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[HDS10-06] 千島海溝南部における確率論的津波ハザード評価 (1) すべての地震を「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として扱かった場合の評価
キーワード:千島海溝、津波、確率論的津波ハザード評価、確率
昨年12月、地震調査研究推進本部地震調査委員会は「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)」を公表した。今回、同長期評価によらず、将来千島海溝南部で発生し得るすべての地震を「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として取扱い、予察的に津波のハザード評価をおこなったので、その結果について紹介する。
まず、千島海溝南部の十勝沖からシムシル島沖までの沈み込み帯で発生しうる地震の特性化波源断層モデル群を「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として構築する。これは、過去発生した千島海溝南部の地震の震源の形状・規模、発生履歴などの地震学的な知見を用いず、日本の他の地域の地震にも当てはまる、標準的なルールだけを用いて、津波ハザード評価をおこなうための前提条件となる。震源形状に関する情報がない場合、地震学的には点震源ないし円形の震源として表現するのが普通であるが、津波計算を効率的におこなうため「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として正方形状の波源断層モデルを設定することとした。
Mw7.0から9.4までの地震を評価対象とした。概ねMw8.5以上になると正方形状の断層モデル(あるいは、大すべり域)の奥行きが地震発生領域の奥行きよりも大きくなってしまう。この問題を回避するために、断層モデル(あるいは、大すべり域)の形状を調整し、調整後の断層モデルが地震発生領域内に収まるようにした(詳細は大嶋・他、本大会)。したがって、Mw8.5以上の地震については、千島海溝南部の地震学的な情報である「地震発生領域の形状」によってその断層モデルの形状などが規制されることになるので、厳密な意味ではMw8.5以上の地震の断層モデルは「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として扱っていないことに注意を要する。また、Mw8.5以上の波源断層モデルに対しては大すべり域を断層面上の異なる位置に設定し、すべり不均質の多様性を表現した。Mw8.4以下に対しては1個の大すべり域を断層中央に固定し、すべり不均質の多様性を、(発生確率、最大水位上昇量)を変数にもつ2次元空間における対数正規分布形状の確率密度関数で表現した。最終的に構築した特性化波源断層モデルの数は3,347個である。
すべての特性化波源断層モデルに対して、Okada(1992)とTanioka and Satake(1996)の方法を用いて初期水位を計算、最小50m間隔の陸上・海底地形データのネスティング・グリッド・システムを用いて、移流項、海底摩擦項、全水深項を含む非線形長波方程式に、陸側に遡上境界条件、海側に透過条件を課し、差分法を適用して津波予測計算を実施、海岸でのすべてのハザード評価地点に対して最大水位上昇量を計算した(齊藤・他、本大会)。
1923年から2010年までの気象庁カタログから、千島海溝南部で発生したMw7.0以上のプレート間地震の年発生頻度を0.362個/年と見積もり、b値として日本付近に標準的な値の0.9(藤原・他、2014、防災科研研究資料)を持つG-R則を用いて, 地震規模毎の発生頻度を求めた。同じ地震規模をもつすべての地震群は、その地震規模に固有の年平均発生頻度をもつ定常ポアソン過程にしたがって(時間的にランダムに)発生すると仮定し、3,347個の地震に対して発生確率を与え、すべてのハザード評価地点に対してハザードカーブを推定した(詳細については、阿部・他、本大会)。このように、ほぼすべての地震を「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として取り扱って推定した津波ハザード評価は、十勝沖、根室沖などの個々の震源域で過去発生した大地震の地震規模や発生間隔などの、個別の大地震の地震学的な情報に基づいてはおらず、その意味において、確率論的にはより大きな不確実性を含む津波評価と考えられる。別の言い方をすると、新しい知見が得られ個別の大地震像が将来変更されても、その影響を受けにくいロバストな津波評価とも考えられる。
評価結果の一例について紹介する。30年超過確率3%(再現期間1000年相当)の最大水位上昇量分布図から、北海道襟も岬付近から根室半島までの海岸および、歯舞諸島、色丹島、国後島、択捉島の太平洋岸において、10mを超える津波が予想される。一方、30年超過確率分布図から、今後30年間に、上記の海岸線において、最大水位上昇量が3mを超える超過確率が概ね30%以上であると評価される。後者の結果は、少なくとも100年に1回程度、これらの海岸線で3mを超える津波が襲来することを意味する。
今後、防災科研ではこの長期評価報告書で評価された地震に関する情報に基づき津波ハザード評価をおこなっていく予定である。本研究は防災科研の研究プロジェクト「ハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施している。
まず、千島海溝南部の十勝沖からシムシル島沖までの沈み込み帯で発生しうる地震の特性化波源断層モデル群を「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として構築する。これは、過去発生した千島海溝南部の地震の震源の形状・規模、発生履歴などの地震学的な知見を用いず、日本の他の地域の地震にも当てはまる、標準的なルールだけを用いて、津波ハザード評価をおこなうための前提条件となる。震源形状に関する情報がない場合、地震学的には点震源ないし円形の震源として表現するのが普通であるが、津波計算を効率的におこなうため「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として正方形状の波源断層モデルを設定することとした。
Mw7.0から9.4までの地震を評価対象とした。概ねMw8.5以上になると正方形状の断層モデル(あるいは、大すべり域)の奥行きが地震発生領域の奥行きよりも大きくなってしまう。この問題を回避するために、断層モデル(あるいは、大すべり域)の形状を調整し、調整後の断層モデルが地震発生領域内に収まるようにした(詳細は大嶋・他、本大会)。したがって、Mw8.5以上の地震については、千島海溝南部の地震学的な情報である「地震発生領域の形状」によってその断層モデルの形状などが規制されることになるので、厳密な意味ではMw8.5以上の地震の断層モデルは「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として扱っていないことに注意を要する。また、Mw8.5以上の波源断層モデルに対しては大すべり域を断層面上の異なる位置に設定し、すべり不均質の多様性を表現した。Mw8.4以下に対しては1個の大すべり域を断層中央に固定し、すべり不均質の多様性を、(発生確率、最大水位上昇量)を変数にもつ2次元空間における対数正規分布形状の確率密度関数で表現した。最終的に構築した特性化波源断層モデルの数は3,347個である。
すべての特性化波源断層モデルに対して、Okada(1992)とTanioka and Satake(1996)の方法を用いて初期水位を計算、最小50m間隔の陸上・海底地形データのネスティング・グリッド・システムを用いて、移流項、海底摩擦項、全水深項を含む非線形長波方程式に、陸側に遡上境界条件、海側に透過条件を課し、差分法を適用して津波予測計算を実施、海岸でのすべてのハザード評価地点に対して最大水位上昇量を計算した(齊藤・他、本大会)。
1923年から2010年までの気象庁カタログから、千島海溝南部で発生したMw7.0以上のプレート間地震の年発生頻度を0.362個/年と見積もり、b値として日本付近に標準的な値の0.9(藤原・他、2014、防災科研研究資料)を持つG-R則を用いて, 地震規模毎の発生頻度を求めた。同じ地震規模をもつすべての地震群は、その地震規模に固有の年平均発生頻度をもつ定常ポアソン過程にしたがって(時間的にランダムに)発生すると仮定し、3,347個の地震に対して発生確率を与え、すべてのハザード評価地点に対してハザードカーブを推定した(詳細については、阿部・他、本大会)。このように、ほぼすべての地震を「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として取り扱って推定した津波ハザード評価は、十勝沖、根室沖などの個々の震源域で過去発生した大地震の地震規模や発生間隔などの、個別の大地震の地震学的な情報に基づいてはおらず、その意味において、確率論的にはより大きな不確実性を含む津波評価と考えられる。別の言い方をすると、新しい知見が得られ個別の大地震像が将来変更されても、その影響を受けにくいロバストな津波評価とも考えられる。
評価結果の一例について紹介する。30年超過確率3%(再現期間1000年相当)の最大水位上昇量分布図から、北海道襟も岬付近から根室半島までの海岸および、歯舞諸島、色丹島、国後島、択捉島の太平洋岸において、10mを超える津波が予想される。一方、30年超過確率分布図から、今後30年間に、上記の海岸線において、最大水位上昇量が3mを超える超過確率が概ね30%以上であると評価される。後者の結果は、少なくとも100年に1回程度、これらの海岸線で3mを超える津波が襲来することを意味する。
今後、防災科研ではこの長期評価報告書で評価された地震に関する情報に基づき津波ハザード評価をおこなっていく予定である。本研究は防災科研の研究プロジェクト「ハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施している。