[SIT28-P11] ISC走時データを用いたP波,S波トモグラフィーの相違に対する考察
キーワード:地震波トモグラフィー
本研究ではP波とS波の3次元速度構造モデルを決定し, 両者を比較した. 使用したデータはISCに報告された到着時刻から得られた1964年1月から2012年12月までのイベントの走時データである. データセットの作成に際し,なるべくグローバルに均等になるようイベントを選んだ.その結果, P波では約9万点の震源, 約1400万の波線, S波では約2万点の震源, 約110万の波線が得られた. これらのデータを, 走時トモグラフィーの手法(Inoue et al., 1990; Fukao et al., 1992; Obayashi et al., 2013)に基づき収束するまでインバージョンした. これによって得られたP波, S波トモグラフィーモデルを比較すると, 南アメリカやオーストラリア東部, 日本・伊豆・小笠原・マリアナにかけての顕著な高速度異常や, 太平洋, アフリカ大陸下の核 – マントル境界直上で見られる大規模な低速度異常など, 大規模な特徴は両者でよく一致している. しかしながら, 細かな特徴に関しては両者で違いが見られる. 特に伊豆・小笠原地域に着目すると, P波モデル(図 b)では660-km不連続面付近で水平に伸びる著しい高速度異常が見られるが、S波モデル(図 c)ではそのような高速度異常は見られない。また、伊豆・小笠原海溝南端, 深さ700 – 1000 kmのマントルでP波よりもS波の高速度異常が顕著に見える領域が存在する. 他の走時トモグラフィーを用いた過去の研究でも,伊豆・小笠原地域においてP波とS波で異なる高速度異常のパターンが見られている(e.g. Wei et al., 2015). P波とS波のモデルでこのような違いが見られる原因として,P波とS波のデータセット数の違いが考えられる.そこで本研究では, S波トモグラフィーで用いられた地震と観測点ペアのみに限定したP波トモグラフィーを実行し(図 d),この要因がトモグラフィーモデルに与える影響を議論する.
図:全データセットを使用して得られたP波, S波の結果(b, c)とS波の数に揃えたデータセットを使用して得られたP波の結果(d)
図:全データセットを使用して得られたP波, S波の結果(b, c)とS波の数に揃えたデータセットを使用して得られたP波の結果(d)