日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS04] 雲降水過程の統合的理解に向けて

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:鈴木 健太郎(東京大学大気海洋研究所)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、Hirohiko Masunaga

[AAS04-P08] ALOS-2 ScanSAR干渉法による山岳風下波に伴う水蒸気擾乱の検出と数値シミュレーションによる再現実験

*木下 陽平1森下 遊2平林 由希子3 (1.一般財団法人リモート・センシング技術センター、2.国土地理院、3.東京大学生産研究所)

キーワード:InSAR、山岳風下波、メソスケールシミュレーション、水蒸気観測

山岳風下波は山岳波に含まれるモードのひとつであり, 成層安定な大気のもとで対流圏中を山頂から風下方向へ水平伝搬する重力波である. 山岳風下波はその局所的鉛直風擾乱が原因となり航空機事故を引き起こす可能性あるためメカニズムの解明が不可欠であるものの, 観測による研究は理論研究に比べその数は多くない. 本研究では合成開口レーダー干渉法 (InSAR) による面的水蒸気観測を山岳風下波の事例に適用し, その有効性を示す. また, メソスケール数値モデルによるInSAR山岳風下波シグナルの再現実験を行い, 数値モデルの再現性や山岳風下波の特徴について調べた.

干渉処理に用いるSARデータはJAXAのALOS-2/PALSAR-2 ScanSARモードによって得られたLevel 1.1データを用いた. 干渉処理はRINCソフトウェア (Ozawa et al. 2016) を用いて行い, 位相アンラップにはSnaphuソフトウェア (Chen and Zebker 2002) を用いている. 地形縞, 軌道縞除去後に残存する長周期の位相変化は, 山岳風下波シグナルが10-20km程度の波長と長周期変化に比べ波長が短いことから, 2次曲面を用いて最小二乗法的に除去した. 数値気象モデルには非静力学メソスケールモデルのWRF ver3.7.0を用い, 3kmと1km格子間隔の二つの領域を設定した. 山岳風下波の典型的空間波長は16km程度との報告 (Ralph et al. 1997) から, 1km領域の水平格子間隔は山岳風下波を再現するのに十分詳細な解像度である. 初期値・境界値には気象庁のMSMデータとNCEPの海面温度データを用い, 1km領域の境界値はone-way nestingで3kmの計算結果から与えている.
本研究の対象事例は北海道中央部と東北地方の東側で発生した風下山岳波の例であり, これら風下波の水蒸気分布を2つのInSAR解析により抽出した. 解析した2つの干渉画像はいずれも平面波状に山頂から風下側に伝搬する位相変動を捉えており, 振幅は約4-5cm, これは可降水量にして約5mmの変動に相当する. これらシグナルの空間パターンは同時刻に観測された衛星可視画像での山岳風下波起源の雲列と一致していた. WRFによる再現実験はInSARで捉えた位相変動を振幅, 空間波長ともによく説明できていたものの, モデルの結果はInSAR観測に比べて山頂から離れるほど振幅の減衰が大きかった. この点について北海道の事例を対象にWRFの境界層モデルを変えて行った感度実験では, いずれの境界層モデルも風下山岳波の基本的構造をよく再現していたものの, 境界層モデルによって振幅, 波長, 減衰率が異なるという結果を得た. このことは境界層モデルによって乱流運動エネルギーを通じた山岳風下波のエネルギー散逸の仕方が異なり, これが振幅や減衰率に影響を与えた可能性がある.