[AOS16-P01] 有明海・天草灘におけるpHとAOUの関係性の季節変化
キーワード:pH、海洋酸性化、見かけの酸素消費量
1. はじめに
人間活動によって大気中に放出された二酸化炭素を海洋が吸収し引き起される海水pHの低下、すなわち「海洋酸性化」による海洋生態系への影響が懸念されている。外洋域における海洋酸性化研究が進展する一方、生物生産ならびに有機物分解が活発で、河川等から流入する陸起源物質の影響も強く受ける沿岸域や縁辺海では、酸性化に対する海洋の応答が複雑であり、その理解は大きく遅れている。九州西部に位置する有明海は、筑後川など多くの流入河川から多量の栄養塩が供給され、生物生産が活発な半閉鎖的海域の一つであり、近年の海水pHの時系列観測データは減少傾向を示している。また、この有明海由来の沿岸水は、有明海の西方に位置する天草灘の海洋環境にも影響を及ぼしていると考えられる。そこで本研究では、生物活動が活発になる春季から秋季かけての有明海と天草灘における海水中のpH分布の特徴を把握するとともに、有機物分解に伴う二酸化炭素供給の指標となる“みかけの酸素消費量(AOU)”とpHの関係性を明らかにすることを目的とした。
2. 方法
長崎大学水産学部付属練習船鶴洋丸航海により、2016年6、8、10月に天草灘の五島福江島南方海域で、また2017年5、9月に有明海奥部から天草灘にかけての観測線上で、表層バケツ採水とCTD-ニスキン鉛直採水を行った。pHは、ガラス/比較電極電池を用いた25℃での電位差計測により、TRIS緩衝液と海水試料の起電力を測定し、総水素イオン濃度スケールで値を求めた。水温、塩分、溶存酸素(DO)はCTD付属のセンサーで測定し、これらの値からAOUを算出した。栄養塩はオートアナライザーを用いて、クロロフィルa濃度はDMF抽出Welschmeyer蛍光法によって測定した。
3. 結果・考察
有明海では、5月と9月ともに奥部の底層付近でpH 7.9以下の低pH水が認められ、表層ならびに湾口部に向かってpHが高くなる傾向を示した。低pH水の分布は低DO水と、高pH水の分布は高クロロフィル水との対応がみられた。天草灘では、いずれの観測でも深層に低pH水が確認され、五島海底谷内の底層ではpH 7.6以下に達していた。有明海と天草灘ともに、pHとAOUの間に相関関係が認められたことから、水柱での有機物の微生物分解に伴う二酸化炭素の生成がpH低下の主な要因と考えられた。AOUあたりのpHの減少幅は、5月には有明海と天草灘で違いがほとんど無かったのに対して、9月には有明海奥部、島原沖、天草灘と沖合に向かうについて大きくなっていた。また、天草灘の中深層では、AOUが約100 μmol/L以下の範囲内において、AOUあたりのpHの減少幅が春季から秋季にかけて大きくなる傾向を示すことが明らかになった。これらの結果は、天草灘の水柱で分解される有機物の質が季節によって異なっており、その影響を受けてpHとAOUの関係性が季節的に変化する可能性を示唆している。
人間活動によって大気中に放出された二酸化炭素を海洋が吸収し引き起される海水pHの低下、すなわち「海洋酸性化」による海洋生態系への影響が懸念されている。外洋域における海洋酸性化研究が進展する一方、生物生産ならびに有機物分解が活発で、河川等から流入する陸起源物質の影響も強く受ける沿岸域や縁辺海では、酸性化に対する海洋の応答が複雑であり、その理解は大きく遅れている。九州西部に位置する有明海は、筑後川など多くの流入河川から多量の栄養塩が供給され、生物生産が活発な半閉鎖的海域の一つであり、近年の海水pHの時系列観測データは減少傾向を示している。また、この有明海由来の沿岸水は、有明海の西方に位置する天草灘の海洋環境にも影響を及ぼしていると考えられる。そこで本研究では、生物活動が活発になる春季から秋季かけての有明海と天草灘における海水中のpH分布の特徴を把握するとともに、有機物分解に伴う二酸化炭素供給の指標となる“みかけの酸素消費量(AOU)”とpHの関係性を明らかにすることを目的とした。
2. 方法
長崎大学水産学部付属練習船鶴洋丸航海により、2016年6、8、10月に天草灘の五島福江島南方海域で、また2017年5、9月に有明海奥部から天草灘にかけての観測線上で、表層バケツ採水とCTD-ニスキン鉛直採水を行った。pHは、ガラス/比較電極電池を用いた25℃での電位差計測により、TRIS緩衝液と海水試料の起電力を測定し、総水素イオン濃度スケールで値を求めた。水温、塩分、溶存酸素(DO)はCTD付属のセンサーで測定し、これらの値からAOUを算出した。栄養塩はオートアナライザーを用いて、クロロフィルa濃度はDMF抽出Welschmeyer蛍光法によって測定した。
3. 結果・考察
有明海では、5月と9月ともに奥部の底層付近でpH 7.9以下の低pH水が認められ、表層ならびに湾口部に向かってpHが高くなる傾向を示した。低pH水の分布は低DO水と、高pH水の分布は高クロロフィル水との対応がみられた。天草灘では、いずれの観測でも深層に低pH水が確認され、五島海底谷内の底層ではpH 7.6以下に達していた。有明海と天草灘ともに、pHとAOUの間に相関関係が認められたことから、水柱での有機物の微生物分解に伴う二酸化炭素の生成がpH低下の主な要因と考えられた。AOUあたりのpHの減少幅は、5月には有明海と天草灘で違いがほとんど無かったのに対して、9月には有明海奥部、島原沖、天草灘と沖合に向かうについて大きくなっていた。また、天草灘の中深層では、AOUが約100 μmol/L以下の範囲内において、AOUあたりのpHの減少幅が春季から秋季にかけて大きくなる傾向を示すことが明らかになった。これらの結果は、天草灘の水柱で分解される有機物の質が季節によって異なっており、その影響を受けてpHとAOUの関係性が季節的に変化する可能性を示唆している。