[HCG27-P01] 日本列島における測地・地質学的ひずみ速度の推定(そのII)
キーワード:地質学的ひずみ速度、測地学的ひずみ速度、活断層データ、プレート沈み込み、ブロック運動
日本列島は、プレートの沈み込みにより長期に渡って短縮変形を受け続けている。このような変形は、複雑な地形・地質構造で特徴付けられる日本列島の地質環境に影響を与えている。日本列島の第四紀後期の地殻変動には、一様継続性と呼ばれる変位の方向の一様性や変位の等速性が指摘されているが(笠原・杉村, 1978)、日本列島における測量やGNSS観測から推定された測地学的ひずみ速度と活断層データなどから推定された地質学的ひずみ速度には、一桁に及ぶ食い違いが認められている(池田, 1996; 鷺谷, 2004)。地層処分における将来の地質環境の予測・評価は、過去数万~数百万年における自然現象の偏在性や変動傾向に基づき、将来へ外挿することが基本となるため、外挿法による予測においては、対象領域における一様継続性の成立性を検討することが重要と考えられる。そこで本研究では、過去の地殻変動として、活断層の変位などの地質学的な情報をディスロケーションモデルに適用することで地質学的ひずみ速度を推定し、現行の地殻変動を示す測地学的ひずみ速度との比較を行った。
地質学的ひずみ速度の推定では、産業技術総合研究所の活断層データベースに掲載される断層パラメータ(断層の傾斜、走向、長さ、平均変位速度、断層タイプ)を用い、断層の食い違いによる地表での変位速度をOkada (1992) の理論式を用いて計算した上で、それらの変位速度からShen et al. (1996) の手法を用いてひずみ速度を推定した。ここでは、影響半径(ひずみ速度を求めるグリッドに対して、どの程度離れた観測点データを用いて計算を行うか)を20 kmとし、経度・緯度ともに0.05°毎にひずみ速度の計算値を出力し、最終的には三次のスプライン補間を行って面積ひずみ速度とせん断ひずみ速度を求めた。測地学的ひずみ速度の推定では、2007年10月1日から2009年3月1日までのGEONET F3解(中川ほか, 2009)を用いて変位速度を推定した上で、先と同様にShen et al. (1996) の手法を適用してひずみ速度を求めた。ただし、F3解から得られた変位速度には、プレートの沈み込みに伴う弾性変形の影響が含まれているため、太平洋・フィリピン海プレート上に10枚の矩形断層を設定し、元の速度場よりプレート沈み込みによる変動を推定・除去した。さらに、Loveless and Meade (2010) のブロック境界を採用し、プレート沈み込みによる変動を除去した速度場から内陸のブロック運動を推定し、変位速度から除去した。これによって得られたGNSS速度場を基に、測地学的ひずみ速度の推定を行った。すなわちこのひずみ速度は、内陸活断層の運動に伴う地殻変動や火山性の地殻変動、不均質構造や非地震性すべりに伴う非弾性変形の影響を反映していると考えられる。以上によって推定した、地質学的ひずみ速度と測地学的ひずみ速度とを比較した結果、以下の特徴が認められた。
ひずみ速度の主軸は、速度のオーダーとして最大で10倍程度の違いが見られた。また、空間パターンに着目すると、(1)旭川~苫小牧での概ね東西方向の短縮、(2)北緯38°~40°付近に見られる奥羽脊梁山地の東西短縮、(3)新潟-神戸ひずみ集中帯北部(佐渡~新潟県~長野県)での短縮と伸長、(4)群馬県と埼玉県に見られる伸長、(5)石川県西側の海域で起こる短縮、(6)三重県西部~奈良県~大阪府に見られる東西短縮、(7)四国地方北部の中央構造線付近での短縮と伸長など、いくつかの共通点が確認できた。面積ひずみ速度においては、速度のオーダーとして最大10倍程度の違いが見られた。空間パターンは、(8)旭川から苫小牧にかけての帯状の収縮、(9)東北地方の脊梁山地に沿う北緯39°~41°の領域における収縮、(10)新潟-神戸ひずみ集中帯の北部に位置する佐渡~長野~塩尻での収縮、(11)富山湾南東部の膨張、(12)四国地方の中央構造線沿いの収縮・膨張のピークが交互に並ぶ傾向などが共通して認められる。また、せん断ひずみ速度においてもひずみ速度の主軸や面積ひずみ速度と同様に、速度のオーダーにして最大10倍程度の違いが見られた。ただし、両者に共通する特徴として、(13)長野県塩尻市付近に見られるひずみ速度のピーク、(14)四国地方の中央構造線周辺におけるひずみ速度の大きな帯状の領域、(15)中央構造線西部の伊予灘付近に見られるひずみ速度ピークなどが挙げられる。以上の結果は、上記の領域の内陸活断層におけるひずみ蓄積・解放の空間パターンが概ね整合的であることを示しており、地殻変動の一様継続性を議論する上で有益な情報となり得ることを示している。
本発表は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部である。
地質学的ひずみ速度の推定では、産業技術総合研究所の活断層データベースに掲載される断層パラメータ(断層の傾斜、走向、長さ、平均変位速度、断層タイプ)を用い、断層の食い違いによる地表での変位速度をOkada (1992) の理論式を用いて計算した上で、それらの変位速度からShen et al. (1996) の手法を用いてひずみ速度を推定した。ここでは、影響半径(ひずみ速度を求めるグリッドに対して、どの程度離れた観測点データを用いて計算を行うか)を20 kmとし、経度・緯度ともに0.05°毎にひずみ速度の計算値を出力し、最終的には三次のスプライン補間を行って面積ひずみ速度とせん断ひずみ速度を求めた。測地学的ひずみ速度の推定では、2007年10月1日から2009年3月1日までのGEONET F3解(中川ほか, 2009)を用いて変位速度を推定した上で、先と同様にShen et al. (1996) の手法を適用してひずみ速度を求めた。ただし、F3解から得られた変位速度には、プレートの沈み込みに伴う弾性変形の影響が含まれているため、太平洋・フィリピン海プレート上に10枚の矩形断層を設定し、元の速度場よりプレート沈み込みによる変動を推定・除去した。さらに、Loveless and Meade (2010) のブロック境界を採用し、プレート沈み込みによる変動を除去した速度場から内陸のブロック運動を推定し、変位速度から除去した。これによって得られたGNSS速度場を基に、測地学的ひずみ速度の推定を行った。すなわちこのひずみ速度は、内陸活断層の運動に伴う地殻変動や火山性の地殻変動、不均質構造や非地震性すべりに伴う非弾性変形の影響を反映していると考えられる。以上によって推定した、地質学的ひずみ速度と測地学的ひずみ速度とを比較した結果、以下の特徴が認められた。
ひずみ速度の主軸は、速度のオーダーとして最大で10倍程度の違いが見られた。また、空間パターンに着目すると、(1)旭川~苫小牧での概ね東西方向の短縮、(2)北緯38°~40°付近に見られる奥羽脊梁山地の東西短縮、(3)新潟-神戸ひずみ集中帯北部(佐渡~新潟県~長野県)での短縮と伸長、(4)群馬県と埼玉県に見られる伸長、(5)石川県西側の海域で起こる短縮、(6)三重県西部~奈良県~大阪府に見られる東西短縮、(7)四国地方北部の中央構造線付近での短縮と伸長など、いくつかの共通点が確認できた。面積ひずみ速度においては、速度のオーダーとして最大10倍程度の違いが見られた。空間パターンは、(8)旭川から苫小牧にかけての帯状の収縮、(9)東北地方の脊梁山地に沿う北緯39°~41°の領域における収縮、(10)新潟-神戸ひずみ集中帯の北部に位置する佐渡~長野~塩尻での収縮、(11)富山湾南東部の膨張、(12)四国地方の中央構造線沿いの収縮・膨張のピークが交互に並ぶ傾向などが共通して認められる。また、せん断ひずみ速度においてもひずみ速度の主軸や面積ひずみ速度と同様に、速度のオーダーにして最大10倍程度の違いが見られた。ただし、両者に共通する特徴として、(13)長野県塩尻市付近に見られるひずみ速度のピーク、(14)四国地方の中央構造線周辺におけるひずみ速度の大きな帯状の領域、(15)中央構造線西部の伊予灘付近に見られるひずみ速度ピークなどが挙げられる。以上の結果は、上記の領域の内陸活断層におけるひずみ蓄積・解放の空間パターンが概ね整合的であることを示しており、地殻変動の一様継続性を議論する上で有益な情報となり得ることを示している。
本発表は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部である。