[HCG27-P07] Mg-Si系における準安定相生成物の相変化挙動
キーワード:マグネシウムシリケート水和物、蛇紋石、透過型電子顕微鏡
放射性廃棄物の一つである超ウラン(TRU)廃棄物を地層処分する際には、主に人工バリアとして支保工のセメントと緩衝材のベントナイトを使うことが考えられている。それらのバリア材の安全性評価を行う上で、地下水の影響を考えることは不可欠である。地層処分の候補地として沿岸部が検討されているため、地下水が海水起源であることも考慮しなければならない。海水はマグネシウムに富み、セメントやベントナイトにはシリカが含まれていることから、Mg-Si系におけるバリア材と水の相互作用を理解することが求められている。数々の先行研究では、海水系地下水がセメント溶解させたり、そのセメント間隙水がベントナイトを変質させたりする際、マグネシウムシリケート水和物(M-S-H)が生成することが示唆されている。M-S-Hは準安定相として存在する低結晶質の水和生成物であるため、地層処分が必要としている数百万年の間に、それが安定鉱物へと相変化する可能性が考えられる。ところが、M-S-Hの相変化挙動は、いまだ解明されていない。本研究では、合成M-S-Hがどのような安定鉱物に相変化していくのか観察した。
M-S-Hは酸化マグネシウムとシリカフュームを使い、そのMg/Si比(M/S)を0.8、1.3、1.7に調整した上で、液固比45及び500の条件の下、室温下で作製した。その後、25℃、50℃において最大6か月、90℃、120℃、180℃において最大3か月反応させた。X線回折(XRD)分析からは、Rooszら(2015)で報告されているようなM-S-H特有の4つのピークが全ての条件において確認できた。M/Sが大きくなり、マグネシウム量が相対的に高くなっても、過剰なマグネシウムが水酸化マグネシウム鉱物(ブルーサイト)として沈殿形成することで、類似のX線回折線プロファイルを有する試料が合成できている。25℃、50℃の実験では、同じ条件のものを4つ準備し、0.5、1、3、6か月と4回に分けて固液分離後の固相を観察したが、M-S-Hのピークの半値幅には大きな変化がなく、著しい結晶化の進行は認められなかった。そこで、同じ期間、異なる温度で反応させた試料のX線回折線プロファイルを比較すると、M/S1.3、液固比45、180℃の条件ではM-S-Hに加え蛇紋石のピークも観測された。反応温度を高くすることは、相変化反応を加速することになる。したがって、この組成のM-S-Hは蛇紋石に相変化していくことが示唆された。そこで、蛇紋石の生成が認められた試料に対して、熱重量測定・示差熱分析(TG-DTA)、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)観察、透過電子顕微鏡(TEM)観察を行った。TG-DTAからは、90℃付近、380℃付近、600℃付近に脱水(吸熱)反応、870℃付近に発熱反応が観測された。90℃付近、380℃の脱水は、それぞれ試料中のM-S-H、ブルーサイトによるものである。600℃付近の脱水及び、870℃付近の発熱反応は、Mg鉱物の中では、蛇紋石族のクリソタイルの熱的性質に一致することから、XRDでその存在が示唆された蛇紋石族の鉱物はクリソタイルであったことが推察される。また、電子顕微鏡観察からもクリソタイルの生成が裏付けられた。一般的にクリソタイルで認められるような管状結晶を、この試料中で観察することができたためである。また、試料中のO-HやSi-O結合状態を観察するため、フーリエ変換型赤外分光分析を行った。同じ反応期間の下、反応温度が25℃、50℃、90℃、120℃、180℃と異なる試料を分析対象とした。950~1100cm-1の領域で認められた吸収帯はQ3のSi-O-Si伸縮振動を示し、全ての試料において同程度の吸光度であった。試料によって違いが認められた吸収帯は、896cm-1付近のQ2のSi-O-Si変角振動に帰属するものである。温度が高くなるとともにその吸収帯は認められなくなった。即ち、反応が進むにつれて、Q3/Q2が大きくなることがわかり、これは蛇紋石のような層状ケイ酸塩鉱物が形成されていることを示唆する。以上の結果より、本研究で検討したM-S-Hの一部は、蛇紋石族のクリソタイルに相変化することが明らかとなった。
M-S-Hは酸化マグネシウムとシリカフュームを使い、そのMg/Si比(M/S)を0.8、1.3、1.7に調整した上で、液固比45及び500の条件の下、室温下で作製した。その後、25℃、50℃において最大6か月、90℃、120℃、180℃において最大3か月反応させた。X線回折(XRD)分析からは、Rooszら(2015)で報告されているようなM-S-H特有の4つのピークが全ての条件において確認できた。M/Sが大きくなり、マグネシウム量が相対的に高くなっても、過剰なマグネシウムが水酸化マグネシウム鉱物(ブルーサイト)として沈殿形成することで、類似のX線回折線プロファイルを有する試料が合成できている。25℃、50℃の実験では、同じ条件のものを4つ準備し、0.5、1、3、6か月と4回に分けて固液分離後の固相を観察したが、M-S-Hのピークの半値幅には大きな変化がなく、著しい結晶化の進行は認められなかった。そこで、同じ期間、異なる温度で反応させた試料のX線回折線プロファイルを比較すると、M/S1.3、液固比45、180℃の条件ではM-S-Hに加え蛇紋石のピークも観測された。反応温度を高くすることは、相変化反応を加速することになる。したがって、この組成のM-S-Hは蛇紋石に相変化していくことが示唆された。そこで、蛇紋石の生成が認められた試料に対して、熱重量測定・示差熱分析(TG-DTA)、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)観察、透過電子顕微鏡(TEM)観察を行った。TG-DTAからは、90℃付近、380℃付近、600℃付近に脱水(吸熱)反応、870℃付近に発熱反応が観測された。90℃付近、380℃の脱水は、それぞれ試料中のM-S-H、ブルーサイトによるものである。600℃付近の脱水及び、870℃付近の発熱反応は、Mg鉱物の中では、蛇紋石族のクリソタイルの熱的性質に一致することから、XRDでその存在が示唆された蛇紋石族の鉱物はクリソタイルであったことが推察される。また、電子顕微鏡観察からもクリソタイルの生成が裏付けられた。一般的にクリソタイルで認められるような管状結晶を、この試料中で観察することができたためである。また、試料中のO-HやSi-O結合状態を観察するため、フーリエ変換型赤外分光分析を行った。同じ反応期間の下、反応温度が25℃、50℃、90℃、120℃、180℃と異なる試料を分析対象とした。950~1100cm-1の領域で認められた吸収帯はQ3のSi-O-Si伸縮振動を示し、全ての試料において同程度の吸光度であった。試料によって違いが認められた吸収帯は、896cm-1付近のQ2のSi-O-Si変角振動に帰属するものである。温度が高くなるとともにその吸収帯は認められなくなった。即ち、反応が進むにつれて、Q3/Q2が大きくなることがわかり、これは蛇紋石のような層状ケイ酸塩鉱物が形成されていることを示唆する。以上の結果より、本研究で検討したM-S-Hの一部は、蛇紋石族のクリソタイルに相変化することが明らかとなった。