日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC43] 火山・火成活動および長期予測

2018年5月20日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域、共同)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SVC43-P12] 蔵王火山、熊野岳山頂溶岩及び火砕岩類における噴火史とマグマ組成変化

*伊藤 直人1伴 雅雄2 (1.山形大学大学院理工学研究科、2.山形大学理学部)

キーワード:噴火史、マグマ組成、蔵王火山、熊野岳山頂溶岩及び火砕岩類

1. はじめに
 蔵王火山は東北日本に位置する成層火山である。その活動は約100万年前から現在まで続いている。熊野岳山頂溶岩及び火砕岩は約8万年前に蔵王山中央部に形成された。この活動では、水蒸気噴火やストロンボリ式噴火、ブルカノ式噴火など多様な様式の噴火が起こったことが地質調査などから推定されているが、未だにその全容は明らかになっていない。今回は、熊野岳山頂溶岩及び火砕岩類を対象に、層序とマグマ組成の変化を検討したので、その結果を報告する。

2. 熊野岳山頂溶岩及び火砕岩類の層序
 熊野岳山頂溶岩及び火砕岩類は、主に山頂部に分布する火砕岩と熊野岳の表層部を構成する溶岩流からなる。溶岩流は、熊野岳山頂から北東方向へ約2.75km、南西方向へ約0.4km流下している。火砕岩は熊野岳山頂近傍で露出が良く(全層厚12m程度)、不整合や休止期を示す証拠が認められないことから、一連の噴火活動によって形成されたと考えられる。また、卓越岩相の違いから、4つのphase(下部からphase1-4)に分類でき、phase1, 3では水蒸気噴火噴出物が、phase2, 4ではマグマ噴火噴出物が主体である。以下にそれぞれのphaseの詳細を示す。
phase1:全層厚は約2.0mで、岩相の違いからLayer1-7に分けられる。Layer1-3, 5, 7は水蒸気噴火噴出物からなる。Layer2は、白色の粘土質火山灰を基質とし、白色に変質した岩片(<3cm)を多く含む。やや変質の進んだスコリア質岩片(10-20cm)も認められる。Layer1, 3, 5, 7は黄土色の粘土質火山灰を基質とし、黄土色の変質した岩片(<2cm)を多く含む。Layer4, 6はブルカノ式降下火砕堆積物である。赤褐色の火山灰を基質とし、暗灰色の火山岩塊・火山弾を含む。火山岩塊・火山弾はLayer4で10-20cm、6では5-20cmである。
phase2:全層厚は約2.1mで、岩相の違いからLayer1-5に分けられる。Layer1, 4はストロンボリ式降下スコリア層で、赤褐色のスコリアからなる。スコリアは比較的小さくLayer1で<15cm、4では<2cmである。Layer2, 5はブルカノ式降下火砕堆積物である。Layer2は赤褐色の火山灰を基質とし、赤褐色-灰色の火山岩塊・火山弾(5-20cm)が濃集している。Layer5は赤褐色の火山灰を基質とし、灰色の火山岩塊・火山弾 (2-15cm)を多く含む。Layer3は水蒸気噴火噴出物からなる。白色の粘土質火山灰を基質とし、黄土色に変質した岩片(<1cm)を含む。
phase3:全層厚は約1.4mで、岩相の違いからLayer1-3に分けられる。Layer1, 3は淘汰の悪い水蒸気噴火噴出物からなる。白色の粘土質火山灰を基質とし、黄土色に変質した岩片(<20cm)を多く含む。やや変質の進んだスコリア質岩片(<10cm)も少量認められる。Layer2はストロンボリ式降下スコリア層で、暗灰色の主に2cm程度のスコリアからなる。10-50cmの比較的大きなスコリアも含まれる。
phase4:全層厚は約6.8mで、岩相の違いからLayer1-5に分けられ、最上位の溶岩に覆われている。Layer1-3は、ブルカノ式降下火砕堆積物である。赤-暗灰色の火山灰を基質とし、赤-灰色の火山岩塊・火山弾を多数含む。Layer1, 2では火山岩塊・火山弾は<20cmであり、Layer 1の方が基質に富む。Layer3では大型(<200cm)の火山弾が目立つ。Layer4, 5はアグルチネートである。Layer 4は暗灰色のスパターを主体とし、Layer 5ではそれらが強溶結している。Layer4, 5と同時期には山頂から北と南に溶岩流(0.021km3)も噴出しており、噴出量はphase1-4中で最大である。また、推定火口から北に1km付近で、溶岩上にLayer4,5と同様のアグルチネートからなるラフトが認められた。

3. 岩石学的特徴
 熊野岳山頂溶岩及び火砕岩類は、多くの非平衡組織を持つ、かんらん石単斜輝石直方輝石玄武岩質安山岩-安山岩(SiO2 = 54.3 - 58.8wt.%)である。岩石系列は中間カリウム・カルクアルカリ系列に属している。SiO2組成変化図上では一連の直線的トレンドを描き、噴出物は2端成分マグマの混合によって形成したと考えられる。マグマ噴出物のMgO・Ni量は、phase1ではLayer4から6にかけて増加し、phase2ではLayer1から3にかけて増加、その後4, 5へと減少する。phase3ではLayer2で極大を示す。phase4ではLayer1から3にかけて減少、その後Layer4, 5へとやや増加する

4.噴火史とマグマ組成の推移
 露頭観察の結果、phase1のLayer1-3, 5, 7、phase2のLayer3、phase3のLayer1, 3は水蒸気噴火によるもの、phase1のLayer4, 7、phase2のLayer2, 5、phase4のLayer1-3はブルカノ式噴火によるもの、phase2のLayer1, 4、phase3のLayer2はストロンボリ式噴火によって形成されたものと考えられる。phase4のLayer4, 5は、スパター丘が露頭では確認できなかったが、アグルチネートからなるラフトが火口から離れた溶岩流上に存在することから、ストロンボリ式噴火に類似する噴火で形成されたと考えられる。
 以上の噴火推移とマグマ組成変化をまとめると次のようになる。phase1は水蒸気噴火が主体の活動が続き、その後ブルカノ式噴火と水蒸気噴火が交互に発生する活動に遷移した。Layer4から6にかけてはMgO・Ni量が増加することから苦鉄質マグマの寄与率が高まったと考えられる。phase2初期はストロンボリ式噴火・ブルカノ式噴火といったマグマ噴火が主体であり、その後水蒸気噴火を挟んだのちに、再びストロンボリ式噴火・ブルカノ式噴火が起こった。MgO・Ni量は水蒸気噴火を境に増加から減少に変化している。phase3は最初と最後の水蒸気噴火に挟まれてストロンボリ式噴火が発生した。この時のマグマは全活動中でMgO・Ni量が最も高いものであった。phase4初期-中期ではブルカノ式噴火が発生し、火山弾の大きさは時間の経過に伴って大きくなっているが、マグマ組成の系統的な変化はない。活動終期にはストロンボリ式噴火が発生し、噴出物はアグルチネート、アグルチネート(強溶結)、溶岩の流出という推移を辿った。その間にMgO・Ni量は徐々に増加しており、苦鉄質マグマの寄与率が増加したと考えられる。