日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 活動的火山

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、前田 裕太(名古屋大学)

17:15 〜 18:30

[SVC47-P12] 傾斜波形解析から示唆される御嶽山2014年噴火の浸透率増大モデル

*前田 裕太1加藤 愛太郎1,2寺川 寿子1山中 佳子1堀川 信一郎1松廣 健二郎1奥田 隆1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山研究センター、2.東京大学地震研究所)

キーワード:御嶽山、水蒸気噴火、傾斜

御嶽山2014年噴火の開始前450秒間にvery long period(VLP)イベントと山上がりの傾斜変動が観測された。噴火開始25秒前に発生した最大のVLPイベントの波形インバージョン解析から火口直下の深さ600 mに位置する北北西-南南東走向の開口クラック解が得られ、既存断層群を用いた水蒸気の上昇に伴う亀裂の開閉と解釈できた(Maeda et al., 2015, EPS)。傾斜変動の波形インバージョンからは深さ1 kmの鉛直に近い開口クラックの膨張(体積変化量106 m3)が推定された。傾斜変動の最初の168秒間は時間の線形関数、それ以降は時間の指数関数(時定数84秒)で説明できることも明らかになった(前田他, 2015火山学会秋季大会)。しかし秋季大会時点ではこれらの解析結果を説明するモデルは作れていなかった。
本講演では秋季大会以降に考案した傾斜変動のソースモデルについて発表する。本モデルでは一定深度(圧力20 MPa; 深さ約1 km)での地下水の沸騰によってクラックの膨張が生じたと仮定する。
時間の線形関数は深部からの一定レートの熱供給による地下水の沸騰と解釈できる。波形インバージョンで推定した体積増加レートを用いて熱供給レートは1010 J/sと見積もられ、噴火後の地表からの熱放出率(寺田他, 2014火山学会)と整合的である。
時間の指数関数を実現するにはクラック内の水蒸気量が増加するとそれに伴ってますます地下水の沸騰が促進される正のフィードバックが必要である。水蒸気で満たされた1枚の大きなクラック(106 m3)を考えた場合、450秒という時間をかけた低速のクラック拡大は困難であることがLister and Kerr (1991, JGR)の力のバランスから示唆される。そこで我々は傾斜変動ソースを水蒸気で満たされた方向の揃った多数の微小クラックから成る領域と考え、これを水蒸気の浮力で駆動される鉛直浸透流としてモデル化する。ダルシー速度の式において時間的に大きく変化しうる量は浸透率のみである。このことを踏まえ、ソース領域内の水蒸気量が増加→空隙率が増加→浸透率が増加→ダルシー速度が増加→沸騰深度から水蒸気が上方へ流れ去るレートが増加→その分を賄うように新たな沸騰が起きてますます水蒸気総量が増加、という正のフィードバックを考える。このシナリオを定式化したところ、空隙率と浸透率が比例する場合に時間の指数関数が実現されうること、現実的な浸透率の値によって観測された指数関数の時定数(84秒)を説明しうることが示された。
以上まとめると、御嶽山噴火の直前過程は一定レートでの加熱による地下水の沸騰で始まり、空隙率・浸透率の増大に伴う沸騰レートの指数関数的な加速、水蒸気の上昇に伴うVLPイベントの発生を経て噴火に至ったと解釈できる。