパクトな「ラマン(ノッチ)フィルター+シングルモノクロメーター+冷却CCD検出器」の測定系が広く普及した。これに使われるフィルターはテラヘルツ領域をほとんど測定できない。そのため、最近の研究ではテラヘルツ領域はまず測定されない。これは、その場測定のような明るい光学系が必要な際に顕著である。テラヘルツ領域は結晶相の同定には必須ではないが、ガラスではボソンピークが出現し、相転移ではソフトモードが主に存在するなど、系のダイナミクスに関連する情報が得られる重要な領域である。この不幸な状況はONDAX社が新しいノッチフィルターを開発したことで変わり、シングルモノクロメーターを使って5 cm-1程度まで測定可能となった(doi: 10.1063/1.3520137)。著者らのところではこのフィルターを導入して、既存の自家製顕微ラマンシステムに取り付けて、テラヘルツ領域が測定できるようにしている。本講演では、そのシステムの詳細と、いくつかの応用例を示す。
我々の測定系は後方散乱配置であり、通常測定ではSemrock社のラマンエッジフィルターを使い、100 cm-1程度まで測定できる。ただし、強度を重視する場合は、レーザービームを試料に送る部分のビームスプリッターをSemrock社のダイクロイックビームスプリッターで置き換えている。これで散乱強度が3倍ほど稼げるが、このビームスプリッターの性能のため200 cm-1以下が測れなくなる。テラヘルツ領域の測定では、それらのフィルター類を外して、ONDAX社のフィルター(SureBlock, 488 mm用)を取り付ける。1枚でOD4程度なので、ラマンピーク観察にはフィルター2枚が必要である。フィルターは光軸に対して数度傾ける必要があり、ソーラボ社のキネマテックマウントに取り付けている。レイリー散乱の強度を最小にするように角度を微調整する。透過率が良くないので、フィルター2枚で感度は約1/3落ち、ビームスプリッター部での低下を含めて、200 cm-1以上測定用設定と比べて最大1桁ほど感度が落ちることになる。
この測定系でまず硫黄を測定した。硫黄には27 cm-1にラマンピークがあることが知られており、性能の評価には最適である。アンチストークスおよびストークス側でこのピークを確認できた。著者のウェブページでそのスペクトルを公開している。シリカガラスを測定すると、ボソンピークが確認された。以前、我々はAlPO4においてmoganite相を報告しており、高温その場ラマン測定(> 100 cm-1)も行っているが、その試料を測定したところ、テラヘルツ領域で2本のピークを新たに見つけた。moganite相も石英相同様に高温で転移があるので、これらがソフトモードの可能性もあり、興味深い。高温その場実験を予定している。
さらにアミノ酸の1つである、アラニン結晶を測定した。アラニン分子はキラリティを持つが、ラマン分光法では分子のキラリティを区別できない(Raman Optical Activity法ではできるが)。結晶化した場合は事情が少し異なり、ラセミ化したものと、してないものでは結晶の対称性が異なる。そのためラマンの選択則も異なり、その場合にはラマン分光法でも区別がつく。その違いは分子間の振動に主に反映されるので、テラヘルツ領域に差異が期待される。そこで、D-, L-, DL-アラニン結晶をそれぞれ測定して比較した。確かにDL-アラニンとD-, L-アラニンではテラヘルツ領域に違いがあり、区別ができることがわかった。ラセミ化の温度依存性などへの実験的な応用が考えられる。