日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 活動的火山

2016年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、前田 裕太(名古屋大学)、座長:市原 美恵(東京大学地震研究所)、高木 朗充(気象研究所火山研究部)

09:15 〜 09:30

[SVC47-14] 西之島火山の活動把握を目指した多項目観測

*市原 美恵1篠原 雅尚1西田 究1酒井 慎一1山田 知朗1武尾 実1杉岡 裕子5浜野 洋三2長岡 優3高木 朗充3森下 泰成4西澤 あずさ4 (1.東京大学地震研究所、2.海洋開発研究機構、3.気象庁気象研究所、4.海上保安庁海洋情報部、5.神戸大学)

キーワード:火山、モニタリング、空振、海底地震計

小笠原諸島・西之島は,2013年11月に噴火活動を開始して新しい島が形成され,溶岩流出によって急速に成長した.このような離島での噴火活動を把握するための観測情報は,非常に限られている.本研究では,西之島火山の噴火活動の推移を把握することと,離島における火山活動のモニタリング手法を開発することを目的として,遠方の陸地での空振観測,西之島周辺での海底地震観測,および,海洋調査船上からの臨時観測を行った.本発表では,その概要を報告し,得られたデータを統合して推定された2015年2月27日以降の西之島火山の活動について議論する.
○観測
空振観測は,西之島東方に約130 km の距離にある父島で行っている.2014年4月26日からアレイ観測を開始し,2014年10月5日にオンラインの観測点を追加した.オンラインの観測点と気象庁の父島地震観測点のデータを用いて,1日1回自動解析により空振検出を行う.また,回収されたアレイデータと,父島気象観測所のラジオゾンデによる大気構造計測値を用い,大気構造による伝播経路の変化を考慮した空振振幅評価を行う.
海底地震計5台は,2015年2月27~28日にかけて海洋研究開発機構の海洋調査船かいれいKR15-03航海によって西之島設置され,2015年10月3~4日に,気象庁啓風丸KS15-07航海によって回収された.この海底地震計は,固有周波数1 Hz速度型3成分地震計を搭載している.西之島東南約13 km の地点に最初の海底地震計(NI11)を設置した. 2月27日午後には,西之島東方約6 kmの地点で停船し,船上より可視映像および空振データを取得した.その後,4台の海底地震計(NI21-NI51)を,約7 km の距離で西之島を囲むように設置した.
○結果
2月27日午後は,高頻度で小爆発を繰り返すストロンボリ式の活動をしていた.映像と,船上で計測した空振データ,および,NI11観測点の海底地震計データを比較した.空振は,6 km の距離を340 m/s で伝播することを考え,17.7秒ずらせた.地震は,伝播速度がよく分からないが,7秒程度ずらせると空振の振幅変化と対応がよい.空振データは,1-7 Hzで,海底地震計データは,4-8 Hz の帯域で見ると,噴火に対応した信号が明瞭になった.映像観測によると,小爆発がクラスター状に連続して発生して黒い噴煙を上げ小休止する,というのが繰り返されていた.個々のの小爆発に対応してパルス状の空振が見られ,小爆発クラスターに対応してひと固まりの紡錘状の波群が地震計で捉えられた.
2015年2月28日から10月3日までの海底地震計5台のデータを用い,紡錘状の波群の解析を行った.まず,2月28日17時頃に発生した15個のイベントについて,走時差に基づく暫定的な震源決定を行ったところ,震央は西之島付近と推定された.また,STA/LTA法により, イベントの自動検出を行った結果,期間中に363,367個のイベントが検出された.イベントの発生状況は7月中旬から変化し,1日あたりの個数が単調減少を始めた.それに伴い,1個のイベントの継続時間が単調に長くなっていった.一方,1時間毎の最大振幅は,3月が小さく,4月以降,徐々に増加し,5月頃に大きくなる.その後,減少するが,1日あたりの個数が減少を始める7月中旬以降は,再び徐々に大きくなるように見える.
船上観測を行った時期には,西之島の空振が父島に伝播しやすい大気構造にあり,父島でもほぼ同じ波形が捉えられていた.空振伝播計算によると,2015年4月初めまでは伝播しやすいが,その後は状況が悪くなり,6月以降はほとんど伝播できなくなった.したがって,海底地震計で検出されたイベントの発生状況が変化する7月中旬については,残念ながら計測不可能な状況であった.一方,伝播可能な時期について空振の振幅変化を調べたところ, 2015年1月から3月初めにかけて強度が増加しその後減少に転じている.そして、2015年5月後半は,伝播可能な状況であるにも関わらず,空振が検出されていない.伝播状況の変化を差し引いても,父島で観測される空振振幅の変化と海底地震計で得られたイベントの最大振幅の変化とはむしろ逆の傾向があるようである.
以上のように,遠方での空振観測は,伝播の影響を補正するための大気構造のデータがあれば,火山活動把握の助けになる.しかし,それだけでは不十分で時期も限られる.火山近傍に海底地震観測からは,重要な情報が得られる.今回のようなイベント解析の結果だけでもリアルタイムで伝送することができれば,有効なモニタリング手法となるだろう.