日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI25] 山岳地域の自然環境変動

2018年5月22日(火) 13:45 〜 15:15 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科、共同)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、座長:佐々木 明彦

15:00 〜 15:15

[MGI25-18] 北アルプスと頸城山塊のライチョウ個体群を対象とした生息適地推定

★招待講演

*望月 翔太1長野 康之2 (1.新潟大学、2.国際自然環境アウトドア専門学校)

キーワード:ライチョウ、生息適地、ニッチ分化、希少種、最大エントロピー

日本のライチョウは北アルプスと南アルプス、その周辺の山岳にのみ生息しており、世界で最も南に分布するライチョウである。現在、絶滅危惧II類に分類されている。かつては、中央アルプス、蓼科山、八ヶ岳、白山にも生息していたが、すでにこれらの個体群は絶滅が確認されている。現在、観光開発による生息地の減少や分断化、登山者や観光客の増加による生息環境の攪乱、天敵のキツネやカラスの増加、環境汚染による病気や寄生虫の増加など、様々な問題により、ライチョウの生息環境は年々悪化している。そのため、早急な保全的措置を行わなければならない。希少種の保全を実施する上で、生息に適したエリアを抽出し、可視化する事は、保全シナリオの基礎情報となる。本発表では、ライチョウの生息適地に関する評価を実施することを目的とする。特に北アルプスと頸城山塊のライチョウ個体群で好適な環境の差異について明らかにする。なお、ライチョウのデータについては、一般の登山者が集めた市民参加型データの活用も試みる。

ライチョウの生息と周辺環境との関係性を評価する際、生息地の土地被覆情報が必要である。今回、使用可能な衛星データが限られたため、2006年に撮影されたLANDSATデータを使用した。本来ならば、衛星データや空中写真をベースとして、現況を評価した植生図や土地被覆分類図が必要となるが、対象地が高標高域である事から、雪や雲の影響が多く、その他の衛星データ(ALOS/AVNIR-2, IKONOS, Geo-eye, Rapid-eyeなど)が使用できなかった。そのため、LANDSATデータから森林境界のみを抽出し、森林内の被覆は環境省の植生図を使用した。ここでは、計9個の土地被覆クラスを設けた。広葉樹林、針葉樹林、背丈の低い草地、背丈の高い草地、耕作地、裸地、市街地、水域、及びハイマツ・風衝草原である。これらのクラスをもとに土地被覆に関する複数の環境要因を作成した。また地形要員として、10m-DEMと、そこから作成した傾斜角、及びDEMの標準偏差(地形のなめらかさを表現)を用いた。変数間の相関を確認し、最終的に森林、ハイマツ、背丈の低い草地、背丈の高い草地の面積割合、傾斜角、傾斜方向を環境要因とした。ライチョウの潜在的な分布を評価するため、最大エントロピー法(MaxEnt)によって分布域の推定を行った。MaxEntは在情報のみから動物の分布を推定する手法の一つである。これまで、動物の分布推定を行う際、動物がいた場所といなかった場所(在・不在データ)を二項分布と仮定し、モデリングする事が多かった。しかし、動物の不在情報は取得が難しいため、仮想の不在情報を用いる事が通常だった。この仮の不在情報を使用する場合の問題点はいくつも指摘されており、近年、在情報のみを用いた評価法が注目されている。今回のライチョウ情報には、北アルプスでの調査結果と、頸城山塊での調査結果が存在する。そこで、それぞれの調査エリアの位置情報のみを使用した生息適地モデルを作成した。

ライチョウの生息適地は大きく2つのエリア(北アルプスと頸城山塊)に分かれた。これらのエリアは、ライチョウの位置調査を行ったエリアと同じである。この結果は、ライチョウの生息適地がかなり限定されている事を示している。さらに、北アルプスの地域個体群と頸城山塊の地域個体群それぞれの生息適地に差異が確認された。頸城山塊の地域個体群を使用した適地推定では、北アルプスの生息地も好適な環境として抽出されたが、北アルプスの地域個体群を使用した適地推定では、頸城山塊の生息適地が少ない事が確認された。このことから、ライチョウがそれぞれのエリア特有の環境(北アルプスのみに存在する環境と頸城山塊のみに存在する環境)に依存した生息地利用の形態を取っている事が推察される。さらに、両者の結果から、2つの個体群の生息地以外に、高妻山の生息ポテンシャルが高かった。高妻山はライチョウの生息に適した環境が存在し、代替の生息地として機能している可能性が示唆された。