日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 火山の熱水系

2016年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 201A (2F)

コンビーナ:*藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、鍵山 恒臣(京都大学理学研究科)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、大場 武(東海大学理学部化学科)

16:00 〜 16:15

[SVC45-03] 地熱利用におけるスケール(析出物)に熱水系の変化が及ぼす影響について

*柳澤 教雄1 (1.産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)

キーワード:地熱エネルギー、スケール、熱水性状

火山の熱水活動の恩恵としての地熱発電や温泉、暖房などの地熱利用が世界各地で進められている。その利用に際し、熱水中の成分に起因する地上設備(配管、熱交換機など)へのスケール(析出物)の付着は、設備を維持するための大きな課題の一つである。そのため、熱水成分から利用温度領域で付着するスケールの種類やその付着速度を予測する必要がある。そして、長期の利用の間に、熱水性状の変化に伴い、スケールの付着状況が変化する事例もみられる。そこで、本発表では熱水系の性状変化に伴うスケールの変化の事例を示すことにする。
たとえば、岩手県の葛根田地熱発電所では、地下約3kmの葛根田花崗岩体と堆積岩体の境界付近に存在する地熱貯留層から熱水・蒸気を取り出して発電を行っている。その際、生産初期の熱水のpHは4付近であり、井戸には硫化銅鉱物やアンチモン、ヒ素鉱物が沈殿していた。しかし、数年後には熱水のpHは6付近となり、シリカ濃度低下に伴い、地化学温度も低下した。それに伴って、スケールの種類も四面銅鉱に変化するとともに、スケールの化学組成も硫黄が増加するなどの変化がみられた。
また、山形県肘折地域で実施されていた高温岩体試験では、地上から河川水を地下の人工貯留層にむけて注水し、加熱して高温の熱水・蒸気を取り出すものである。この場合、地下貯留層温度が高いときは、地上では少量のシリカが沈殿するのみであったが、冷却後は、炭酸カルシウムスケールが急速に沈殿するようになった。これは、地上から注水した水が、注入点付近の硬石膏を溶解することによりカルシウム濃度が上昇するが、貯留層温度が高いうちは、貯留層内で硬石膏が再沈殿することで地上には溶存カルシウム濃度は低くなる。しかし、貯留層温度の低下に伴い、地上に到達する熱水のカルシウム濃度が上昇し、地上で炭酸と反応して炭酸カルシウムを沈殿させるように変化する。