[MIS14-P06] 棚田の保全と復興に関わる土壌環境の変化
キーワード:棚田、耕作放棄地、土壌炭素
中山間地域の傾斜地に立地する棚田は農作業に不利な状況にあり,耕作放棄地が増加している.一方で近年は棚田の多面的機能が見直され,復興される動きも進んできている.しかしその維持は容易ではないため,人口減少の中で,また広大な土地において棚田保全の指針がわかればその恩恵は大きい.本研究では,まず棚田の特性を知るために,長年耕作放棄されていた棚田の復興に伴い,土壌特性の経年変化について,また,標高の違いにおける差異について考察した.岡山県久米郡M町では上流~下流と標高が異なる棚田,岡山県美作市U地区では連続耕作地,耕作放棄地,2015~2017年に復田された復興年度が異なる棚田について,土壌を0,10,30 cmと深度別に採取し、全炭素・全窒素分析,粒度分析,硬度貫入試験,元素分析を行った.M町の棚田において全炭素・全窒素分析では標高が低ければ高い値を示し,有意差が認められた.掛け流し灌漑や風雨によって土壌有機物が上流から下流に供給されている可能性が示唆される.U地区では,0 cm深において全炭素,全窒素ともに放棄地が最も高く,2017,2016年復興と経年につれて低い傾向をとった.粒度分析の結果では特に0 cm深において放棄地,2017,2016年復興となるにつれ砂の割合が低くなり,微細な粒子の割合が高まっている.復興して間もない棚田は山の斜面と同じで,表層に微細粒子が少なく,粗大な有機物が表層に堆積しており,これが耕起代かきによって深い層と混合され,徐々に粘土やシルト等の微細粒子の割合が高まっていくと考えられる.硬度貫入試験の結果から,耕作放棄地や2017年復興棚田では明確な耕盤層は確認されず,2016年復興棚田で耕盤層の形成, 2015年復興棚田で明確な耕盤層が形成されていると思われた. 元素分析では耕盤層付近にマンガンが多く集積している状況は見られず,耕盤層形成の要因には湛水や落水における乾湿の反復による凝集や農作業機踏圧による圧縮が考えられた.総じて上流から下流にかけて有機物の移動が確認されたが,微細な粒子に違いは見られなかった.また,復興されてから1~2年は放棄地の影響が残り,2~3年経過すると棚田としての土壌特性を有することがわかった.耕盤層が形成されない時期には漏水や崩落が起こりやすいと考えられ,この時期の棚田の管理に注意する必要があると考えられた.今後も継続して調査を行い,棚田の保全や延命の因子を明らかにする必要がある.