14:30 〜 14:45
[AHW24-04] 熊本地震による地下水位変化メカニズム
キーワード:熊本地震、広域地下水流動系、地下水位変化、地震断層
2016年4月14日21時26分、熊本県熊本地方を震央とする最大震度7の前震と、その28時間後の4月16日1時25分に同じく熊本県熊本地方を震央とする最大震度7を観測する『熊本地震』が発生した。震災によって多数の犠牲者ならびに甚大な被害が報道される中、震災直後に起こった水前寺成趣園の湧水池の池枯れ現象に象徴されるように、地下水についても流動機構に何らかの変化が起こったことが明らかとなった。一般に、巨大地震が地域水文環境に変化をもたらす基本原理には、地殻歪量の変化、地震動による透水性の変化、地震断層を通じた水の移動、などが提案されている。しかしながら、特に直下型の地震に対応した水文環境のレスポンスを記録できる観測井戸が存在するか否かは、いくつかの地震観測井戸を除き偶然によるところが大きいため、検証の機会がいつでも存在するわけではない。したがって、広域地下水流動系におけるコサイスミックな水文環境の変化メカニズムについては、まだ不明な点も多く残されている。
熊本地域は周辺住民約100万人の飲用水源を地下水に頼る日本随一の地下水都市域である。こうした背景から,同地域には多くの地下水観測井戸が設置されており、少なくとも100カ所以上の地点において地震前後を通して広域的な地下水位変動を記録したデータが入手可能な状況となっている。これほど密な地下水観測井戸が設置された地下水地域において、すなわち、地震前後の地下水位変化を記録できる観測井戸がこれほど多く設置されている地域において、今回のような大規模な横ずれ断層地震が起こった例は世界でも極めて稀である。本研究では,観測網の発達した熊本地域の広域地下水流動系を対象に,まずはこうした水位変動を引き起こした原因を究明することから始め、最終的には地下水水質変化特徴ならびに帯水層中の菌叢変化特性の理解までを含め、熊本地震前後の地下水環境の変化メカニズムを解明することを目的に調査を継続してきた。こうした中、震災から2年余りが経過し、水位変動メカニズムについてはその全貌が明らかとなってきた。本発表では、これまでの国内外の学会において我々のグループが発表してきた知見に、補完的な情報を新たに加えた形で熊本の直下型地震による水位変化メカニズムの総括を試みる。
これまでの研究結果から、本震後45日間に見られた最も顕著な水位変動特徴を三つに分類した。すなわち、A. 本震直後に起こった江津湖南部に位置する本震震央付近から植木地方にまで南北に帯状に分布する顕著な地下水位低下、B. 本震直後に起こった沿岸地域での水位上昇、C. 本震発生14日後以降に顕著になった阿蘇西麓地域から平野に差しかかる一帯での水位上昇。まず、Aの現象を引き起こした要因は、水位低下地帯と新たに生じた断層系の分布が位置的一致することなどから、本震直後に新たに形成された水前寺断層帯の伸長裂罅系に沿って地表や帯水層の水が深部に呑み込まれたためであると結論された。続いて、Bの現象を引き起こした要因は、現場状況ならびに酸素・水素安定同位体的特徴から、液状化に起因することが明らかとなった。最後に、Cの現象を引き起こした要因は、酸素・水素同位体トレーサーを用いた解析から、地振動により透水性が上昇することで山体地下水帯水層の流動が促進され阿蘇西麓山体や台地山麓部に賦存していた地下水が第二帯水層中に新たに付加したためであることであることが、明らかにされた。
上記の地下水位変動の傾向から明らかになった広域地下水流動変化は、同時並行で推進している他の研究活動から見えてきた、例えば地表水流動変化、山体湧水流動変化、地下水温分布変化、広域地下水水質変化など、いずれ特徴とも調和的な結果となっており、一連の現象を多角面から説明できる状況にきている。特に、本研究は帯水層を切って生じた深部にまで通じる新たな断層系によって地表の水が地下に呑み込まれたという水位低下現象を世界で初めて捉えることができ、極めて重要な発見であるといえる。また、地震前後の酸素・水素安定同位体比変化を、広域での地下水流動系全域を通してこれほど詳細に捉えた研究もこれまでになく、特にこの2点の成果については専門的な解析を通じて論文化を急いでいる。以上のように、一連の研究活動により、熊本地域の広域地下水流動系において直下型地震による水文環境変化の総合的な理解が各段に進歩しようとしてる。これらの成果は、地域の水利用や保全を推進するうえで重要な情報となるばかりでなく、グローバルな視点での学問領域における進歩に大きく貢献できると期待される。
熊本地域は周辺住民約100万人の飲用水源を地下水に頼る日本随一の地下水都市域である。こうした背景から,同地域には多くの地下水観測井戸が設置されており、少なくとも100カ所以上の地点において地震前後を通して広域的な地下水位変動を記録したデータが入手可能な状況となっている。これほど密な地下水観測井戸が設置された地下水地域において、すなわち、地震前後の地下水位変化を記録できる観測井戸がこれほど多く設置されている地域において、今回のような大規模な横ずれ断層地震が起こった例は世界でも極めて稀である。本研究では,観測網の発達した熊本地域の広域地下水流動系を対象に,まずはこうした水位変動を引き起こした原因を究明することから始め、最終的には地下水水質変化特徴ならびに帯水層中の菌叢変化特性の理解までを含め、熊本地震前後の地下水環境の変化メカニズムを解明することを目的に調査を継続してきた。こうした中、震災から2年余りが経過し、水位変動メカニズムについてはその全貌が明らかとなってきた。本発表では、これまでの国内外の学会において我々のグループが発表してきた知見に、補完的な情報を新たに加えた形で熊本の直下型地震による水位変化メカニズムの総括を試みる。
これまでの研究結果から、本震後45日間に見られた最も顕著な水位変動特徴を三つに分類した。すなわち、A. 本震直後に起こった江津湖南部に位置する本震震央付近から植木地方にまで南北に帯状に分布する顕著な地下水位低下、B. 本震直後に起こった沿岸地域での水位上昇、C. 本震発生14日後以降に顕著になった阿蘇西麓地域から平野に差しかかる一帯での水位上昇。まず、Aの現象を引き起こした要因は、水位低下地帯と新たに生じた断層系の分布が位置的一致することなどから、本震直後に新たに形成された水前寺断層帯の伸長裂罅系に沿って地表や帯水層の水が深部に呑み込まれたためであると結論された。続いて、Bの現象を引き起こした要因は、現場状況ならびに酸素・水素安定同位体的特徴から、液状化に起因することが明らかとなった。最後に、Cの現象を引き起こした要因は、酸素・水素同位体トレーサーを用いた解析から、地振動により透水性が上昇することで山体地下水帯水層の流動が促進され阿蘇西麓山体や台地山麓部に賦存していた地下水が第二帯水層中に新たに付加したためであることであることが、明らかにされた。
上記の地下水位変動の傾向から明らかになった広域地下水流動変化は、同時並行で推進している他の研究活動から見えてきた、例えば地表水流動変化、山体湧水流動変化、地下水温分布変化、広域地下水水質変化など、いずれ特徴とも調和的な結果となっており、一連の現象を多角面から説明できる状況にきている。特に、本研究は帯水層を切って生じた深部にまで通じる新たな断層系によって地表の水が地下に呑み込まれたという水位低下現象を世界で初めて捉えることができ、極めて重要な発見であるといえる。また、地震前後の酸素・水素安定同位体比変化を、広域での地下水流動系全域を通してこれほど詳細に捉えた研究もこれまでになく、特にこの2点の成果については専門的な解析を通じて論文化を急いでいる。以上のように、一連の研究活動により、熊本地域の広域地下水流動系において直下型地震による水文環境変化の総合的な理解が各段に進歩しようとしてる。これらの成果は、地域の水利用や保全を推進するうえで重要な情報となるばかりでなく、グローバルな視点での学問領域における進歩に大きく貢献できると期待される。