日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS25] 強震動・地震災害

2016年5月24日(火) 15:30 〜 17:00 105 (1F)

コンビーナ:*津野 靖士(鉄道総合技術研究所)、座長:岡本 京祐(鉄道総合技術研究所)、吉見 雅行(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)

16:15 〜 16:30

[SSS25-22] 地層の不整形性を考慮した二次元弾塑性有効応力解析による表面波の再現と液状化被害に及ぼす影響

*中井 健太郎1野田 利弘2浅岡 顕3尾崎 奨1 (1.名古屋大学大学院工学研究科、2.名古屋大学減災連携研究センター、3.地震予知総合研究振興会)

キーワード:表面波、液状化、不整形基盤、有効応力解析

地震が発生すると,P波やS波に続いて,地表面を伝達する「表面波」が発生する.この表面波は伝達時の距離減衰が小さく,震源から数百キロ離れた地点にまで伝わるのが特徴で,地震動の継続時間を長くする「後揺れ現象」を引き起こす.また,兵庫県南部地震では,この表面波と深部からの直達波が地表の特定位置で干渉することで,地震被害が局所化・甚大化したことが知られている(震災の帯).しかし,実際の地震観測記録から表面波のみを抽出することは難しく,表面波が表層地盤の揺れや液状化に与える影響は十分には解明されていない.本稿では,深部地層の不整形性を考慮した二次元弾塑性有効応力解析を実施し,傾斜基端部から発生する表面波を再現するとともに,表層地盤の液状化被害へ及ぼす影響を把握することを試みた.用いた解析コードは,砂から中間土,粘土までを同じ理論的枠組で記述する弾塑性構成式(SYSカムクレイモデル1)を搭載した水~土骨格連成有限変形解析コードGEOASIA2)である.
図1は析結果を示す.縦100m,幅30,000mの地盤モデルを作製し,左端2,700m部分のみに基盤傾斜を設けている.地層構成は,浦安地盤を参考に,下部から硬質な洪積層,軟弱な沖積粘土層,液状化危険度の高い沖積砂層となっている3).水理境界は,地表面が水位面と一致するよう水圧をゼロし,下端と両側面は非排水とした.地震波は,東京都港湾局品川地震観測所のG.L.-36m付近での観測地震波を2E波と見做し,加振領域は基盤傾斜部直下のみとした.地震時は境界両側端で側方境界要素単純せん断変形境界を設定するとともに,加振領域を含む地盤底面全節点にVs=400m/sに相当する粘性境界を用いた.図1(b)は地震発生から100秒後の速度ベクトル図である.表層部において,進行方向に対して反時計回りに巻き上げるような表面波の発生が確認できる.この表面波は傾斜基端部で発生し,図中の右側へ進行していく.図1(d)にはA~Cの各地点における地表面加速度とフーリエ振幅スペクトルを示す.傾斜基端部(表面波発生個所)よりも左側の地点Aでは,地点Bと比べて最大加速度は小さく,鉛直動もほとんど発生していない.一方,地点Bでは,鉛直動が生じていることに加えて,水平動に関しても最大加速度,継続時間ともに長くなっている.これは,傾斜基端部で生成した表面波が伝播した結果である.加振領域から20,000m離れた地点Cを見てみると,最大30gal程度ではあるが地震動が伝播している様子が伺える.図は省略するが,地点C’においても同様の加速度が観測されることから,地表面をあまり減衰せずに伝播してきている.フーリエ振幅スペクトルを見ると,加振領域直上では様々な周期帯の波を有していたが,表面波は1.7秒付近のやや長周期成分が卓越している.図1(c)に,各地点における平均有効応力低下率を示す.地点Aでは液状化していないが,地点Bでは平均有効応力低下率が主要動終了後もダラダラと上昇を続け,最終的には95%以上となって液状化している.これは,表面波と直達波が同地点で干渉して揺れが大きくなった(エッジ効果)ことが要因である.さらに地点Cを見ると,液状化にまでは至らないものの,表面波の影響で平均有効応力低下率が60%まで上昇している.今回は液状化していないが,余震等によって連続的に揺れた場合は,さらに平均有効応力低下率が下がって液状化する危険性も秘めている.
以上まとめると,1) 基盤の傾斜によって傾斜基端部から表面波が生成され,表層地盤の継続的な揺れを引き起こすこと,2) 数値解析の中で再現された表面波は1.7秒付近のやや長周期成分が卓越しており,距離減衰が小さい特徴を有していること,3)表面波と直達波の干渉で傾斜基端部より右側で液状化危険度が高まること,を示し,地層の不整形性を考慮した多次元有効応力解析の必要性と有用性を示唆した.
1) Asaoka, A., Noda, T., Yamada, E., Kaneda, K. and Nakano, M. (2002): An elasto-plastic description of two distinct volume change mechanisms of soils, Soils and Foundations, 42(5), 47-57.
2) Noda, T., Asaoka, A. and Nakano, M. (2008): Soil-water coupled finite deformation analysis based on a rate-type equation of motion incorporating the SYS Cam-clay model, Soils and Foundations, 48(6), 771-790.
3) Nakai,K., Noda, T., Murase, K. and Asaoka, A. (2014): Liquefaction damage expansion caused by the generation of surface waves from base end section, Japan Geoscience Union Meeting, SSS23-19.