11:05 〜 11:20
[SSS28-02] 地震波速度変化に対するコーダ波の感度カーネルの定式化:ベクトル波への拡張(1)
キーワード:感度カーネル、コーダ波、ベクトル波
はじめに 地震波干渉法やコーダ波干渉法に基づき,地震や火山噴火などに伴う地下の地震波速度変化の空間分布を調べるには,感度カーネルを考慮したトモグラフィーを行う必要がある.コーダ波が卓越する短周期帯域においては,感度カーネルの計算は地震波散乱モデルに基づいて行われ,2次元1次等方散乱モデルに基づいたもの(Pacheco and Snieder, 2006),拡散モデルに基づいたもの(Pacheco and Snieder, 2005),多重散乱まで考慮した輻射伝達理論に基づいたもの(前田,2007;Obermann et al., 2013)などがこれまでに提案されている.中原(2015,地震学会)では,実体波(3次元)の1次等方散乱モデルに基づいた感度カーネルを新たに導出した.しかし,これまでの定式化はすべてスカラー波の枠組みに基づいており,ベクトル波である地震波の異なる成分への影響が理論的には明らかではない.そこで,本研究では,ベクトル波に基づく感度カーネルの定式化を開始した.その第1弾として,2次元一次散乱モデルに基づき,弾性波への簡単な拡張を行った結果について報告する.
感度カーネルの導出 干渉法などで得られた観測記録について,震源経過時刻におけるコーダ波の波群の到達時刻がだけ変化した場合,その到達時刻の変化とある場所のスローネス(地震波速度の逆数)変化率とを,感度カーネルを介して関係づけることができる(たとえば,Pacheco and Snieder, 2006).感度カーネルは,震源経過時刻に到達するコーダ波のすべての波群のうち,地震波速度が変化した領域を通過した波群の寄与の割合を表すものと解釈でき,各波群の重みはエネルギー密度で表される.本研究では2次元問題を扱い,エネルギー密度の計算にはスカラー波の等方1次散乱モデル(Kopnichev, 1977)を用いて計算する.ただし,スカラー波に対する感度カーネルの計算はすでにPacheco and Snieder(2006)により行われている.これに対して,本研究ではベクトル波への拡張を行う点が新しい.ここでの拡張のポイントは,ベクトル波の成分への分解を行う際には,エネルギー粒子の進行方向と振動方向を考え,振動方向を水平成分と鉛直成分に分解するというものである.例えば,P波のエネルギー粒子の場合,振動方向は進行方向と一致し,そのエネルギーを振動方向の方向余弦の2乗を用いて水平成分と鉛直成分に分配する.S波の場合は,振動方向は進行方向に直交するとして,同じく振動方向の方向余弦の2乗を用いて水平成分と鉛直成分に分配する.このような考え方を用いると,P波かS波のどちらか一つだけしか扱えないという制約はあるものの,従来のスカラー波の等方1次散乱モデルを少し拡張するだけで,感度カーネルを成分ごとに解析的に導出できることが分かった.その結果,水平成分と鉛直成分とでは,感度カーネルの表現が異なることが明らかになった.またそれに応じて,地震波速度の空間変化に対して,波群の到達時刻の変化の震源経過時間依存性も水平成分と上下成分では異なることが分かった.これらは従来のスカラー波の枠組みでは扱えなかったことで,本研究によるベクトル波への拡張による大きな成果である.一方で,スカラー波の感度カーネルに見られた震源と観測点の2か所に現れる鋭いピークは,今回のベクトル波の感度カーネルの場合にも確認できる.
まとめ
本研究では,2次元1次等方散乱モデルに基づき,ベクトル波の感度カーネルを新たに導出した.その結果,スカラー波の感度カーネルとは異なるベクトル波の感度カーネルの特徴が明らかになった.今回導出したカーネルは解析的に表現できる点は一つのメリットである.今後差分法による数値計算波形を用いて,結果の検証を進めていく予定である.今回の定式化は一つの波のモードの卓越を仮定した簡単なものであるが,並行して,ベクトル波へのより厳密な拡張も順次進めていく予定である.
感度カーネルの導出 干渉法などで得られた観測記録について,震源経過時刻におけるコーダ波の波群の到達時刻がだけ変化した場合,その到達時刻の変化とある場所のスローネス(地震波速度の逆数)変化率とを,感度カーネルを介して関係づけることができる(たとえば,Pacheco and Snieder, 2006).感度カーネルは,震源経過時刻に到達するコーダ波のすべての波群のうち,地震波速度が変化した領域を通過した波群の寄与の割合を表すものと解釈でき,各波群の重みはエネルギー密度で表される.本研究では2次元問題を扱い,エネルギー密度の計算にはスカラー波の等方1次散乱モデル(Kopnichev, 1977)を用いて計算する.ただし,スカラー波に対する感度カーネルの計算はすでにPacheco and Snieder(2006)により行われている.これに対して,本研究ではベクトル波への拡張を行う点が新しい.ここでの拡張のポイントは,ベクトル波の成分への分解を行う際には,エネルギー粒子の進行方向と振動方向を考え,振動方向を水平成分と鉛直成分に分解するというものである.例えば,P波のエネルギー粒子の場合,振動方向は進行方向と一致し,そのエネルギーを振動方向の方向余弦の2乗を用いて水平成分と鉛直成分に分配する.S波の場合は,振動方向は進行方向に直交するとして,同じく振動方向の方向余弦の2乗を用いて水平成分と鉛直成分に分配する.このような考え方を用いると,P波かS波のどちらか一つだけしか扱えないという制約はあるものの,従来のスカラー波の等方1次散乱モデルを少し拡張するだけで,感度カーネルを成分ごとに解析的に導出できることが分かった.その結果,水平成分と鉛直成分とでは,感度カーネルの表現が異なることが明らかになった.またそれに応じて,地震波速度の空間変化に対して,波群の到達時刻の変化の震源経過時間依存性も水平成分と上下成分では異なることが分かった.これらは従来のスカラー波の枠組みでは扱えなかったことで,本研究によるベクトル波への拡張による大きな成果である.一方で,スカラー波の感度カーネルに見られた震源と観測点の2か所に現れる鋭いピークは,今回のベクトル波の感度カーネルの場合にも確認できる.
まとめ
本研究では,2次元1次等方散乱モデルに基づき,ベクトル波の感度カーネルを新たに導出した.その結果,スカラー波の感度カーネルとは異なるベクトル波の感度カーネルの特徴が明らかになった.今回導出したカーネルは解析的に表現できる点は一つのメリットである.今後差分法による数値計算波形を用いて,結果の検証を進めていく予定である.今回の定式化は一つの波のモードの卓越を仮定した簡単なものであるが,並行して,ベクトル波へのより厳密な拡張も順次進めていく予定である.