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[SSS32-P10] GNSS年周地殻変動と積雪荷重の対比から見る地盤構造の地域性
キーワード:地球の荷重変形、地殻変動の季節変動、堆積層
GNSSで観測される座標時系列データには、地震時のステップ的な変動や地震間のほぼ一定速度の変動などに加え、年周変動も見られる(例えば、Murakami and Miyazaki, 2001; Munekane et al., 2004)。Heki (2001)は、国土地理院GEONETの座標値データに基づき、期間1999.0~2001.0において東北地方の年周変動を調査し、東北地方が冬季に沈降していること、そして、この年周変動が積雪荷重で説明できることを示した。しかし、その後のデータが10年以上蓄積したこと、解析戦略の改定によって年周変動成分が小さくなる場合があったこと (中川・他, 2009) などから、この問題を再検討する必要性が出てきた。そこで、本研究では、より長期のデータに基づき、年周変化と積雪量との相関を調べた。その結果、一部の地域では両者に良い相関があること、また、両者の比率には地域性が見られること、そしてこの地域性は、地下構造の違いによって説明可能ということが分かった。
東北地方の年周変動を調べるために、国土地理院から提供されたGEONET観測点の位相データを、GIPSY-OASIS Ⅱ (version 6.3) (Zumberge et al., 1997)によって解析し、1日ごとの座標値データを求めて使用した。この座標時系列データから、年周・半年周を仮定し、年周変動成分を1年ごとに推定した。なお、本研究では上下成分のみを議論する。また、年周変動と比較するために、気象庁AMeDASの日別積雪深度データを使用した。期間は1999.5~2009.5の10年間、使用する観測点は東北地方のGEONETの観測点135点とAMeDAS観測所102点とした。
地域ごとに積雪量と年周変動を比較するため、東北地方を大きさ0.5×0.5のエリアに分割した。そして、1年ごとに推定した各観測点の年周変動をエリア内で平均し、その値をエリアの年周変動とした。同様に、AMeDAS観測所の積雪深度をエリア内で平均し、これをエリアの積雪深度とした。エリアの年周変動から、1999年8月1日に対する毎月の年周変動の変位(「年周変位」と定義する)を算出した。同様に、エリアの積雪深度から、毎月の積雪深度を推定した。エリアごとの年周変位と積雪深度の時間変化を調べたところ、最大積雪深度が150 cm以上となる積雪の多いエリアでは、概ね、両者の相関係数が0.6以上と良い相関を示すことが分かった。このため、これらの相関が高いエリアについて、さらに、両者の比である、積雪深度1 cmに対する年周変動の変位量(bとする)を計算した。
その結果、期間1999.5~2009.5において、最大積雪深度が150 cm以上となった8つのエリアのうち、地下水くみ上げの影響を受けた可能性があるエリア3つを除く、5つのエリア(青森のエリア1つ、新潟周辺のエリア4つ)において、年周変位と積雪深度の比率bを調べたところ、0.021-0.053 mm/cmだった。
この観測で得られた比率bの値と対比するため、地下構造の違いによって比率bにどの程度の値が期待されるのかをモデル計算により見積もった。まず、地下構造としてGutenberg - Bullen Aモデル (Sato et al., 1968)を仮定し、積雪密度が0.2~0.5 g/cm3 (河島・他, 2007)、積雪深度が100 cmの荷重を置いた場合の沈降量をSPOTL (Agnew, 1996) を用いて計算すると0.83-2.1 mmだった。この沈降量と積雪深度100 cmから求めた比率b(b_basement)は、0.0083-0.021 mm/cmとなった。観測で得られた比率bの範囲は、b_basementの範囲よりも大きい、すなわち、同じ荷重に対して、より変形が大きくなっている。
次に、本研究の対象領域には、厚い堆積層をもつ新潟平野が含まれるので、堆積層における比率bを見積もった。全国1次元地下構造モデル(暫定版)(Koketsu, 2008) における第1層~第12層を基に、新潟平野における堆積層の平均的なP波速度を 2600 m/s, S波速度を1100 m/s, 密度を 2140 kg/m3と仮定すると、ヤング率 7.2 GPaを得る。これに、基盤の場合と同様な積雪荷重を仮定すると、2.7-6.8e-7の歪みとなる。防災科学技術研究所J-SHIS(http://www.j-shis.bosai.go.jp)で公開されている地震基盤面の深度を基に、新潟平野での堆積層の厚さを8 kmとし、荷重変形はここでのみ生じると仮定すると、求めた歪みは変位2.2-5.4 mmに対応する。これは、比率b(b_sediment)が0.022-0.054 mm/cmであることに相当する。粗い見積もりではあるが、堆積層での変形を考慮することで、観測で得られた大きい比率bの値を説明できる。このことから、比率bの地域差は、積雪密度の違いだけでは説明できず、地下構造の違いによる影響が含まれていると考えられる。
本研究の結果は、GNSS測位によって、積雪荷重に対する固体地球の弾性レスポンスの地域性が議論できる可能性を示す重要な成果である。
東北地方の年周変動を調べるために、国土地理院から提供されたGEONET観測点の位相データを、GIPSY-OASIS Ⅱ (version 6.3) (Zumberge et al., 1997)によって解析し、1日ごとの座標値データを求めて使用した。この座標時系列データから、年周・半年周を仮定し、年周変動成分を1年ごとに推定した。なお、本研究では上下成分のみを議論する。また、年周変動と比較するために、気象庁AMeDASの日別積雪深度データを使用した。期間は1999.5~2009.5の10年間、使用する観測点は東北地方のGEONETの観測点135点とAMeDAS観測所102点とした。
地域ごとに積雪量と年周変動を比較するため、東北地方を大きさ0.5×0.5のエリアに分割した。そして、1年ごとに推定した各観測点の年周変動をエリア内で平均し、その値をエリアの年周変動とした。同様に、AMeDAS観測所の積雪深度をエリア内で平均し、これをエリアの積雪深度とした。エリアの年周変動から、1999年8月1日に対する毎月の年周変動の変位(「年周変位」と定義する)を算出した。同様に、エリアの積雪深度から、毎月の積雪深度を推定した。エリアごとの年周変位と積雪深度の時間変化を調べたところ、最大積雪深度が150 cm以上となる積雪の多いエリアでは、概ね、両者の相関係数が0.6以上と良い相関を示すことが分かった。このため、これらの相関が高いエリアについて、さらに、両者の比である、積雪深度1 cmに対する年周変動の変位量(bとする)を計算した。
その結果、期間1999.5~2009.5において、最大積雪深度が150 cm以上となった8つのエリアのうち、地下水くみ上げの影響を受けた可能性があるエリア3つを除く、5つのエリア(青森のエリア1つ、新潟周辺のエリア4つ)において、年周変位と積雪深度の比率bを調べたところ、0.021-0.053 mm/cmだった。
この観測で得られた比率bの値と対比するため、地下構造の違いによって比率bにどの程度の値が期待されるのかをモデル計算により見積もった。まず、地下構造としてGutenberg - Bullen Aモデル (Sato et al., 1968)を仮定し、積雪密度が0.2~0.5 g/cm3 (河島・他, 2007)、積雪深度が100 cmの荷重を置いた場合の沈降量をSPOTL (Agnew, 1996) を用いて計算すると0.83-2.1 mmだった。この沈降量と積雪深度100 cmから求めた比率b(b_basement)は、0.0083-0.021 mm/cmとなった。観測で得られた比率bの範囲は、b_basementの範囲よりも大きい、すなわち、同じ荷重に対して、より変形が大きくなっている。
次に、本研究の対象領域には、厚い堆積層をもつ新潟平野が含まれるので、堆積層における比率bを見積もった。全国1次元地下構造モデル(暫定版)(Koketsu, 2008) における第1層~第12層を基に、新潟平野における堆積層の平均的なP波速度を 2600 m/s, S波速度を1100 m/s, 密度を 2140 kg/m3と仮定すると、ヤング率 7.2 GPaを得る。これに、基盤の場合と同様な積雪荷重を仮定すると、2.7-6.8e-7の歪みとなる。防災科学技術研究所J-SHIS(http://www.j-shis.bosai.go.jp)で公開されている地震基盤面の深度を基に、新潟平野での堆積層の厚さを8 kmとし、荷重変形はここでのみ生じると仮定すると、求めた歪みは変位2.2-5.4 mmに対応する。これは、比率b(b_sediment)が0.022-0.054 mm/cmであることに相当する。粗い見積もりではあるが、堆積層での変形を考慮することで、観測で得られた大きい比率bの値を説明できる。このことから、比率bの地域差は、積雪密度の違いだけでは説明できず、地下構造の違いによる影響が含まれていると考えられる。
本研究の結果は、GNSS測位によって、積雪荷重に対する固体地球の弾性レスポンスの地域性が議論できる可能性を示す重要な成果である。