日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS06] 大気化学

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:岩本 洋子(広島大学 生物圏科学研究科)、中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、豊田 栄(東京工業大学物質理工学院、共同)、江口 菜穂(Kyushu University)、座長:池田 恒平(国立環境研究所)

09:15 〜 09:30

[AAS06-07] 南極域黒色炭素の起源推定と収支解析

*大西 貴都1須藤 健悟1,2原 圭一郎3 (1.名古屋大学大学院環境学研究科 、2.海洋研究開発機構、3.福岡大学理学部)

キーワード:黒色炭素、昭和基地、南極域、除去過程

南極域では基地での観測から、冬から春にかけて黒色炭素(BC)の濃度が上昇することが知られている。南極大陸におけるBCの排出量は微量であり、BC濃度の増加は外部からの輸送によってもたらされるが、その輸送過程は明らかになっていない。そこで本研究では全球化学・気候モデルCHASERを用いて、排出起源、排出領域ごとに分類したBCについて、2005年から2015年における、南極域への輸送過程の推定を行った。

まず、南極観測船しらせと昭和基地で行われたBC濃度の観測とモデルの積算BC濃度の比較を行い、観測における濃度変化をモデルが再現していることを確認した 。次にモデルでは高濃度となる季節が、人為起源のBCについては冬であるのに対し、森林火災起源のBCでは春となることが分かった。モデルにおけるBC濃度の鉛直分布では地表から対流圏中層まで濃度の変化に乏しく、南アメリカ、南アフリカ、オーストラリアの比較的南極域に近い領域の寄与率が高いが、対流圏上層から成層圏下層では赤道や北半球起源のBC濃度の寄与率も高く、BCの高高度における長距離輸送の可能性が示唆された。

次に南緯60°以南の南極域へのBC流入量の推定を行い、森林火災起源BCの流入量が最も多く、冬から春にかけて極大となることが分かった。人為起源BCでは昭和基地と異なり季節性に乏しく、南極域への流出入は通年で起きており、経度180°付近でのBC流入が最も盛んであり、30oW付近では流出となっている。また地表では冬から春にかけて南極大陸からの強いBCの流出が起きており、BCのカタバ風による流出が示唆された。

次に南極内のBCの除去過程として湿性沈着、乾性沈着、60°S以北への流出の3つを考え、南極域におけるBCの平均滞留時間の推定を行った。年平均滞留時間はおよそ4~7日となり、遠隔地起源BCで長寿命となり、月平均滞留時間では、遠隔地起源BCで夏から秋に長寿命となり、近接地起源BCでは季節性に乏しくなった。さらに除去過程の寄与率を求めると、どの領域起源BCでも60oSからの流出による寄与が最も大きかったが、近接地ほど湿性沈着の寄与率が高くなった。これは近接地起源BCと異なり、遠隔地から来るBCはエイジングを免れたものであり、対流圏上層に滞留しているため、湿性沈着による寄与が小さくなったと考えられる。また遠隔地起源BCで認められた滞留時間の季節性は、BCが高高度に存在することから、南極成層圏に発達し、夏に弱まり、冬に強まる極渦の影響によって60oSからの流出が増加していると考えられる。