[HSC05-P08] 泥岩中の化学的浸透による岩石の局所的変形に関する実験的・数理的検討
キーワード:泥岩、化学的浸透、多孔質弾性体理論
一般に,地圏環境は地上と比べて物質移行などが遅く安定した環境であることが知られている.そのような特性は地層処分や二酸化炭素回収・貯留(CCS)といった,特定の物質を人間社会から長期間隔離するような事業を行う上で非常に有用である.このような事業では,泥岩層のような透水係数や拡散係数が非常に小さい地層が遮蔽層として重要な役割を持つため,このような地層中での地下水流れ,物質移行を理解することが事業の設計において重要になると考えられる.
一方で,流れが極めて遅い場において,帯水層における議論をそのまま適用できないことがあることが知られており(例えば佐藤・室田(1971)による微速浸透流についての検討),遮蔽層中の現象の解明が必要となる.本研究では,泥岩の半透膜的な挙動と化学的浸透現象に着目した.化学的浸透とは,半透膜の両側に濃度差のある溶液が存在するときに低濃度側から高濃度側に向かって発生する水の流れであり,地下においては一部の泥岩が泥岩中の粘土鉱物の負電荷に起因して半透膜性を示すことが知られている(Marine and Fritz, 1981).低透水性の領域では化学的浸透によって異常間隙水圧が生じることが知られている(例えばMarine and Fritz, 1981:Neuzil,2000).また,間隙水圧の変化は岩石の変形を引き起こすことから,半透膜性をもつ泥岩中では濃度差によって岩石の変形が生じることが予測される.化学的浸透と圧力変化に伴う岩石の変形については,岩石全体や試料全体での変形を検討した事例がいくつか存在する(例えば Greenberg et al., 1973: Noy et al., 2004).
狭い領域に濃度勾配が集中している場合,化学的浸透による圧力変化は狭い領域で発生し,岩石が局所的に変形する可能性が想定される.圧力変化や歪の規模によっては,破壊などによって遮蔽層の性質の変化が生じる可能性が考えられる.そのため,遮蔽層の半透膜的な挙動をそれによる岩石の変形について,局所的なスケールを含めた検討を行う必要があると考えられる.
本研究では,化学的浸透現象とそれに伴って生じる歪について,室内実験による計測を行うとともに化学的浸透による濃度,圧力,歪を記述する数理モデルを作成することを目的としている.
数理モデルについて,今回の検討では化学的浸透について圧力と濃度を記述する支配方程式(Malusis et al., 2012)と,線形多孔質弾性体理論に基づく支配方程式(Wang, 2000)を組み合わせることによって,化学的浸透によって生じる濃度,圧力,歪の挙動を同時に記述できるモデルの構築を行うとともに,構築したモデルを用いて実際に数値計算を行い,化学的浸透による圧力,濃度,歪の挙動を確認した.構築したモデルによる計算結果より,多孔質弾性論的な効果と化学的浸透による圧力変化の両方が歪の挙動に影響を及ぼすことが確認された.
室内実験では,北海道幌延地域稚内層から採取された珪質泥岩から作製したコアサンプルを用いた.実験では,岩石試料側面の上側および下側の二箇所にひずみゲージを貼り付け,それぞれの軸歪および周歪を計測している.また側面および底面にシリコーンゴムを塗ることで流れなし境界とした.このような岩石試料に対して上面を泥岩の間隙水と濃度の異なるNaCl溶液と接させることによって泥岩内部で化学的浸透現象を引き起こし,それによる岩石の歪をひずみゲージによって計測をおこなった.今回の実験ではひずみゲージによる計測結果にひずみゲージの発熱に起因すると考えられる大きな系統誤差がみられたものの,誤差の影響が比較的小さい実験初期において,数値計算の結果と実験結果の整合がみられた
一方で,流れが極めて遅い場において,帯水層における議論をそのまま適用できないことがあることが知られており(例えば佐藤・室田(1971)による微速浸透流についての検討),遮蔽層中の現象の解明が必要となる.本研究では,泥岩の半透膜的な挙動と化学的浸透現象に着目した.化学的浸透とは,半透膜の両側に濃度差のある溶液が存在するときに低濃度側から高濃度側に向かって発生する水の流れであり,地下においては一部の泥岩が泥岩中の粘土鉱物の負電荷に起因して半透膜性を示すことが知られている(Marine and Fritz, 1981).低透水性の領域では化学的浸透によって異常間隙水圧が生じることが知られている(例えばMarine and Fritz, 1981:Neuzil,2000).また,間隙水圧の変化は岩石の変形を引き起こすことから,半透膜性をもつ泥岩中では濃度差によって岩石の変形が生じることが予測される.化学的浸透と圧力変化に伴う岩石の変形については,岩石全体や試料全体での変形を検討した事例がいくつか存在する(例えば Greenberg et al., 1973: Noy et al., 2004).
狭い領域に濃度勾配が集中している場合,化学的浸透による圧力変化は狭い領域で発生し,岩石が局所的に変形する可能性が想定される.圧力変化や歪の規模によっては,破壊などによって遮蔽層の性質の変化が生じる可能性が考えられる.そのため,遮蔽層の半透膜的な挙動をそれによる岩石の変形について,局所的なスケールを含めた検討を行う必要があると考えられる.
本研究では,化学的浸透現象とそれに伴って生じる歪について,室内実験による計測を行うとともに化学的浸透による濃度,圧力,歪を記述する数理モデルを作成することを目的としている.
数理モデルについて,今回の検討では化学的浸透について圧力と濃度を記述する支配方程式(Malusis et al., 2012)と,線形多孔質弾性体理論に基づく支配方程式(Wang, 2000)を組み合わせることによって,化学的浸透によって生じる濃度,圧力,歪の挙動を同時に記述できるモデルの構築を行うとともに,構築したモデルを用いて実際に数値計算を行い,化学的浸透による圧力,濃度,歪の挙動を確認した.構築したモデルによる計算結果より,多孔質弾性論的な効果と化学的浸透による圧力変化の両方が歪の挙動に影響を及ぼすことが確認された.
室内実験では,北海道幌延地域稚内層から採取された珪質泥岩から作製したコアサンプルを用いた.実験では,岩石試料側面の上側および下側の二箇所にひずみゲージを貼り付け,それぞれの軸歪および周歪を計測している.また側面および底面にシリコーンゴムを塗ることで流れなし境界とした.このような岩石試料に対して上面を泥岩の間隙水と濃度の異なるNaCl溶液と接させることによって泥岩内部で化学的浸透現象を引き起こし,それによる岩石の歪をひずみゲージによって計測をおこなった.今回の実験ではひずみゲージによる計測結果にひずみゲージの発熱に起因すると考えられる大きな系統誤差がみられたものの,誤差の影響が比較的小さい実験初期において,数値計算の結果と実験結果の整合がみられた