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[HCG27-06] 福島県阿武隈山地の林野火災に係る放射性セシウム環境動態への影響
キーワード:林野火災、放射性セシウム、山地森林、東京電力福島第一原子力発電所事故
はじめに
東京電力福島第一原子力発電所事故に由来する放射性物質のうち、137Csは半減期が約30年と長く、今後長期にわたり分布状況をモニタリングし、その影響を注視していく必要がある。福島県の約7割を占める森林域では、これまでの長期観測により137Csは森林内に留まる傾向が明らかになりつつあるものの[1]、住民帰還が進む中では、様々な状況の森林における137Cs環境動態の把握が重要と考えられる。本論では、2017年春に発生した福島県浪江町での林野火災に係る137Cs環境動態について、延焼地と非延焼地における137Csの分布状況及び森林斜面からの流出状況に関する調査結果を報告する。なお、同林野火災に関する大気浮遊じんの測定結果等は、既報[2]を参照されたい。
調査地と手法
調査地は福島県阿武隈山地の東縁に位置する山地森林であり、東京電力ホールディングス福島第一原子力発電所の西方10 kmに位置する。林野火災により、アカマツ-落葉広葉樹混交林が分布する標高約300 – 400 mの尾根部から、スギ林が分布し渓流に隣接する山麓部にかけての約75 haが延焼した[2]。一部で樹木の燃焼もあったものの、主に林床のリター層を中心に燃焼したものであり、燃焼の程度としては軽度の林野火災とされている[3]。
試料採取は、尾根部のアカマツ林と落葉広葉樹林及び山麓部のスギ林において、各々延焼地と非延焼地を対象に鎮火約1ヶ月後の2017年6月から11月に実施した。リター及び土壌試料は、各林分にて約20 m四方の範囲に5 m間隔のグリッドを設定し、林分当たり15 – 20試料を採取した。リター層は20 cm四方の面積で全量採取し、土壌層は直径5 cmのライナー採土器にて深度約20 cmまで採取した。採取試料の乾燥等の前処理後、試料を撹拌し必要量を分取し、Ge半導体検出器により137Cs濃度(Bq/kg)を測定した。137Cs存在量(Bq/m2)は、試料の採取面積、重量及び137Cs濃度から算出した。山麓部での137Cs流出観測は、斜面の傾斜方向に長辺を有する5×2 mの観測区画にて実施した。斜面傾斜は約30度である。区画端部に設置した回収箱に流入した流出物(土壌、リター)を2017年6月から降雪直前の12月中旬まで月1回の頻度で回収するとともに、林床の被覆面積を計測し林床被覆率を算出した。137Cs流出量(Bq/m2)は、観測区画の面積、流出物の重量及び137Cs濃度から算出した。137Cs流出率は、観測区画近傍の137Cs存在量に対する流出量の百分率とした。
結果
延焼地と非延焼地におけるリター層の137Cs存在量を比較した結果、尾根部のアカマツ林と落葉広葉樹林では有意な差異を見出せなかった。一方、山麓部のスギ林における延焼地と非延焼地を比較すると、延焼地の山麓斜面ではリター層や下層植生による林床被覆がなく土壌層が露出しており、火災時にそれらが焼損し、消火放水もしくは火災後の降雨で流出したと考えられる。延焼地のリター量と137Cs濃度が非延焼と同様であったとすると、スギ林の非延焼地では137Cs存在量に占めるリター層の割合が1.5 – 5.8%であることから、延焼地で同程度の137Cs流出が生じたと推定される。土壌層は、いずれの林分においても、延焼地と非延焼地で137Cs存在量に有意な差異は見出せなかった。このため、林野火災による137Cs分布状況への影響は、林床被覆の焼損に関連した137Cs流出に限定されると考えられる。
鎮火約1ヶ月後の2017年6月から12月にかけて実施した延焼地と非延焼地における137Cs流出観測の結果、観測期間あたりの流出率は延焼地で2.6%、非延焼地で0.15%となり、延焼地の流出率は非延焼地の約17倍であった。非延焼地の林床被覆率90 – 92%と比較すると、延焼地の被覆率は6月の10%程度から徐々に回復したものの12月時点で59%であり、林床被覆の焼損が比較的高い流出率に関連していると考えられる。
以上の結果は、本調査で対象とした林野火災では、林床を被覆するリター層や下層植生の焼損が137Cs分布や流出状況の変化に係る主な要因であり、林床被覆の回復を促進する環境整備が流出抑制において重要と考えられる。
[1]Niizato et al., 2016, J. Environ. Radiact. 161, 11-21.
[2]福島県放射線監視室・環境創造センター, 浪江町林野火災に伴う放射性物質の環境影響把握のための調査結果について(中間報告). 第18回環境モニタリング評価部会資料(2017年12月6日)
[3]林野庁, 福島県浪江町・双葉町国有林火災跡地の実態調査の結果について. 林野庁プレスリリース(2017年6月23日)
東京電力福島第一原子力発電所事故に由来する放射性物質のうち、137Csは半減期が約30年と長く、今後長期にわたり分布状況をモニタリングし、その影響を注視していく必要がある。福島県の約7割を占める森林域では、これまでの長期観測により137Csは森林内に留まる傾向が明らかになりつつあるものの[1]、住民帰還が進む中では、様々な状況の森林における137Cs環境動態の把握が重要と考えられる。本論では、2017年春に発生した福島県浪江町での林野火災に係る137Cs環境動態について、延焼地と非延焼地における137Csの分布状況及び森林斜面からの流出状況に関する調査結果を報告する。なお、同林野火災に関する大気浮遊じんの測定結果等は、既報[2]を参照されたい。
調査地と手法
調査地は福島県阿武隈山地の東縁に位置する山地森林であり、東京電力ホールディングス福島第一原子力発電所の西方10 kmに位置する。林野火災により、アカマツ-落葉広葉樹混交林が分布する標高約300 – 400 mの尾根部から、スギ林が分布し渓流に隣接する山麓部にかけての約75 haが延焼した[2]。一部で樹木の燃焼もあったものの、主に林床のリター層を中心に燃焼したものであり、燃焼の程度としては軽度の林野火災とされている[3]。
試料採取は、尾根部のアカマツ林と落葉広葉樹林及び山麓部のスギ林において、各々延焼地と非延焼地を対象に鎮火約1ヶ月後の2017年6月から11月に実施した。リター及び土壌試料は、各林分にて約20 m四方の範囲に5 m間隔のグリッドを設定し、林分当たり15 – 20試料を採取した。リター層は20 cm四方の面積で全量採取し、土壌層は直径5 cmのライナー採土器にて深度約20 cmまで採取した。採取試料の乾燥等の前処理後、試料を撹拌し必要量を分取し、Ge半導体検出器により137Cs濃度(Bq/kg)を測定した。137Cs存在量(Bq/m2)は、試料の採取面積、重量及び137Cs濃度から算出した。山麓部での137Cs流出観測は、斜面の傾斜方向に長辺を有する5×2 mの観測区画にて実施した。斜面傾斜は約30度である。区画端部に設置した回収箱に流入した流出物(土壌、リター)を2017年6月から降雪直前の12月中旬まで月1回の頻度で回収するとともに、林床の被覆面積を計測し林床被覆率を算出した。137Cs流出量(Bq/m2)は、観測区画の面積、流出物の重量及び137Cs濃度から算出した。137Cs流出率は、観測区画近傍の137Cs存在量に対する流出量の百分率とした。
結果
延焼地と非延焼地におけるリター層の137Cs存在量を比較した結果、尾根部のアカマツ林と落葉広葉樹林では有意な差異を見出せなかった。一方、山麓部のスギ林における延焼地と非延焼地を比較すると、延焼地の山麓斜面ではリター層や下層植生による林床被覆がなく土壌層が露出しており、火災時にそれらが焼損し、消火放水もしくは火災後の降雨で流出したと考えられる。延焼地のリター量と137Cs濃度が非延焼と同様であったとすると、スギ林の非延焼地では137Cs存在量に占めるリター層の割合が1.5 – 5.8%であることから、延焼地で同程度の137Cs流出が生じたと推定される。土壌層は、いずれの林分においても、延焼地と非延焼地で137Cs存在量に有意な差異は見出せなかった。このため、林野火災による137Cs分布状況への影響は、林床被覆の焼損に関連した137Cs流出に限定されると考えられる。
鎮火約1ヶ月後の2017年6月から12月にかけて実施した延焼地と非延焼地における137Cs流出観測の結果、観測期間あたりの流出率は延焼地で2.6%、非延焼地で0.15%となり、延焼地の流出率は非延焼地の約17倍であった。非延焼地の林床被覆率90 – 92%と比較すると、延焼地の被覆率は6月の10%程度から徐々に回復したものの12月時点で59%であり、林床被覆の焼損が比較的高い流出率に関連していると考えられる。
以上の結果は、本調査で対象とした林野火災では、林床を被覆するリター層や下層植生の焼損が137Cs分布や流出状況の変化に係る主な要因であり、林床被覆の回復を促進する環境整備が流出抑制において重要と考えられる。
[1]Niizato et al., 2016, J. Environ. Radiact. 161, 11-21.
[2]福島県放射線監視室・環境創造センター, 浪江町林野火災に伴う放射性物質の環境影響把握のための調査結果について(中間報告). 第18回環境モニタリング評価部会資料(2017年12月6日)
[3]林野庁, 福島県浪江町・双葉町国有林火災跡地の実態調査の結果について. 林野庁プレスリリース(2017年6月23日)