[SCG60-P09] 姫島火山群第四紀流紋岩質マグマの成因
キーワード:ザクロ石、流紋岩質マグマ、姫島火山群
姫島火山は九州国東半島の沖合,瀬戸内海の西端に位置する第四紀の小規模な火山で大海,矢筈岳,金,稲積,城山,達磨山及び浮洲火山の7つの単成火山から構成されている.姫島火山群の火山岩類はデイサイト質マグマと流紋岩質マグマの混合マグマから形成されたと考えられている(伊藤, 1990).また高Sr/Y比(約100),低Y濃度(< 14.3 ppm),低87Sr/86Sr比(0.7037)といった地球化学的特徴から,デイサイト質な端成分マグマは,沈み込むスラブの部分溶融液(Defant and Drummond, 1990)を起源とすると考えられている(Shibata et al., 2014).しかしながら,流紋岩質な端成分マグマに関しては,岩石学的・地球化学的データが不足しており,その起源は未だ明らかになっていない.本研究では,この流紋岩質マグマの成因について考えるために,姫島火山群の流紋岩(以下,姫島流紋岩と呼ぶ)を中心にザクロ石,角閃石などの鉱物組成の定量分析を行った.岩石試料は達磨山溶岩と城山溶岩について観察した.達磨山溶岩においては,角閃石,斜長石,ザクロ石が認められる.城山溶岩の斑晶は著しく少ないが,ザクロ石,斜長石,珪線石,ジルコンが少量認められる.達磨山溶岩中の角閃石は,経験式(Putirka, 2016)による地質温度計を用いて晶出時の温度を計算すると,924から949℃となった.また,角閃石の地質圧力計(Ridolfi and Renzulli, 2012)から,190から250 MPaの値が得られた.さらに,角閃石と平衡共存したメルトのSiO2含有量(SiO2melt)を,経験式(Putirka, 2016)から計算すると,62 – 64 wt%となった.これらの温度条件やSiO2meltはデイサイト質マグマの条件と整合的であり,流紋岩中の角閃石が沈み込むスラブの部分溶融液起源だとされる(Shibata et al., 2014)デイサイト質マグマ中で晶出したことを示唆し,伊藤(1990)で主張されていた,流紋岩中の角閃石はマグマ混合の過程で流紋岩中に取り込まれたこという考えを定量的に支持する.城山溶岩の薄片を詳細に観察した結果,ザクロ石が濃集している部分に,斜長石,珪線石,ジルコンが共存していることが分かった.ザクロ石,斜長石,珪線石,ジルコンは全て自形性に乏しく半自形から他形を示す.姫島火山群では同様の鉱物組成を持った捕獲岩についても報告されている(柴田ほか,2014).ザクロ石のCaOとMnO含有量の関係に着目すると,姫島流紋岩中のザクロ石の組成は,CaO < 2.0 wt%,MnO > 5.5 wt%の特徴を示す.花崗岩質マグマ中で晶出したザクロ石の組成(Harangi et al., 2001)は,M-type及びI-typeマグマ中で晶出したザクロ石はCaO含有量に富む傾向(> 4.0 wt%)を示し,姫島流紋岩中のザクロ石組成と明らかに異なる.一方,S-typeマグマ中のザクロ石はCaO含有量< 4.0 wt%,MnO含有量<3.1 wt%であり,姫島流紋岩中のザクロ石の示すMn含有量の組成範囲(5.6 - 7.0 wt%)と比較すると明らかに低い.泥質変成岩中で再結晶したザクロ石は,CaO含有量に乏しく(< 3.2 wt%),広いMnO組成幅(0.3 – 8.0 wt%)を持ち,姫島流紋岩中のザクロ石はこの組成範囲にプロットされる.これらのことから,ザクロ石の起源については,変成岩からの外来結晶である可能性が高い.これらの結果は、姫島火山群の流紋岩質マグマ形成過程において,地殻物質の影響があったことを示唆している.