日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 津波とその予測

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:山本 近貞 直孝(防災科学技術研究所)、今井 健太郎(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、対馬 弘晃(気象庁気象研究所)

[HDS10-P02] 山体崩壊による津波の想定事例の検討

*中田 健嗣1勝間田 明男1 (1.気象庁気象研究所地震津波研究部)

キーワード:山体崩壊、岩屑なだれ、津波、TITAN2D

山体崩壊は、低頻度であるがひとたび発生すると甚大な被害を生じる。近年までさまざまな研究が行われているが、本研究では大規模な山体崩壊が発生して津波が発生する場合の想定例をシンプルな仮定で検討した。
 山体崩壊に伴う津波の評価には、山体の崩落に伴う岩屑なだれ計算と、それの海への突入による海面擾乱による津波の伝播計算の二つが必要となる。本研究では、飯塚・他(2017)を参考とし、岩屑なだれ計算部分をTITAN2D(Titan2D Mass-Flow Simulation Tool 2016; Patra et al. 2005)で行った。このモデルは、シンプルなレオロジー則の物質移動モデルで、比較的少ないパラメータで結果を得ることができる。流動性を表すH/L(落差/到達距離)と崩落体積との関係(例えば、Siebert 2002; Ogburn and Calder 2017)があり、体積に応じたH/L(みかけの摩擦係数を規定する、tan(H/L)=φbed)を与えて計算した。ここでSiebert(2002)の火山性なだれの図から、体積Vとして、H/L=-0.035*logV[km^3]+0.11とした。津波伝播計算部分はJAGRUS(Baba et al. 2015)を使用し非線形長波計算とした。海へ突入した岩屑なだれの時系列変化を海底変化として津波の初期値に与えた。以上を現実的な地形データを与えて計算した。
 まず、このモデルの構成について過去事例で確認した。例として、1792年島原(眉山)の事例では、体積V=0.325km^3(井上 2015)として、崩落体積から決まるφbed=7~8程度を与えた場合では飯塚・他(2017)と同様、海まで到達せず、なだれが堆積したとされている範囲と合わなかった。これはH=300mとした場合に到達距離L=2.3km程度であり、妥当な計算結果であると考えられる。φbedを小さくし5程度とした場合に海まで到達した。この場合に、津波の計算結果は都司・日野(1993)等の歴史痕跡高分布と比較して倍半分程度で概ね表せることを確認した。
 次に、同じモデルを用いて、将来の山体崩壊の想定を行った。想定の山体崩壊の形状は分からないため、ここでは、1980年セントへレンズ山の山体崩壊での崩落形状(Glicken 1996)を富士山の現地形に適用した。富士山においては繰り返し山体崩壊が発生しており、最近では約2900年前に発生し御殿場市付近にまで岩屑なだれが発生したと言われている(例えば、小山 2012; 藤井 2013)。 原田・小山(2013)は岩屑なだれが駿河湾に流れ込むとした場合の津波の発生と伝播計算を行っている。本研究では、実地形を用いて山から駿河湾にまで岩屑なだれが到達する場合を検討した。予備的な解析結果の一例として、山の南側が崩落した場合としてセントヘレンズの相似形で崩落形状を作り、そこに1.4km^3の体積を設定した場合には、φbed=6.0となり、H=3000mとすると、L=29kmとなり山から海岸線までの距離(約25km)を超え、海まで到達することとなる。実際、実地形で計算した場合に、なだれのうち駿河湾に向かったものの先端が海まで到達し、海に入ったあたりで停止した。このような想定は、海への岩石なだれの流入体積を算定し津波の評価の検討を行う方法の一つとなるだろう。