日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 熊本地震に伴う地表水と地下水の変化

2018年5月22日(火) 13:45 〜 15:15 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:嶋田 純(熊本大学大学院自然科学研究科)、中川 啓(長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)、細野 高啓(熊本大学大学院先導機構、共同)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、座長:細野 高啓(熊本大学先導機構)、中川 啓(長崎大学大学院環境科学研究科)

14:10 〜 14:30

[AHW24-03] 熊本地震に伴う地殻変動 −水前寺付近の地表断層群と阿蘇谷での大きな水平変位−

★招待講演

*藤原 智1森下 遊1中埜 貴元1小林 知勝1矢来 博司1 (1.国土交通省 国土地理院)

キーワード:熊本地震、地殻変動、地表断層、液状化、だいち2号

1.はじめに

2016年熊本地震では地表の広範囲で地殻変動による変位が生じており、国土地理院では陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)のSARデータを用いてその変位を面的に検出している。これらの地表変位の大部分は震源断層の断層運動で説明できるものの、地表には震源断層の動きでは説明できない複雑な変位が数多く現れている(Fujiwara et al. 2016,EPS; Fujiwara et al. 2017, EPSL)。

本報告では、これらの中でも比較的平らな地形の場所で発生し、阿蘇や熊本地区の地下水の挙動に影響を与えたのではないかと考えられる:

(1)熊本市内の水前寺周辺に数多く現れた正断層群

(2)阿蘇山北部の阿蘇谷で発生した3mを超える水平変位

を中心に紹介する。

2.地殻変動と付随した各種の地表の変位

熊本地震では、地殻変動が広範囲に複雑に存在しており、地上のGNSS観測網に加えてALOS-2のSARデータを用いて3次元の地殻変動分布の詳細を求めた。地殻変動は震源断層とされている布田川断層帯に沿って1m以上の変位が分布している。この地殻変動の分布から地下の断層モデルを作成すると、布田川断層帯だけではなく、南西側の日奈久断層帯や北東側の阿蘇カルデラの内部までの断層が動いたことがわかった。熊本地震で特徴的なのは、地表付近で小規模ながらも非常に多くの断層運動状の変位や非造構性ながらも非常に大きな水平変位等が現れたことであり、こうした副次的な変位が各所で見られた。

3.水前寺付近の地表断層群

熊本市内の水前寺公園(水前寺成趣園)周辺に、北北西−南南東方向の走向を持つ正断層群が地表に現れた(Fig 1)。各断層の間隔は1km程度で長さは5km程度のものが10本以上確認された。各断層の変位量は数cm程と非常に小さいものの、鋸の歯状に整然と変位が連なっているのが特徴である。変位の形態から、布田川断層帯の右横ずれ運動に伴い、東北東−西南西の伸長場によって断層群が出現したと考えられる。微小ながらも地形との相関もあるため、過去から同様の運動があったことを示唆するものである。また、これらのごく一部は国土地理院の活断層図で新たに活断層として認定されている。なお、深さ数kmの余震が本地域で発生しており、ある程度の深さまで「根」をもつ活断層の可能性がある。

4.阿蘇谷での3mを超える水平変位

阿蘇谷北西部の内牧、狩尾及び的石の3地区に最大3mを超える独立した大きな水平変位が発生した(Fig 2)。これらの変位に共通するのは:
・上下成分が水平成分に比べて非常に小さい
・周囲や遠方に変位が及んでいない
・北西側に圧縮(短縮)、南東側に引っ張り(伸長)による亀裂が多数分布
・およそ1万年前に存在した湖の湖底堆積物が厚い場所で発生した
であり、これらのことから、わずかに傾斜した水分の多い湖底堆積物で熊本地震の地震動が増幅・反射することで、地下数10mほどの場所が液状化を起こし、その上の層で側方流動が発生し、各地区の領域がそれぞれ変位した可能性がある。