日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] デルタとエスチュアリー:複雑な河口システムの理解を目指して

2018年5月21日(月) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:齋藤 文紀(島根大学エスチュアリー研究センター)、堀 和明(名古屋大学環境学研究科地理学講座)、Guan-Hong Lee(共同)、Qing He(State Key Laboratory of Estuarine and Coastal Research, East China Normal University)

[HCG25-P04] 貝形虫と堆積物分析による完新世の大阪平野の水域環境の変遷

*梅田 隆之介1三田村 宗樹1入月 俊明2瀬戸 浩二2大城 遥一1 (1.大阪市立大学大学院、2.島根大学大学院)

キーワード:貝形虫、CNS元素分析、大阪平野、内湾、水域環境変遷

1.はじめに

 大阪平野はその中央を南北に細長く伸びる上町台地によって,西側が西大阪平野,東側が河内平野(河内低地)に区分される.

 西大阪平野ではYasuhara et al.(2004) などにより,貝形虫群集解析に基づき,完新世の水域環境変遷が明らかにされている.一方,河内平野では同様の研究は十分に行われていない.本研究では河内平野西部地域の完新世における水域環境変遷を検討するため,旧大和川最下流域にあたる都島区で得られた桜宮東コアを用い,岩相記載,14C年代測定,CNS元素分析,および貝形虫分析を実施したので,その結果を報告する.

2.コアの処理方法および分析方法

 桜宮東コアは,大阪市都島区の桜宮東公園(標高+0.5 m)で掘削された掘削長18 mの試料である.堆積物の記載と土色・含水率・含泥率の測定,10 cm間隔で貝形虫分析,10 cm間隔でCNS元素分析,および8層準で14C 年代測定を行った.

3.結果および考察

 桜宮東コアは難波累層で構成され,下位より順に,中粒砂–泥層(SH–1),中粒砂–細粒砂層(SH–2),泥層(SH–3),泥–細粒砂層(SH–4)の4ユニットに区分される.SH-1は標高-19.50~-17.60 mで,主に細粒砂~シルトで構成され,上方細粒化の傾向がみられる.SH–2は標高-17.60~–16.00 mで,下部及び中部は中粒砂,上部は細粒砂で構成されている.下部及び中部で貝殻片が産出するが上部ではほとんど産出しない.SH–3は標高-16.00~–8.90 mで,粘土・シルトで構成されている.全体を通して貝殻片が見られる.標高-14.90m付近に鬼界アカホヤ火山灰とみられる火山ガラスの濃集が含まれる. SH–4は,標高-8.90~–1.60mで,下部は植物片を含む粘土・シルトからなり,中部は粘土・シルトから上方粗粒化傾向を示し上部へむけて細粒砂となる.

 桜宮東コアの標高-15.01~7.01 mの計85試料より貝形虫が産出した. Qモードクラスター分析をふまえて群集組成をもとに下位よりA帯B帯C帯D帯に4区分した.A帯(標高-16.01 m)ではT. scabrocuneata(砂泥底種)が優占し,内湾沿岸部の砂泥底環境が推察される.B帯(標高-16.01~13.21 m)はB. bisanensis(内湾泥底種), T. niitsumai(砂底種)が優占し,Pontocythere属(沿岸種)が他の層準と比べ多く含まれ,沿岸砂泥底環境が推定される.C帯(標高-13.11~9.21 m)はB.bisanensisBicornucythere sp. U(内湾泥底種)が優占した.C帯はC1~C3亜帯に細分した.C1亜帯は産出個体数が他の層準と比べ低く,優占種のB.bisanensisの割合が高いことから,閉鎖的な内湾環境が推定される.C2亜帯(標高-12.51~11.31 m)は水深15 m程度の湾央泥底環境を示すK. japonica(沖合種)が産出し,そのピークは標高-11.71 m層準(6400年前頃)にあり,最高海水準期を示唆する.C3亜帯(標高-11.21~9.01m)はBicornucythere sp. Uの割合が増加し,A. obai(内湾中央種)が産出し,水深10 m程度の湾央の泥底環境が推定される.D帯(標高-8.91 ~7.61 m)は水深5 m程度の汽水環境を示唆するBicornucythere sp. Mが優占する.

 CNS元素分析結果から,標高-17.5~16.5 mの層準では,TOC値が1.4%前後を示し,C/N比12前後,全イオウ値1.5%前後と高く,堆積物中に陸起源の植物が多く含まれること,還元環境で堆積したことを示唆する.旧河谷沿いに形成されたエスチュアリーで塩水くさびが発達するような汽水的環境が想定される.また,C/N比は標高-16.5 mから上位へ上昇し,15前後となる.これは陸源高等植物起源の有機物の供給量の増加を示唆する.

 したがって,水域環境変遷は以下のよう推定される.約9000年前ごろ汽水環境から海進が始まり,8000年前ごろに沿岸部環境をへて7000年前には水深5~10m程度の内湾沿岸部の砂泥底の環境となった.その後,水深15m程度の湾央泥底環境となり,約6400年前に最高海水準期を迎えた.6000年前頃以降,水深10~15m程度の湾央泥底環境をへて約5500年前に急激に浅くなり,水深5m以浅の汽水環境になった後,約3700年前には淡水環境へ推移した.