日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI25] 山岳地域の自然環境変動

2018年5月22日(火) 09:00 〜 10:30 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科、共同)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、座長:苅谷 愛彦(専修大学)

09:30 〜 09:45

[MGI25-03] 奥羽山脈における巨大地すべり地の土塊発達に応答した湿地の形成および発達

*佐々木 夏来1須貝 俊彦1 (1.東京大学大学院新領域創成科学研究科)

キーワード:地すべり、地形発達、湿地、奥羽山脈

奥羽山脈の第四紀火山は,なだらかな火山原面を広く残す一方で,巨大地すべりによって解体されつつある.これら両地形面には多数の湿地が形成され,山岳地域の豊かな生態系の創出に大きな役割を果たしている.火山原面と比較して,巨大地すべり地では少雪地にも湿地が分布しており,山岳湿地の形成に巨大地すべりが寄与していると考えられる(佐々木・須貝, 2016).本研究は,奥羽山脈の仙岩および船形火山地域の巨大地すべり地内で複数の湿地を掘削調査し,湿地の発達過程を復元するとともに,巨大地すべり活動とその後の土塊の解体が湿地の形成と発達に及ぼす影響について考察する.なお本研究では,自然状態の池および湿原をあわせて湿地とよぶ.

仙岩火山地域の菰ノ森地すべり地内に形成された大谷地では,約5500年前に大規模な池が出現し,約3300年前に湿原へと発達したこと,池の出現と池から湿原への発達がそれぞれ地形変化の影響で起こったことが明らかとなった.同地域の茶臼岳南地すべり地は,菰ノ森地すべり地よりも土塊の侵食が顕著であることから,菰ノ森地すべり地よりも形成時期が古いと推定される.したがって,茶臼岳南地すべり土塊上部に分布する池は,数千年間以上存続してきた可能性がある.また,船形火山地域のすげ沼地すべり地では,約4万年前の初生すべり(八木,1990)の後,1万年前以降の地すべりの再活動(八木,1990)や土塊の解体に伴って,新たな湿地が追加されていることが明らかとなった.

地すべりの活動期間は数万年から10万年程度であると見積もられており(横山,2004),地すべり土塊の消滅までは約100万年と推定されている(柳田・長谷川,1993).したがって,地すべり活動に伴って形成された湿地が数千年スケールで池または湿原の状態を保持している間に,地すべりの再活動や土塊の開析が進み,新たに湿地が追加される状況が数十万年間程度継続する可能性が考えられる.この時間スケールは氷期-間氷期サイクルよりも長く,地すべり地内には湿地が長期間にわたって安定的に存在し,豊かな生態系が保持されると考えられる.



引用文献

佐々木夏来・須貝俊彦 (2016) 八幡平における湿地の分布特性と形成環境. 2016年日本地理学会春季学術大会発表要旨集 89, 233.

八木令子 (1990) 船形山・泉ヶ岳火山の最終氷期以降の大規模地すべり地形. 東北地理, 42, 131–151.

柳田誠・長谷川修一 (2000) 地すべり地形の年齢―地すべり地形の形成から消失するまでの時間―. 第39回日本地すべり学会研究発表会講演集, 591–594.

横山俊治 (2004) 進化系列と進化階程. 社団法人日本地すべり学会地すべりに関する地形地質用語委員会編「地すべり―地形地質的認識と用語」: 46–52, 日本地すべり学会.