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[AHW23-07] 水の安定同位体比を用いた山地源流域における渓流水平均滞留時間の決定機構の比較
キーワード:源頭部流域、平均滞留時間、水同位体比、相対滞留時間指標、地形条件、水文条件
水の安定同位体比を用いた平均滞留時間推定においては、インプットとなる降水の同位体比変動がアウトプットの地下水や渓流水において減衰して伝わることを利用して計算が行われる。この手法によって正確に平均滞留時間を推定するには数年以上にわたる長期の安定同位体比観測が必要となる。一方、変動の減衰が平均滞留時間を反映することを利用し、相対的な滞留時間の長短を表現する相対滞留時間指標(ITTPs; inverse transit time proxies)が提案され、複数の研究で利用されている。これはある程度の期間観測された渓流水の同位体比変動の標準偏差を同期間の降水同位体比変動の標準偏差で割ったもので、値が小さいほど相対的に平均滞留時間が長いことになる。本研究では日本国内の8サイト25流域においてこの指標を用い、各流域の地形特性および流出特性を表す指標との関係から平均滞留時間を規定する要因を比較した。流域面積とITTPsとの関係は面積が小さい流域では平均滞留時間の違いが大きいものの、流域面積が拡大すると比較的長い平均滞留時間に収束して行く傾向が見られた。地形特性として、比高、平均勾配G、平均流路長L、L/G比、および地形指数との関係を見た。これらの情報が入手可能な流域で見ると、サイトごとに近い値で固まることが多く、サイト間を通じて特に明瞭な関係性を示すパラメータは見られなかった。このうち、L/G比とITTPsとの関係をデータが利用できた3サイトにおいて見ると、緩やかな関係が見られた。すなわち、L/G比が小さい範囲ではITTPsが大きい流域も小さい流域も存在したが、L/G比が大きくなるとITTPsは小さい値に収束していった。平均勾配Gはサイト内で比較的近い値を取ったため、この関係は主に流路長Lによって規定されることになる。一方で、年間の日流量の標準偏差とITTPsとの関係を見ると、流量変動の大小に関わらずITTPsは比較的一定の値を示した。流量変動は基岩地質の影響を受けることが指摘されているが、現時点の解析では流量変動が同位体比変動に与える影響は小さいことが示唆され、結果的に平均滞留時間の違いとしては現れにくいことが考えられる。今後、解析データを整備した上で、平均滞留時間決定に関してサイト横断的な支配要因を見いだすことが可能か、その場合どのようなメカニズムが働くかを検討していく。