14:15 〜 14:30
[SMP44-03] 温泉から見たスラブ脱水流体の地球化学的特徴‐私たちの研究と課題‐
★招待講演
キーワード:温泉、スラブ脱水流体、地球化学、CO2、Na-Cl、高塩分
近年,温泉とプレートの沈み込みにともなって発生すると考えられる深部流体(スラブ脱水流体)の連関についての研究が盛んである(例えば,風早ほか,2014;Kusuda et al., 2014).私たちは,中央構造線沿いの高塩分温泉とスラブ脱水流体の関連性の追求をはじめ(網田ほか,2004;大沢,2004),CO2に富んだNa-Cl組成の高塩分泉に目星を付けたほか,スラブ脱水流体のLi/B比やCH4/CO2比と発生深度との間に規則性があるらしいことを予想した(大沢ほか,2010;網田ほか,2014).このような温泉科学的な取り組みがなされる一方で,沈み込み帯に産する各種地質試料に包蔵される微小な流体である「流体包有物」の研究からスラブ脱水流体の実態を探る研究も行われており(例えば,Nishimura et al., 2008;Yoshida et al., 2011;Yoshida et al., 2015),マントル捕獲岩中の流体包有物の研究からはスラブ脱水流体はCO2に富んだNa-Cl組成の高塩分水流体であり(Kawamoto et al., 2013;Kumagai et al., 2014),有馬温泉の高塩分温泉水の主要化学組成との類似性から,有馬温泉の起源流体をプレート脱水流体に関係づけようとする解説も世に出はじめている.
その後,私たちは,有馬温泉および周辺地域で高塩分温泉の調査をする機会を得て水質と同位体のデータを入手したところ,有馬温泉の高塩分温泉水と水質がよく似ているにもかかわらず,有馬型熱水の同位体組成(δD-δ18O)を持たず,付随するCO2やHeは地殻起源であることを見出し,CO2に富んだNa-Cl組成の高塩分温泉水であっても必ずしもスラブ脱水流体とは結びつけられないことを示した(大沢ほか,2015).温泉を通して地球深部流体を研究するのは容易でないことを再認識させられるとともに,これまで同様に温泉水の成分の中にスラブ由来であることを明示する地球化学的指標を見出すことがこれからも重要な課題であると考える.
【文献】
網田和宏ほか(2005)温泉科学,55,64-77.
網田和宏ほか(2014)日本水文科学会誌,44,17-38.
Kawamoto et al. (2013)Proc. National Academey Science, 110, 9663-9668.
風早康平ほか(2014)日本水文科学会誌,44,3-16.
Kumagai et al. (2014)Contrib. Mineral. Petrol., 168, 1056, doi:10.1007/s00419-0140105609.
Kusuda et al. (2014)Earth, Planets and Space, 66, 119; http://www.earth-planets-space.com/content/66/1/119
Nishimura et al. (2008)J. Mineralogical and Petrological Sciences, 103, 94-99.
大沢信二ほか(2010)温泉科学,59,295-319.
大沢信二(2004)2004年地球惑星科学関連学会合同大会 セッション:J078断層帯のレオロジーと地震の発生過程(招待講演).
大沢信二ほか(2015)温泉科学,64,369-379.
Yoshida et al.(2011)J. Mineralogical and Petrological Sciences, 106, 164-168.
Yoshida et al.(2015)Lithos,226,50–64.
その後,私たちは,有馬温泉および周辺地域で高塩分温泉の調査をする機会を得て水質と同位体のデータを入手したところ,有馬温泉の高塩分温泉水と水質がよく似ているにもかかわらず,有馬型熱水の同位体組成(δD-δ18O)を持たず,付随するCO2やHeは地殻起源であることを見出し,CO2に富んだNa-Cl組成の高塩分温泉水であっても必ずしもスラブ脱水流体とは結びつけられないことを示した(大沢ほか,2015).温泉を通して地球深部流体を研究するのは容易でないことを再認識させられるとともに,これまで同様に温泉水の成分の中にスラブ由来であることを明示する地球化学的指標を見出すことがこれからも重要な課題であると考える.
【文献】
網田和宏ほか(2005)温泉科学,55,64-77.
網田和宏ほか(2014)日本水文科学会誌,44,17-38.
Kawamoto et al. (2013)Proc. National Academey Science, 110, 9663-9668.
風早康平ほか(2014)日本水文科学会誌,44,3-16.
Kumagai et al. (2014)Contrib. Mineral. Petrol., 168, 1056, doi:10.1007/s00419-0140105609.
Kusuda et al. (2014)Earth, Planets and Space, 66, 119; http://www.earth-planets-space.com/content/66/1/119
Nishimura et al. (2008)J. Mineralogical and Petrological Sciences, 103, 94-99.
大沢信二ほか(2010)温泉科学,59,295-319.
大沢信二(2004)2004年地球惑星科学関連学会合同大会 セッション:J078断層帯のレオロジーと地震の発生過程(招待講演).
大沢信二ほか(2015)温泉科学,64,369-379.
Yoshida et al.(2011)J. Mineralogical and Petrological Sciences, 106, 164-168.
Yoshida et al.(2015)Lithos,226,50–64.