[PPS08-P06] 多孔質氷天体上への高速度クレーター形成実験:クレーターサイズスケール則に対する衝突溶融度の影響
キーワード:多孔質氷天体、衝突クレーター、衝突溶融
多孔質氷衛星や彗星核の表面には、天体サイズの1/3にも達する大きなクレーターが存在することがある。このような巨大クレーターは、多孔質物質内部の空隙が潰れることで衝突圧縮が起こり、その結果、形成されたと考えられている。氷衛星や彗星が存在する太陽系外惑星領域では、天体が1km/s以上で衝突しており[Zahnle et al., 2003]このような高速衝突では、衝突点及びその周囲が効率的に圧縮・加熱され、衝突クレーター底部では衝突溶融層が形成される。この衝突溶融量は衝突速度によって変化し、更に衝突体の物性や標的天体表層の物性・空隙率・焼結度によっても変化する。特に、多孔質氷は岩石よりも低温で溶融するため、岩石天体より広い範囲で衝突溶融層が形成されるかもしれない。衝突溶融層の有無は、クレーターサイズのスケール則に影響を与えることが予想され、多孔質氷天体のクレーター年代学などの研究には、衝突溶融層の影響を明らかにすることが重要である。従って、本研究では多孔質氷(雪)を用いた高速度クレーター形成実験を行い、衝突溶融層の形成条件と、クレーターサイズスケール則に対する衝突溶融の影響を調べた。
多孔質氷天体を模擬した雪標的は、液体窒素に水を噴霧して急冷して粒径数10μm以下の氷粒子を作成し、その氷粒子を容器に詰めて作成した。容器は、円筒形(直径10cm、高さ10cm)と立方体(13cm×13cm×10cm)を用意した。雪の空隙率は50%、60%とし、雪標的の焼結時間は2日から6日とした。弾丸は直径2mmのアルミニウム球と、直径4.7mmのポリカーボネート球を用いた。衝突実験は神戸大学の横型二段式軽ガス銃を用いた。弾丸速度はポリカ弾丸が0.9km/s、アルミ弾丸が2.5及び4.1km/sとした。標的は横向きに真空チャンバー内に設置し、標的表面に対して垂直に弾丸が衝突するように調整した。真空チャンバーは150Pa以下まで真空引きをした。チャンバー内の温度は-15℃である。衝突の様子は、撮影速度105fps、露出時間380nsの高速ビデオカメラで撮影した。クレーター形成後はバンドソーで雪試料を切断し、断面からクレーターの直径・深さや溶融の様子、弾丸の変形度合いや破壊度合いを観察した。
クレーター形成過程については、高速カメラの画像から以下のようなことが明らかになった。弾丸が衝突した直後、エジェクタが衝突点から円錐状に吹き出したが、時間と伴に根元が柱状に変化し、ピラー型と呼ばれるエジェクタが観察された。ピラー型のエジェクタはこれまで雪標的のクレーター形成実験では確認されていない[例 Arakawa and Yasui, 2011]。ピラー型のエジェクタが噴出された後、衝突点近傍から比較的大きなスポール破片が噴出した。スポール破片は空隙率50%の標的でより多く見られた。形成されたクレーターの形状を上部から観察すると、標的表面には浅いスポール領域が確認された。スポール領域の形状は不規則であり、円形から楕円形、長方形も確認された。その中央にはピット領域の入口があり、ほぼ円形であった。雪標的を切断して断面を観察した結果、ピット入口は幅が狭くなっており、ピット入口より深部は膨らんでほぼ球形になっていた。そしてピット領域の底部には、弾丸が貫入した細長い孔が確認された。弾丸は、ポリカ球はほぼ無傷で回収されたが、アルミ球は破壊していた。また、ピット領域の壁面と、弾丸が回収された領域の周囲に、衝突溶融層である氷が確認された。アルミ弾丸の一部は、衝突溶融層に確認された。衝突溶融層は、弾丸の運動エネルギーが40J以上の実験で確認された。更に、空隙率が50%の場合、ピット入口では衝突溶融層の外側に厚さ1~2mmの圧密された雪層が確認された。
スポール領域の最大直径Dsと、ピット入口の直径Dpを測定し、弾丸の運動エネルギーとの関係を調べた。スポール径Dsの場合、空隙率50%の方が60%よりも大きくなった。弾丸の運動エネルギーが100Jの場合は50%では48mm、60%では35mmで約1.4倍大きくなった。一方、ピット径Dpの場合は逆の傾向が見られ、空隙率60%の方が50%よりも大きくなった。弾丸の運動エネルギーが100Jの場合は50%では13mm、60%では20mmで約1.6倍大きくなった。また全体的にスポール径Dsはピット径Dpよりも2~4倍大きくなった。
[参考文献] Zahnle et al. (2003), Icarus 163, 263-289; Arakawa and Yasui (2011), Icarus 216, 1-9.
多孔質氷天体を模擬した雪標的は、液体窒素に水を噴霧して急冷して粒径数10μm以下の氷粒子を作成し、その氷粒子を容器に詰めて作成した。容器は、円筒形(直径10cm、高さ10cm)と立方体(13cm×13cm×10cm)を用意した。雪の空隙率は50%、60%とし、雪標的の焼結時間は2日から6日とした。弾丸は直径2mmのアルミニウム球と、直径4.7mmのポリカーボネート球を用いた。衝突実験は神戸大学の横型二段式軽ガス銃を用いた。弾丸速度はポリカ弾丸が0.9km/s、アルミ弾丸が2.5及び4.1km/sとした。標的は横向きに真空チャンバー内に設置し、標的表面に対して垂直に弾丸が衝突するように調整した。真空チャンバーは150Pa以下まで真空引きをした。チャンバー内の温度は-15℃である。衝突の様子は、撮影速度105fps、露出時間380nsの高速ビデオカメラで撮影した。クレーター形成後はバンドソーで雪試料を切断し、断面からクレーターの直径・深さや溶融の様子、弾丸の変形度合いや破壊度合いを観察した。
クレーター形成過程については、高速カメラの画像から以下のようなことが明らかになった。弾丸が衝突した直後、エジェクタが衝突点から円錐状に吹き出したが、時間と伴に根元が柱状に変化し、ピラー型と呼ばれるエジェクタが観察された。ピラー型のエジェクタはこれまで雪標的のクレーター形成実験では確認されていない[例 Arakawa and Yasui, 2011]。ピラー型のエジェクタが噴出された後、衝突点近傍から比較的大きなスポール破片が噴出した。スポール破片は空隙率50%の標的でより多く見られた。形成されたクレーターの形状を上部から観察すると、標的表面には浅いスポール領域が確認された。スポール領域の形状は不規則であり、円形から楕円形、長方形も確認された。その中央にはピット領域の入口があり、ほぼ円形であった。雪標的を切断して断面を観察した結果、ピット入口は幅が狭くなっており、ピット入口より深部は膨らんでほぼ球形になっていた。そしてピット領域の底部には、弾丸が貫入した細長い孔が確認された。弾丸は、ポリカ球はほぼ無傷で回収されたが、アルミ球は破壊していた。また、ピット領域の壁面と、弾丸が回収された領域の周囲に、衝突溶融層である氷が確認された。アルミ弾丸の一部は、衝突溶融層に確認された。衝突溶融層は、弾丸の運動エネルギーが40J以上の実験で確認された。更に、空隙率が50%の場合、ピット入口では衝突溶融層の外側に厚さ1~2mmの圧密された雪層が確認された。
スポール領域の最大直径Dsと、ピット入口の直径Dpを測定し、弾丸の運動エネルギーとの関係を調べた。スポール径Dsの場合、空隙率50%の方が60%よりも大きくなった。弾丸の運動エネルギーが100Jの場合は50%では48mm、60%では35mmで約1.4倍大きくなった。一方、ピット径Dpの場合は逆の傾向が見られ、空隙率60%の方が50%よりも大きくなった。弾丸の運動エネルギーが100Jの場合は50%では13mm、60%では20mmで約1.6倍大きくなった。また全体的にスポール径Dsはピット径Dpよりも2~4倍大きくなった。
[参考文献] Zahnle et al. (2003), Icarus 163, 263-289; Arakawa and Yasui (2011), Icarus 216, 1-9.