14:00 〜 14:15
[SSS31-14] 神城断層(糸魚川静岡構造線活断層)の活動履歴
-白馬村蕨平における変動地形学的調査
キーワード:2014年長野県神城断層地震、地表地震断層、トレンチ掘削、左横ずれ変位
2014年11月22日長野県北部の深さ5kmを震源とするMw6.4の地震が発生した.この地震で糸静線活断層系の北部を構成する神城断層に沿って最大変位約90cm(上下成分)の地表地震断層が約9kmにわたり出現した(廣内ほか,2015など).この地震は西北西-東南東方向に圧力軸を持つ高角な東傾斜の逆断層が活動したと推定され,余震分布と合成開口レーダーの解析から震源断層の長さは約20kmとされた.
神城断層では詳細な活断層マップや変位量分布図が公表されている(松多ほか,2006など).またトレンチ調査から最終イベントが西暦841年の地震に該当するとされ,活動間隔は1250-1500年程度(奥村ほか,1998),ボーリングや地形・地質調査から上下成分の平均変位速度が2.2-2.7m/千年(松多ほか,2001)とされていた.この場合,一回の地震で3-4mの上下変位が期待される.
しかし,今回の地震の規模や変位量は,神城断層で推定されていた地震よりは一回り小さい地震であった.被害の程度や地震後に行われたトレンチ掘削調査などで1714年の信濃小谷地震が今回と類似した地震であったことが指摘され(鈴木ほか,2015など),比較的小さい被害地震を頻繁に発生させながら変動崖が成長した可能性がある.
地震断層は既知の活断層とよく一致したものの,地震断層が出現した範囲は予想されていた活断層セグメントとは異なっていることや,活動的と思われる活断層トレースには今回変位が認められないものがあることなどから今回出現した地震断層とは別の活断層上に地震断層が出現する地震が存在する可能性も指摘できる.
このように,白馬・神城地域で発生した古地震と今回の地震の関係は不明な点も多く,神城断層の活動履歴や変位量分布を詳細に調査する必要がある.
Suzuki et al., (2015)は地震前後の高密度LiDAR計測のデータを比較することで地震断層を発見できることを指摘し,大出地区南の姫川右岸(蕨平地区)で新たに地震断層を見出し,段丘の累積変位を指摘した.本発表はこの地区で2015年10~11月に実施した地形調査,ピット調査の速報である.
調査地点付近は米軍写真で確認すると水田または河床であり,調査時には下草が生い茂る杉林となっていた.米軍写真では完新世に形成されたと考えられる多段化した段丘地形を確認することが出来る.これら段丘面を大きく5段に分類し,上位から順にLa面・Lb1面・Lb2面・Lc1面・Lc2面とした.Lc2面は米軍写真撮影時には河床であった場所であり,他は水田として利用されていた場所である.
下草を伐採し,Suzuki et al., (2015)が指摘した北北東―南南西走向の低断層崖を改めて連続的に確認した.断層崖は東側が高く,Lc2面・Lc1面・Lb2面・Lb1面・La面上にそれぞれ約0.3-0.4m,0.5m,1.1m,1.6m,1.5mの上下変位があり段丘上に変位の累積が確認されるため,断層が繰り返し活動してきたことが示唆される.加えて,段丘崖は左横ずれ変位を受けており,Lc1面/Lc2面段丘崖やLb2面/Lc1面段丘崖などで約1.0m,Lb1面/Lb2面段丘崖で約5.0m,La面/Lb1面段丘崖で約7.5mの左横ずれの変位が認めらる.従って本地域は左横ずれ成分が卓越し,上下成分と左横ずれ成分の比は今回の地震と変位の累積した段丘とでは異なる可能性がある.
Lc1面でトレンチ掘削調査を行った結果,東傾斜の断層と関連する変形構造が確認され,最上部の水田土壌とその下位の砂層,および段丘構成礫層にほぼ同じ量の変位が認められた.この砂層に含まれる炭化物のC14年代はAD1660年以降-現世と測定されたため,この崖が今回の地震で出現したことが明らかになったが,今回の地震のひとつ前の地震を特定することはできなかった.
段丘の形成年代からイベントを推定するためにLa面で2カ所(崖の両側),Lb1面で1カ所(隆起側のみ),Lb2面で2カ所(崖の両側)のピットを掘削し,C14試料を採取した結果,La面の年代は2055-1900 Cal.BP以前,Lb1面の年代は1695-1535 Cal.BP,Lb2面の年代は1530-1355 Cal.BPであった.その結果,この断層は,AD420年以降少なくとも2回以上の活動があり,AD255年以降AD595 年以前までにも少なくとも1回の活動があることが認められる.この平均活動間隔は586-880年であり,比較的短い間隔で地表地震断層が出現する地震が存在することが明らかになった.また,この間の平均変位速度は,上下成分が0.8m/千年,左横ずれ成分が3.5m/千年程度と見積もられた.
神城断層では詳細な活断層マップや変位量分布図が公表されている(松多ほか,2006など).またトレンチ調査から最終イベントが西暦841年の地震に該当するとされ,活動間隔は1250-1500年程度(奥村ほか,1998),ボーリングや地形・地質調査から上下成分の平均変位速度が2.2-2.7m/千年(松多ほか,2001)とされていた.この場合,一回の地震で3-4mの上下変位が期待される.
しかし,今回の地震の規模や変位量は,神城断層で推定されていた地震よりは一回り小さい地震であった.被害の程度や地震後に行われたトレンチ掘削調査などで1714年の信濃小谷地震が今回と類似した地震であったことが指摘され(鈴木ほか,2015など),比較的小さい被害地震を頻繁に発生させながら変動崖が成長した可能性がある.
地震断層は既知の活断層とよく一致したものの,地震断層が出現した範囲は予想されていた活断層セグメントとは異なっていることや,活動的と思われる活断層トレースには今回変位が認められないものがあることなどから今回出現した地震断層とは別の活断層上に地震断層が出現する地震が存在する可能性も指摘できる.
このように,白馬・神城地域で発生した古地震と今回の地震の関係は不明な点も多く,神城断層の活動履歴や変位量分布を詳細に調査する必要がある.
Suzuki et al., (2015)は地震前後の高密度LiDAR計測のデータを比較することで地震断層を発見できることを指摘し,大出地区南の姫川右岸(蕨平地区)で新たに地震断層を見出し,段丘の累積変位を指摘した.本発表はこの地区で2015年10~11月に実施した地形調査,ピット調査の速報である.
調査地点付近は米軍写真で確認すると水田または河床であり,調査時には下草が生い茂る杉林となっていた.米軍写真では完新世に形成されたと考えられる多段化した段丘地形を確認することが出来る.これら段丘面を大きく5段に分類し,上位から順にLa面・Lb1面・Lb2面・Lc1面・Lc2面とした.Lc2面は米軍写真撮影時には河床であった場所であり,他は水田として利用されていた場所である.
下草を伐採し,Suzuki et al., (2015)が指摘した北北東―南南西走向の低断層崖を改めて連続的に確認した.断層崖は東側が高く,Lc2面・Lc1面・Lb2面・Lb1面・La面上にそれぞれ約0.3-0.4m,0.5m,1.1m,1.6m,1.5mの上下変位があり段丘上に変位の累積が確認されるため,断層が繰り返し活動してきたことが示唆される.加えて,段丘崖は左横ずれ変位を受けており,Lc1面/Lc2面段丘崖やLb2面/Lc1面段丘崖などで約1.0m,Lb1面/Lb2面段丘崖で約5.0m,La面/Lb1面段丘崖で約7.5mの左横ずれの変位が認めらる.従って本地域は左横ずれ成分が卓越し,上下成分と左横ずれ成分の比は今回の地震と変位の累積した段丘とでは異なる可能性がある.
Lc1面でトレンチ掘削調査を行った結果,東傾斜の断層と関連する変形構造が確認され,最上部の水田土壌とその下位の砂層,および段丘構成礫層にほぼ同じ量の変位が認められた.この砂層に含まれる炭化物のC14年代はAD1660年以降-現世と測定されたため,この崖が今回の地震で出現したことが明らかになったが,今回の地震のひとつ前の地震を特定することはできなかった.
段丘の形成年代からイベントを推定するためにLa面で2カ所(崖の両側),Lb1面で1カ所(隆起側のみ),Lb2面で2カ所(崖の両側)のピットを掘削し,C14試料を採取した結果,La面の年代は2055-1900 Cal.BP以前,Lb1面の年代は1695-1535 Cal.BP,Lb2面の年代は1530-1355 Cal.BPであった.その結果,この断層は,AD420年以降少なくとも2回以上の活動があり,AD255年以降AD595 年以前までにも少なくとも1回の活動があることが認められる.この平均活動間隔は586-880年であり,比較的短い間隔で地表地震断層が出現する地震が存在することが明らかになった.また,この間の平均変位速度は,上下成分が0.8m/千年,左横ずれ成分が3.5m/千年程度と見積もられた.