[BBG02-P04] カナダ・アビティビ緑色岩帯Potterdoal鉱床における硫化物と有機物の地球化学的研究
キーワード:太古代、熱水活動、火山性塊状硫化物鉱床、メタン酸化菌
初期太古代において,海底熱水噴出孔近傍は生命が誕生し,初期進化が行われた場所であると考えられている[1].特に約27億年前には海底熱水活動が活発化し,多数の火山性塊状硫化物(VMS)鉱床が形成され[2],それにはしばしば有機物も含まれていることが知られている.しかしながら27億年前のVMS鉱床を形成した硫黄源は何か,熱水活動近傍の有機物は化学合成細菌に由来するものなのかはよくわかっていない.また27億年前はメタン酸化菌が活発に活動を始めたと考えられているが[3],当時の海洋においてメタン酸化菌の代謝源であるメタンが十分量存在していたかは定かではない.そこで,27億年前の海洋環境及び海底熱水活動に関わる微生物活動を復元していくために,約27億年前に形成された地層が分布するカナダ・アビティビ緑色岩帯ムンロー地域に胚胎されるVMS鉱床を本研究対象とした.ムンロー地域にはポッター鉱山とポッタードール鉱山の二つのVMS鉱床を胚胎しており,ポッター鉱山では過去の事前調査により地球化学的研究がなされているため,本研究ではポッタードール鉱山に着目し, (1)鉱床の形成過程と硫黄源の特定;(2)ポッタードール鉱山における海洋中の微生物活動の推定;(3)ポッター鉱山における地球化学的研究結果と比較を通して、27億年前のムンロー地域全体での微生物活動を復元することを目的とした.
ポッタードール鉱山の塊状硫化物は主に黄銅鉱,閃亜鉛鉱,黄鉄鉱で構成されており,硫化鉱物が層状構造を示していたことから海底に沈殿し形成されたことがわかった.また閃亜鉛鉱中のFeS含有量から,ほとんどの硫化鉱物は熱力学的平衡状態において一定の硫黄フガシティー(10-10付近)で沈殿したと考えられる.さらに,VMS鉱床の末端部ではチャートや砂岩がみられ,VMS鉱床形成と同時期に化学沈殿・砕屑性堆積が行われていたことがわかった.またこれら堆積岩の角礫化した部分には黄鉄鉱が含まれており,ここにも熱水活動の痕跡が見られた.全岩の硫黄安定同位体組成(d34S)は,塊状硫化物で-0.1~+2.0‰(CDT),堆積岩中に含まれる黄鉄鉱では+5.0~+6.9‰(CDT)であった.すべてのサンプルで計7‰の同位体の幅が生じており,これは鉱床の形成に海洋中の硫酸が関与していたと考えられる。硫酸は黄鉄鉱よりも軽い同位体組成を取り得ないので,当時の海洋中の硫酸のd34Sは+6.9‰(CDT)よりも重いと考えられる.
サンプル中に含まれる有機炭素含有量は,塊状硫化物で0.0~0.5wt.%C,堆積岩で0.2~1.0wt.%Cであった.さらにこれらの岩石からケロジェンを抽出しラマン分光分析をおこなったところ,塊状硫化物(Pd3)中のケロジェンではD1バンドの半値全幅から変成温度が291±30℃となり,太古代の岩石としては比較的変成度が低いことがわかった.
ポッタードール鉱山のサンプルに含まれる有機物の炭素安定同位体組成(d13Corg.)は,-43.1~-31.8‰(PDB)の範囲の値を示し,これよりメタン酸化菌の存在が示唆された.一方でポッター鉱山のサンプルのd13Corg.は-49.6~-39.6‰(PDB)となり,ポッタードール鉱山よりもやや軽くなる傾向を示した.
ポッター鉱山における推定鉱石埋蔵量は,ポッタードール鉱山の約3倍であるとされている[4].これはポッター鉱山のほうが熱水活動の規模が大きかったことを示しており,その差が有機物の熱分解量に影響を与えた可能性がある.すなわち,ポッター鉱山の方がより有機物の熱分解が進み,より多くのメタンを海洋中に供給していたと考えられる.これによりメタン酸化菌の活動がより活発化し,結果としてポッター鉱山の方がd13Corg.が軽くなったと考えられる.
References
[1]Baross and Hoffman, 1985, Origins of Life and Evolution of the Biosphere, [2]Bekker et al., 2010, Economic Geology, [3]Hayes et al., 1994, Early Life on Earth, [4]Epp, 1997, unpublished MSc thesis, McMaster University.
ポッタードール鉱山の塊状硫化物は主に黄銅鉱,閃亜鉛鉱,黄鉄鉱で構成されており,硫化鉱物が層状構造を示していたことから海底に沈殿し形成されたことがわかった.また閃亜鉛鉱中のFeS含有量から,ほとんどの硫化鉱物は熱力学的平衡状態において一定の硫黄フガシティー(10-10付近)で沈殿したと考えられる.さらに,VMS鉱床の末端部ではチャートや砂岩がみられ,VMS鉱床形成と同時期に化学沈殿・砕屑性堆積が行われていたことがわかった.またこれら堆積岩の角礫化した部分には黄鉄鉱が含まれており,ここにも熱水活動の痕跡が見られた.全岩の硫黄安定同位体組成(d34S)は,塊状硫化物で-0.1~+2.0‰(CDT),堆積岩中に含まれる黄鉄鉱では+5.0~+6.9‰(CDT)であった.すべてのサンプルで計7‰の同位体の幅が生じており,これは鉱床の形成に海洋中の硫酸が関与していたと考えられる。硫酸は黄鉄鉱よりも軽い同位体組成を取り得ないので,当時の海洋中の硫酸のd34Sは+6.9‰(CDT)よりも重いと考えられる.
サンプル中に含まれる有機炭素含有量は,塊状硫化物で0.0~0.5wt.%C,堆積岩で0.2~1.0wt.%Cであった.さらにこれらの岩石からケロジェンを抽出しラマン分光分析をおこなったところ,塊状硫化物(Pd3)中のケロジェンではD1バンドの半値全幅から変成温度が291±30℃となり,太古代の岩石としては比較的変成度が低いことがわかった.
ポッタードール鉱山のサンプルに含まれる有機物の炭素安定同位体組成(d13Corg.)は,-43.1~-31.8‰(PDB)の範囲の値を示し,これよりメタン酸化菌の存在が示唆された.一方でポッター鉱山のサンプルのd13Corg.は-49.6~-39.6‰(PDB)となり,ポッタードール鉱山よりもやや軽くなる傾向を示した.
ポッター鉱山における推定鉱石埋蔵量は,ポッタードール鉱山の約3倍であるとされている[4].これはポッター鉱山のほうが熱水活動の規模が大きかったことを示しており,その差が有機物の熱分解量に影響を与えた可能性がある.すなわち,ポッター鉱山の方がより有機物の熱分解が進み,より多くのメタンを海洋中に供給していたと考えられる.これによりメタン酸化菌の活動がより活発化し,結果としてポッター鉱山の方がd13Corg.が軽くなったと考えられる.
References
[1]Baross and Hoffman, 1985, Origins of Life and Evolution of the Biosphere, [2]Bekker et al., 2010, Economic Geology, [3]Hayes et al., 1994, Early Life on Earth, [4]Epp, 1997, unpublished MSc thesis, McMaster University.