[HDS10-P01] 津波地震(スロー地震)規模推定手法の検討(2)
キーワード:津波地震、モーメントマグニチュード、変位の積分、速度型強震計
1.はじめに
津波地震 (スロー地震) は, 気象庁マグニチュードMjや表面波マグニチュードMsに比べて異常に大きな津波が観測される現象で, 海溝などの沈み込み帯で発生しており,地震動の継続時間や周期が長いという特徴を持っている. 1992年ニカラグア地震 (Ms 7.2, Mw 7.6, GlobalCMTによる) や1896年明治三陸地震 (Ms 7.2, Mw 8.0) は津波地震と言われており、津波災害をもたらしている。気象庁は3分以内の津波予報に変位振幅に基づくマグニチュードを用いているが、これらスロー地震に対しては過小評価すると想像される。それに対して、地震モーメントM0 (Aki, 1966) に対応したモーメントマグニチュードMw (Kanamori, 1979) を用いると、ほぼ適正に推定されると思われる。
Kikuchi and Ishida (1993) によれば、広帯域地震計 (STS-2) で捉えた地震動のP波初動部分の面積はM0に比例し、速度を2回時間積分した変位積分と震源が分かればM0の近似値が得られ、Mwの推定は可能としている。Tsuboi et al. (1995) は、広帯域地震計 (STS-1) の鉛直成分を2回時間積分して得られるP波部分の最大振幅を用いた広帯域P波モーメントマグニチュードMwpを提案している。しかしながら、津波地震に対しては、P波部分のみで積分すると、Mwpは7.0未満で機能しない旨が書かれている。
スロー地震の規模推定に長周期まで観測できる広帯域地震計の活用は有効と考えられる。そこで、震源から比較的近い距離において得られた広帯域地震計等の記録を使い、1回時間積分した変位の最大振幅付近までで、2回時間積分した記録から、スロー地震に対応可能な規模推定手法を検討する。震源近傍で観測される地震波を用いる場合にはP波・S波・表面波が重なりあった波形となり、遠地のP波の変位の積分のように単純に地震モーメントに関連付けられないものの、長周期成分に重みをかけた解析になっていると考えている。なお、波形のデジタル化以降、国内ではM6超の津波地震は発生していない.津波を伴った普通の地震を用いて調査した。
2.データ及び方法
国立研究開発機関防災科学技術研究所の広帯域地震観測網 (F-net) の速度型強震計(VSE-355G2, VSE-355G3, TSM-1) 及び広帯域地震計 (STS-1, STS-2, STS-2.5) の垂直成分の地震記録を使用した。2003年9月以降2017年9月までの間に, 日本及びその周辺で発生した一元化震源でマグニチュード7.0以上の21地震を対象にした。地震計の特性に応じてデコンボリューションを行い、カットオフ周波数200秒のベッセルフィルタによるハイパスフィルタを通した1回時間積分した変位と2回時間積分した変位積分のデジタル記録を作成する。ここで、波形記録に異常が見られるものは除外する。気象庁一元化震源を使って各観測点に到達するP波とS波の理論値を計算し、変位 (絶対値) で理論P波付近から最大振幅付近までの間に出現する変位積分 (絶対値) での最大振幅値を調べる。震央距離600km (震源からS波到達まで3分弱の距離に相当) について、グローバルCMT解カタログ (Dziewonski et al., 1981) のモーメントマグニチュードMwと震央距離と変位積分 (絶対値) の最大振幅との関係を調べ、震央距離と変位積分 (絶対値) の最大振幅からなる地震の規模推定式を検討する。
3.結 果
震央距離(対数)と変位積分の最大振幅(対数)の関係は図1の通りである。
モーメントマグニチュードMwtが、
Mwt = a log10A + b log10R + c
で表せるものと仮定する。既知のグローバルCMT解カタログのモーメントマグニチュードMwと変位積分 (絶対値) の最大振幅A (m/s)、震央距離R (km) を使い、定数a, b, cを線形回帰で求めると、a=1, b=0.68, c=6.93のとき、Mwtの標準偏差は0.3以内に納まる結果が得られる。
津波地震 (スロー地震) は, 気象庁マグニチュードMjや表面波マグニチュードMsに比べて異常に大きな津波が観測される現象で, 海溝などの沈み込み帯で発生しており,地震動の継続時間や周期が長いという特徴を持っている. 1992年ニカラグア地震 (Ms 7.2, Mw 7.6, GlobalCMTによる) や1896年明治三陸地震 (Ms 7.2, Mw 8.0) は津波地震と言われており、津波災害をもたらしている。気象庁は3分以内の津波予報に変位振幅に基づくマグニチュードを用いているが、これらスロー地震に対しては過小評価すると想像される。それに対して、地震モーメントM0 (Aki, 1966) に対応したモーメントマグニチュードMw (Kanamori, 1979) を用いると、ほぼ適正に推定されると思われる。
Kikuchi and Ishida (1993) によれば、広帯域地震計 (STS-2) で捉えた地震動のP波初動部分の面積はM0に比例し、速度を2回時間積分した変位積分と震源が分かればM0の近似値が得られ、Mwの推定は可能としている。Tsuboi et al. (1995) は、広帯域地震計 (STS-1) の鉛直成分を2回時間積分して得られるP波部分の最大振幅を用いた広帯域P波モーメントマグニチュードMwpを提案している。しかしながら、津波地震に対しては、P波部分のみで積分すると、Mwpは7.0未満で機能しない旨が書かれている。
スロー地震の規模推定に長周期まで観測できる広帯域地震計の活用は有効と考えられる。そこで、震源から比較的近い距離において得られた広帯域地震計等の記録を使い、1回時間積分した変位の最大振幅付近までで、2回時間積分した記録から、スロー地震に対応可能な規模推定手法を検討する。震源近傍で観測される地震波を用いる場合にはP波・S波・表面波が重なりあった波形となり、遠地のP波の変位の積分のように単純に地震モーメントに関連付けられないものの、長周期成分に重みをかけた解析になっていると考えている。なお、波形のデジタル化以降、国内ではM6超の津波地震は発生していない.津波を伴った普通の地震を用いて調査した。
2.データ及び方法
国立研究開発機関防災科学技術研究所の広帯域地震観測網 (F-net) の速度型強震計(VSE-355G2, VSE-355G3, TSM-1) 及び広帯域地震計 (STS-1, STS-2, STS-2.5) の垂直成分の地震記録を使用した。2003年9月以降2017年9月までの間に, 日本及びその周辺で発生した一元化震源でマグニチュード7.0以上の21地震を対象にした。地震計の特性に応じてデコンボリューションを行い、カットオフ周波数200秒のベッセルフィルタによるハイパスフィルタを通した1回時間積分した変位と2回時間積分した変位積分のデジタル記録を作成する。ここで、波形記録に異常が見られるものは除外する。気象庁一元化震源を使って各観測点に到達するP波とS波の理論値を計算し、変位 (絶対値) で理論P波付近から最大振幅付近までの間に出現する変位積分 (絶対値) での最大振幅値を調べる。震央距離600km (震源からS波到達まで3分弱の距離に相当) について、グローバルCMT解カタログ (Dziewonski et al., 1981) のモーメントマグニチュードMwと震央距離と変位積分 (絶対値) の最大振幅との関係を調べ、震央距離と変位積分 (絶対値) の最大振幅からなる地震の規模推定式を検討する。
3.結 果
震央距離(対数)と変位積分の最大振幅(対数)の関係は図1の通りである。
モーメントマグニチュードMwtが、
Mwt = a log10A + b log10R + c
で表せるものと仮定する。既知のグローバルCMT解カタログのモーメントマグニチュードMwと変位積分 (絶対値) の最大振幅A (m/s)、震央距離R (km) を使い、定数a, b, cを線形回帰で求めると、a=1, b=0.68, c=6.93のとき、Mwtの標準偏差は0.3以内に納まる結果が得られる。