日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 活動的火山

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、前田 裕太(名古屋大学)

17:15 〜 18:30

[SVC47-P32] 霧島山えびの高原硫黄山噴気の化学組成と安定同位体比

*大場 武1谷口 無我1 (1.東海大学理学部化学科)

キーワード:活火山、火山ガス、地球化学


えびの高原硫黄山は霧島火山地帯に位置する活火山であり,1768年の噴火で韓国岳北西麓に形成された(井村・小林,2001).気象庁の観測によると霧島山えびの高原硫黄山では2014年初頭から火山性地震の回数が増加し,2015年7月には火山性微動が観測され,2015年12月15日には硫黄山山頂火口内の南西側で弱い噴気の出現が確認された.これらの観測結果は硫黄山の火山活動が活発化しつつあることを示し,噴気の化学組成や安定同位体比にも変化が予測される.一般に噴気にはマグマ起源の成分が含まれ,その組成は火山活動の盛衰に応じて変化する.今回の火山活動の推移を予測することを目的とし,2015年12月22日に噴気の現地調査を行った.
試料の採取・分析
硫黄山では一か所で噴気の放出が目視され,その位置は北緯31度56分48.3秒,東経130度51分10.5秒であった.噴気を採取するために,金属チタン管を噴気孔に差し込み,管と孔の隙間を砂などで注意深く塞いだ.これは空気の混入を防ぐための措置である.次にチタン管にゴム管を接続し,ゴム管の出口を真空ガラス瓶のコックに接続した.真空ガラス瓶にはあらかじめ5M KOH水溶液20mlを封入しておいた.コックを慎重に開けることにより火山ガスをKOH水溶液に吸収させた.これとは別に,噴気のSO2/H2S比を決定するために,現場でKIO3-KI溶液と噴気を反応させた.安定同位体比の測定のために噴気を水冷したガラス二重管に通し,凝縮水を採取した.噴気の化学分析は小沢(1968)の方法に従った.
結果
噴気の温度は水の沸点に近く,HCl濃度は検出限界以下であった.火山活動の良い指標とされるSO2/H2S比は,0.027と低く,1994年に硫黄山で採取した噴気と大差がない.噴気のH2O-CO2-S三成分比を見ると,2015年の成分比は1994年に比較してCO2が相対的に増加している.今回採取した噴気の同位体比(dD)は-91‰で1994年に硫黄山で採取した二つの噴気の同位体比,-55,-80‰よりも低い.N2-Ar-Heの三成分比を見ると,今回採取した噴気は1991,1994年に採取した噴気に比べてHeが多い傾向が見られる.
考察
噴気の硫黄成分であるSO2とH2Sは以下の反応について平衡に達している場合が多い.
SO2 + 3H2 = H2S + 2H2O 式1.
式1の反応は温度に影響され,高温になると平衡状態は左に移動する.つまり,SO2/H2S比が上昇する.火山活動が活発化すると噴気のSO2/H2S比は上昇する場合がある.2015年12月に採取した噴気のSO2/H2S比は低い値であることから,熱水系浅部の温度が上昇している可能性は低いと考えられる.
今回採取した噴気はH2Oの安定同位体比が特に低く,凝縮の効果を受けているかもしれない.今回の噴気は,これまで噴気の放出が停止していた変質地帯で出現している.火山ガスの流れが一度途絶えると,ガスの通路は冷却する.そこに再びガスが通るとガスが冷やされ,水蒸気が部分的に凝縮する可能性は高い.仮に水蒸気が凝縮する以前の同位体比を推定すると,1994年に採取した硫黄山の噴気の同位体比に近い.凝縮で失われたH2Oを今回採取した噴気に付加し,元に戻したH2O-CO2-S三成分比は1991年に硫黄山で採取した噴気の成分比に近い.今後,噴気の放出が継続し,地殻内の火山ガス通路の温度が上昇すると,凝縮の効果は失われ,H2Oの比率が上昇すると予測される.
N2-Ar-He三成分比に関し,1991,1994年に硫黄山,新燃岳,御鉢で採取した噴気は,安山岩質マグマに特有な端成分と空気起源成分の混合線状に分布する.これに対し今回採取した噴気はこの混合線から外れHeに富む傾向が見られる.Kita et al(1993)は南西日本の火山,例えば,雲仙普賢岳ではHeに富む端成分が存在していることを報告している.硫黄山でこれまでと性質の異なるマグマが脱ガスしているのか?あるいは火山ガスが地殻を上昇する過程で何らかの変化がN2-Ar-He三成分比に起きたのか?測定データが一つだけなので,今後観測を繰り返し,Heが多い傾向が真実なのか確かめる必要がある.
謝辞
本研究実施のために,科研費「火山ガス観測により活火山ポテンシャル診断」(15K12485)を使用しました.気象庁地震火山部小久保一哉氏および福岡管区気象台は安全確保のために調査実施中に硫黄山の地震活動をモニタリングして下さいました.ここに記して感謝します.