日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS07] 結晶成長、溶解における界面・ナノ現象

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、塚本 勝男(大阪大学大学院工学研究科、共同)、佐藤 久夫(三菱マテリアル株式会社エネルギー事業センター那珂エネルギー開発研究所)

[MIS07-P01] MgO-SiO2系非晶質ケイ酸塩の水質変成その場実験

*伊神 洋平1山崎 智也2木村 勇気2土山 明1 (1.京都大学大学院理学研究科、2.北海道大学低温科学研究所)

キーワード:非晶質ケイ酸塩、水質変成、コンドライト、その場観察

はじめに
ケイ酸塩ダストは星間空間では98 %以上が非晶質であることが赤外観測により示唆されており(Kemper, et al., 2004)、太陽系形成においてもこれらの非晶質ケイ酸塩が主要な原材料であったと考えられている。また、彗星塵や始原的炭素質隕石には、このような非晶質ケイ酸塩が豊富に存在していることが知られている(e.g., Keller and Messenger, 2012; Leroux et al., 2015)。しかし一方で、多くの炭素質コンドライト中のケイ酸塩は、ほとんどは水質変成を受けており、また始原的炭素質隕石も多かれ少なかれ水質変成を受けているものが多く(e.g., Abreu and Brearley, 2010)、非晶質ケイ酸塩の水質変成過程は、初期太陽系形成における物質科学的進化において大きな役割を担ったプロセスであると考えられている。
このような非晶質ケイ酸塩の水質変成プロセスの理解に向けて、隕石観察だけでなく水質変成実験がなされてきた。たとえば、Nakamura-Messenger et al. (2011) は彗星塵中のGEMS (glass embedded with metal and sulfides)を出発物質として様々なpHの水溶液中で水熱実験を行い、回収物から隕石と類似した層状ケイ酸塩の形成を確認した。しかし、この分析サンプルは、厳密には水熱(水質変成)プロセスだけでなくその後の乾燥プロセスも被った結果の物質であり、水質変成プロセスのみによる純粋な変化を示したわけではない。隕石から正確な情報をより多く引き出すためには、水質変成・乾燥それぞれのプロセスで何が起こっているかを切り分け、各段階での現象に対する理解を積み上げていく必要があると考えられる。そこで本研究では、湿潤状態の非晶質ケイ酸塩を効果的に分析する手法を確立することで、非晶質ケイ酸塩の水質変成過程を「その場」観察し、水質変成・乾燥の二つのプロセスにおける物質科学的変化を解析した。
手法
サンプルは、解釈の容易のためMgO-SiO2の二成分系に限定し、MgO/SiO2=2.02 (サンプル名:Fo-am)、1.15 (サンプル名:En-am)の二種類の組成の非晶質ケイ酸塩を用いた。この非晶質ケイ酸塩は、Imai (2012, Doctoral thesis)により熱プラズマ装置(日清製粉)を用いて作成された平均粒径約70nmの球形ナノ粒子である。これらのサンプルを蒸留水と混合後、室温にて連続的に、透過型電子顕微鏡(TEM)観察およびX線回折(XRD)実験を行った。
TEM観察では、サンプルを水と混合後、真空下で耐えられるよう専用ホルダPoseidon(Protochips, 北大低温研)に封入し、混合後約1時間後から約24時間後までの間、粒子サイズ・形状の時間変化を像観察した。また、XRD実験では、サンプルを水と混合後、水の蒸発を防ぐためにホルダ上部をポリイミド膜で覆い、混合直後から約48時間までの非晶質・生成鉱物のピーク位置・強度について時間変化を観察した。それぞれの実験後、サンプルはホルダから取り出して真空乾燥し、再度XRDおよびTEMを用いて詳細観察することで、乾燥による影響も観察した。
結果・考察
その場TEM観察の結果、非晶質粒子の形状は水中で徐々に膨張していくことが分かった。ただし、共に封入した水の散乱により、微細な組織は分からなかった。実験後の試料を乾燥後にTEM観察すると、Fo-amは元の球形はほぼ失っており、繊維質な層状ケイ酸塩がまとわりついたような組織を持っていた。一方、En-amは、界面は荒れていたが元の球形は比較的保持していた。また、極めて結晶性の悪い層状ケイ酸塩が少量観察された。
また、その場XRD実験の結果、どちらのサンプルからも、時間が経つにつれて非晶質ピーク位置が非晶質SiO2のピーク位置に向かい変化する様子が観察された。これは、水中で非晶質ケイ酸塩からMg2+イオンが選択的に溶解し、SiO2に富む構造の非晶質に変化することを示唆している。さらに、どちらのサンプルからも、層状ケイ酸塩のピーク出現が観察された。ただし、ピークの増大速度は異なり、特にFo-amの水混合後のピーク増大は急激であった。水と混合直後に多量のイオンが水に溶解して一時的に過飽和な状態になったことで、そこから急激にケイ酸塩が析出しのだと解釈した。さらに、それぞれ乾燥したものを再度XRD分析すると、特にFo-amサンプルにおいて層状ケイ酸塩ピークが乾燥により顕著に増大した。水に溶けていた成分が乾燥時に層状ケイ酸塩として析出したと考えられる。この層状ケイ酸塩は、水質変成時に形成していた層状ケイ酸塩とわずかにピーク位置が異なっていた。
以上より、非晶質ケイ酸塩から層状ケイ酸塩の形成は、水質変成時・乾燥時のどちらのプロセスでも十分発生しうることが分かった。隕石や実験回収物の観察時には、これを念頭に置かないと、誤った解釈を導く恐れがある。ただし、XRDパターンで見られたように、水質変成・乾燥の各プロセスで形成される層状ケイ酸塩は結晶構造がわずかに異なる可能性がある。これをより具体的に明らかにすることで、隕石試料の層状ケイ酸塩の詳細観察からその形成環境をより制約できる可能性がある