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[SSS25-24] 津波襲来に伴う死者の年令等依存性(7) 死亡率の伝統算定法吟味と改善
キーワード:東日本大震災、津波、死亡率、吟味と改善
1. はじめに
本論は地震(津波)に伴う伝統の死亡率算定法について問題点を指摘し,改善を計るものである.一般には,
死亡率(%)=「年令区分別」死者数/「年令区分別」地域人口・・・(1)
という簡単な算定式が広く用いられているが,算定結果の意味するところは見かけとは違って結構複雑である.それ故,この式の単純な適用で済みとはならない.中でも特に重要な問題は2つある.
第1の問題は,この算定式による限り-特に東日本大震災では-乳幼児側の死亡率が極端に小さく算定され,逆に高令者側では非常に大きな値となる等-死者発生の実態を正しく捉え切れていないのではという疑問である.
第2の問題は,式(1)の適用に際して,「地域人口をどの範囲で捉えるか」である.この点に関して,Sawai 1)は「既往研究では適用範囲(地域人口)に統一性がなく」死亡率算定時の基準化が急務と説いている.その通りであるが,まだ問題提起の段階に止まっている.
本論では,上記2つの異質の問題を併せて考察できるよう,死亡率算定の新たな提案を試みている.その上で,改訂版死亡率の算定結果を津波強度とか沿海域地形との関係等,さらには防災対応との関わり具合について再考察を試みている.
2. 死亡率算定時の問題点打開
第1の問題の解消に向けて,尾崎2)による「平常年の死亡率との対比」を基本とし,若干の改訂の上でシリーズ研究を進めてきた3).その結果,第1の問題は著しく改善した.つまり,乳幼児・若年層では低きに過ぎ,高令者側で極端に高い死亡率となる異常さは大きく低減した.今回,この方式をさらに発展させた.
2番目の問題に関係して,当初は関係Dataの入手容易性を理由に東北3県(岩手,宮城,福島)について,県人口を分母として話を始めた.その結果,県別の死亡率対比は可能となったものの,被災域外に居住する人々を含めた扱いとしていることから,見掛けの対比に止まってしまう(周知の片田の研究4)も同断である).そこで,津波襲来を受けた地域を「市区町村」単位の算定へと話を進めた.しかし,なお津波被害とは無関係な住民が多々おり,十全と言えるには問題が残った.
一方,本論の共同研究者の1人,小山を代表とする研究5)では関係地域をさらに細かく立ち入って「津波浸水地域」と「津波による家屋等流失域」を峻別した上で,関係地域在住の住民数を分母とする伝統の死亡率算定を実施している.これは上記のSawai 1)による指摘の好個の実践事例ともなっている.そこで,その結果を活用し,さらに改訂尾崎法による対比を導入することで,1番目の問題に加えて2番目の問題も解決へと進展させた.
なお,このようにして得られた基準化死亡率のうち,家屋等流失域の人口を母数とした場合が特に重要である.何故なら,羽鳥6)(1984)以来「津波死者はもっぱら一般家屋等の流失域において発生する」という事実を既に承知しているからである.
3.まとめ
以下は,今回成果の一端である.
①津波襲来に起因する死亡率の算定には,伝統の算定式に平常年の死亡率との対比を計ることが肝要である.
②死亡率算定時の人口として「津波による家屋等の流失域人口」を採用することが理にかなった手法である.
③津波による死の激甚性を「津波襲来時の死亡率」と「平常時の死亡率」を対比させることで定量化出来る.その結果,乳幼児・少年期のそれが平常時に比べて格段に高いことが判る.
④その中で,釜石市および周辺地区では乳幼児等の死亡率が他地区に比べてかなり低いことが改めて確認され,片田4)らの対津波防災教育の効果を示唆している.
⑤その他,津波高さ(浸水深)と今回得た死亡率との間に一定の関係を見出した.
参考文献
1) Sawai, M., Who is vulnerable during tsunamis? 1-18, 2012, ESCAP Spec. Rep.
2)尾崎,地震災害時および災害後の健康被害,厚生の指標,59,2012.
3)太田他, 2011年東日本大震災に伴う人間被害の激甚性(2~6) JpGU大会等.
4)片田,人が死なない防災,集英社新書,2012.
5)小山他,東北地方太平洋沖地震における浸水状況を考慮した市町村別・年齢階級別
死者発生状況,土木学会地震工学論文,2012.
6)羽鳥,津波による家屋の被害率,地震研彙報,59,1984.
本論は地震(津波)に伴う伝統の死亡率算定法について問題点を指摘し,改善を計るものである.一般には,
死亡率(%)=「年令区分別」死者数/「年令区分別」地域人口・・・(1)
という簡単な算定式が広く用いられているが,算定結果の意味するところは見かけとは違って結構複雑である.それ故,この式の単純な適用で済みとはならない.中でも特に重要な問題は2つある.
第1の問題は,この算定式による限り-特に東日本大震災では-乳幼児側の死亡率が極端に小さく算定され,逆に高令者側では非常に大きな値となる等-死者発生の実態を正しく捉え切れていないのではという疑問である.
第2の問題は,式(1)の適用に際して,「地域人口をどの範囲で捉えるか」である.この点に関して,Sawai 1)は「既往研究では適用範囲(地域人口)に統一性がなく」死亡率算定時の基準化が急務と説いている.その通りであるが,まだ問題提起の段階に止まっている.
本論では,上記2つの異質の問題を併せて考察できるよう,死亡率算定の新たな提案を試みている.その上で,改訂版死亡率の算定結果を津波強度とか沿海域地形との関係等,さらには防災対応との関わり具合について再考察を試みている.
2. 死亡率算定時の問題点打開
第1の問題の解消に向けて,尾崎2)による「平常年の死亡率との対比」を基本とし,若干の改訂の上でシリーズ研究を進めてきた3).その結果,第1の問題は著しく改善した.つまり,乳幼児・若年層では低きに過ぎ,高令者側で極端に高い死亡率となる異常さは大きく低減した.今回,この方式をさらに発展させた.
2番目の問題に関係して,当初は関係Dataの入手容易性を理由に東北3県(岩手,宮城,福島)について,県人口を分母として話を始めた.その結果,県別の死亡率対比は可能となったものの,被災域外に居住する人々を含めた扱いとしていることから,見掛けの対比に止まってしまう(周知の片田の研究4)も同断である).そこで,津波襲来を受けた地域を「市区町村」単位の算定へと話を進めた.しかし,なお津波被害とは無関係な住民が多々おり,十全と言えるには問題が残った.
一方,本論の共同研究者の1人,小山を代表とする研究5)では関係地域をさらに細かく立ち入って「津波浸水地域」と「津波による家屋等流失域」を峻別した上で,関係地域在住の住民数を分母とする伝統の死亡率算定を実施している.これは上記のSawai 1)による指摘の好個の実践事例ともなっている.そこで,その結果を活用し,さらに改訂尾崎法による対比を導入することで,1番目の問題に加えて2番目の問題も解決へと進展させた.
なお,このようにして得られた基準化死亡率のうち,家屋等流失域の人口を母数とした場合が特に重要である.何故なら,羽鳥6)(1984)以来「津波死者はもっぱら一般家屋等の流失域において発生する」という事実を既に承知しているからである.
3.まとめ
以下は,今回成果の一端である.
①津波襲来に起因する死亡率の算定には,伝統の算定式に平常年の死亡率との対比を計ることが肝要である.
②死亡率算定時の人口として「津波による家屋等の流失域人口」を採用することが理にかなった手法である.
③津波による死の激甚性を「津波襲来時の死亡率」と「平常時の死亡率」を対比させることで定量化出来る.その結果,乳幼児・少年期のそれが平常時に比べて格段に高いことが判る.
④その中で,釜石市および周辺地区では乳幼児等の死亡率が他地区に比べてかなり低いことが改めて確認され,片田4)らの対津波防災教育の効果を示唆している.
⑤その他,津波高さ(浸水深)と今回得た死亡率との間に一定の関係を見出した.
参考文献
1) Sawai, M., Who is vulnerable during tsunamis? 1-18, 2012, ESCAP Spec. Rep.
2)尾崎,地震災害時および災害後の健康被害,厚生の指標,59,2012.
3)太田他, 2011年東日本大震災に伴う人間被害の激甚性(2~6) JpGU大会等.
4)片田,人が死なない防災,集英社新書,2012.
5)小山他,東北地方太平洋沖地震における浸水状況を考慮した市町村別・年齢階級別
死者発生状況,土木学会地震工学論文,2012.
6)羽鳥,津波による家屋の被害率,地震研彙報,59,1984.