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[HDS10-16] 津波シナリオ選別の多重化による津波遡上即時予測システムの高度化
キーワード:津波即時予測、津波シナリオバンク、日本海溝海底地震津波観測網(S-net)
防災科学技術研究所では、日本海溝海底地震津波観測網(S-net)で観測された沖合での水圧変動を説明する津波シナリオ(波源断層モデルとそれから計算される津波伝播・遡上浸水の一連の情報)群を津波シナリオバンクより高速に検索することにより、沿岸での津波高のみならず陸域での遡上浸水までを予測する津波遡上即時予測システムを、千葉県九十九里・外房を対象地域として開発を進めている(青井・他, 2015, 連合大会)。これまでに構築したプロトタイプシステムでは、津波成分を抽出するために120秒から1,800秒のバンドパスフィルタを施したリアルタイム水圧観測データについて、定常的にMulti-index法(Yamamoto et al., 2016, EPS)に基づきシナリオの沖合水圧データとの比較を行う。これによりフィルタ後の水圧変動の絶対値の最大値(ピークホールド値)について、相関係数と2種類のバリアンスリダクションの3つの指標すべてが閾値を超えるシナリオ(群)を沖合での水圧データの一致度が高いシナリオとして選び出し、情報をデータベースへと格納する。実際にS-netで観測されたデータを常時システムに流通させたシステムの動作検証(鈴木・他, 2017, 地震学会)より、フィルタ後1cm相当程度の定常的なノイズによってもMulti-index法の閾値を超えるシナリオが選別される場合があることが分かった。グリーンの定理を考慮するとS-net観測点と沿岸との増幅率は最大でも10倍未満のため、いずれかの観測点で5cm相当以上の水圧変動が観測された場合に、選別されたシナリオ群より予測情報を作成することにしている。
Multi-index法によるシナリオ選別には、過大評価と過小評価にそれぞれ感度のある2種類のバリアンスリダクションを用いて水圧データを評価することにより津波の規模を押さえることができる、ピークホールド値を用いることにより多少の時間的なずれの影響を受けにくいという利点がある。その利点の裏返しとして時間情報による拘束があまり強くないことや、水圧データのみを用いるため海底観測網の分布形状に依存して選別されやすいシナリオが存在することにより、現在の津波の状況を説明しているシナリオを比較的多めに選別している可能性がある。特に観測網の端部で水圧変動が生じた際には、その外側への断層面の広がりを水圧データのみで即時的に把握するのは難しい場合がある。そのためMulti-index法により選別されたシナリオ群をさらに別の特徴を持つ情報や別の視点からの絞込みを行うことにより、よりロバストで精度の高い予測を図ることを検討している。別の特徴を持つ情報として地震波データより推定される震源情報があり、試験システムにおいて気象庁による震源情報の取り込みを開始して検証を可能としている。これまで有意な津波を伴う地震は発生していないため、既往地震の模擬データを用いて一段目のMulti-index法により選別されたシナリオ群のうち、波源断層モデルが震央位置を含むか震央から一定距離以内に位置し、津波開始発生時刻と震源情報の地震発生時刻が一定の時間内に含まれるシナリオを選別する検証を行った。即時的な震源情報の地震規模は過小である可能性を考慮して、地震規模による絞込みは行なっていない。この二段階の選別により、一段目で選別では押さえの利いていなかった観測網外に広がりをもつシナリオを適切に除外することができた。また震源情報の利用は地震津波時の予測精度の向上だけでなく、平時のシステム安定性の向上にも活用が期待される。現在のプロトタイプシステムでは定常的なノイズの影響を避けるため、水圧変動が5cm相当以上でシナリオ選別がされた場合に予測情報を作成している。しかしながら台風等による高い波浪の影響が水深の浅い陸寄りの観測点のフィルタ後の水圧データに現れて、ほぼその観測点のみに5cm相当以上の水圧変動を生じる、陸にかかる波源断層モデルを持つシナリオが選別される場合が見られた。このように観測網の端部に波源断層モデルを持つシナリオの確からしさを水圧データのみで確認することは難しいため、対応する地震が発生しているかを震源情報に基づき検証することは有効である。これらのMulti-index法と震源情報による二段階の選別のほかに、Multi-index法によるシナリオ群から平均的な浸水分布を持つシナリオへの絞込みや地域ごとに適した浸水分布を持つシナリオへの絞込みを行う二段階の選別をシステムに実装予定である。
謝辞:本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施した。
Multi-index法によるシナリオ選別には、過大評価と過小評価にそれぞれ感度のある2種類のバリアンスリダクションを用いて水圧データを評価することにより津波の規模を押さえることができる、ピークホールド値を用いることにより多少の時間的なずれの影響を受けにくいという利点がある。その利点の裏返しとして時間情報による拘束があまり強くないことや、水圧データのみを用いるため海底観測網の分布形状に依存して選別されやすいシナリオが存在することにより、現在の津波の状況を説明しているシナリオを比較的多めに選別している可能性がある。特に観測網の端部で水圧変動が生じた際には、その外側への断層面の広がりを水圧データのみで即時的に把握するのは難しい場合がある。そのためMulti-index法により選別されたシナリオ群をさらに別の特徴を持つ情報や別の視点からの絞込みを行うことにより、よりロバストで精度の高い予測を図ることを検討している。別の特徴を持つ情報として地震波データより推定される震源情報があり、試験システムにおいて気象庁による震源情報の取り込みを開始して検証を可能としている。これまで有意な津波を伴う地震は発生していないため、既往地震の模擬データを用いて一段目のMulti-index法により選別されたシナリオ群のうち、波源断層モデルが震央位置を含むか震央から一定距離以内に位置し、津波開始発生時刻と震源情報の地震発生時刻が一定の時間内に含まれるシナリオを選別する検証を行った。即時的な震源情報の地震規模は過小である可能性を考慮して、地震規模による絞込みは行なっていない。この二段階の選別により、一段目で選別では押さえの利いていなかった観測網外に広がりをもつシナリオを適切に除外することができた。また震源情報の利用は地震津波時の予測精度の向上だけでなく、平時のシステム安定性の向上にも活用が期待される。現在のプロトタイプシステムでは定常的なノイズの影響を避けるため、水圧変動が5cm相当以上でシナリオ選別がされた場合に予測情報を作成している。しかしながら台風等による高い波浪の影響が水深の浅い陸寄りの観測点のフィルタ後の水圧データに現れて、ほぼその観測点のみに5cm相当以上の水圧変動を生じる、陸にかかる波源断層モデルを持つシナリオが選別される場合が見られた。このように観測網の端部に波源断層モデルを持つシナリオの確からしさを水圧データのみで確認することは難しいため、対応する地震が発生しているかを震源情報に基づき検証することは有効である。これらのMulti-index法と震源情報による二段階の選別のほかに、Multi-index法によるシナリオ群から平均的な浸水分布を持つシナリオへの絞込みや地域ごとに適した浸水分布を持つシナリオへの絞込みを行う二段階の選別をシステムに実装予定である。
謝辞:本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施した。