日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI26] 情報地球惑星科学と大量データ処理

2018年5月21日(月) 10:45 〜 12:15 201A (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:村田 健史(情報通信研究機構)、堀之内 武(北海道大学地球環境科学研究院)、本田 理恵(高知大学自然科学系理工学部門、共同)、野々垣 進(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 情報地質研究グループ)、座長:野々垣 進村田 健史(情報通信研究機構)

10:45 〜 11:00

[MGI26-07] 中分解能マルチスペクトル衛星データからの金属鉱床起因情報の高次抽出法

*小池 克明1Hoang Nguyen Tien1Hede Arie Naftali Hawu2 (1.京都大学工学研究科都市社会工学専攻 地殻環境工学分野、2.バンドン工科大学鉱山石油学部)

キーワード:光学センサ衛星画像、金属鉱床、植生指数、ハイパースペクトル画像、熱水変質鉱物

地球観測衛星を利用したリモートセンシングは,金属鉱床の存在に関連する鉱物を広域から抽出できるので,資源の一次探査法として広く適用されてきた。その中でもLandsatシリーズやTerra ASTERによるマルチスペクトル衛星データは,全陸域にわたって多量に蓄積されている。これらの光学センサ衛星画像の空間分解能は比較的高いものの,新規の鉱床の検出が一層難しくなる現状において,従来法よりも高度なデータ解析法が必要となる。そこで,本研究では金属鉱床に起因した情報をマルチスペクトル衛星データから高精度に抽出することを目的として,以下の2つの手法を提案し,その有効性について検証した。

 1つめは新たな植生指数の提案とその応用である。日本のような厚い植生で覆われた地域では地下に潜在する鉱床をリモートセンシングで見出すことは不可能に近い。しかし,金属鉱床が地表近くに存在すれば,重金属の吸収が植物の生理的活性を阻害し,葉の未成長や白化などの現象が生じる。このようなストレス負荷や季節変化などに伴う植生の活性度を,可視域緑と赤,近赤外域,短波長赤外域でのバンドの反射率から検出する植生指数を定義し,これをVIGS(Vegetation Index considering Greenness and Shortwave infrared: Hede et al., 2015)と称した。

 VIGSをまず,スマトラ島中央にある斑岩銅鉱床域のLandsat ETM+画像に適用し,VIGS値の平均と標準偏差から異常値を定義した.単位面積当たりの異常値が多い箇所は土壌中のCu,Pb,Zn高濃度部の位置と概ね対応した.次のケーススタディは黒鉱鉱床の胚胎で知られる秋田県北鹿地域である.日本では植生の季節変化が大きいので,複数のETM+シーンを選択し,各画素でのVIGSの平均を標準偏差で除した比を用いた.この分布から地形効果,スパイク状の急激な変化,トレンド成分を除き,残差成分の統計値から通常,低異常,高異常の3つに分類した.その結果,高異常が鉱床形成に起因した環状構造を示し,黒鉱鉱床や鉱脈型鉱床の多くがそれに含まれるのが明らかになり,VIGSの有効性を確認できた。VIGSをさらにインドネシアの地熱地帯に適用し,断層分布に沿って植生異常が生じていることなどを見出した。

 2つめは,マルチスペクトルからハイパースペクトルへの変換である。マルチスペクトル衛星データでは,可視域から短波長赤外域にかけてのバンド数が少なく,地表物質の識別精度が低いという欠点がある。一方,この波長帯で200バンド以上を有するHyperionなどのハイパースペクトル衛星データによれば鉱物の識別精度は高いが,観測は軌道直下の狭い範囲に限られ,広域調査には適していない。そこで,PHITA(Pseudo-Hyperspectral Image Trans- formation Algorithm: Hoang and Koike, 2017)という上記の変換手法を開発した。これは,マルチスペクトルとハイパースペクトルデータの各バンドでの反射率を多変量回帰式で関連付け,ベイズ理論,および誤差とパラメータ数のバランスから最適な関連式を抽出することに基づく。数個の反射率データから,ハイパースペクトルのほぼずべてのバンドにおける反射率を決定係数0.9以上でシミュレートできることを示した。PHITAをアメリカ ネバダ州の熱水鉱床域と地熱資源域でのLandsat TM,ETM+,OLI,EO-1 ALIデータに適用し,これらをHyperionデータに変換した。熱水鉱床域では明礬石・カオリナイト・方解石など,地熱資源域では白雲母・緑泥石・方解石・オパールなどの変質鉱物の分布が重要となるが,これらの鉱物の識別に必要となる短波長赤外域のバンドは上記の衛星データには一つしかないので,これまで識別は不可能であった。しかしPHITAによれば,Hyperionの範囲外でも95%以上の正解率でこれらの鉱物分布を明らかにでき,その有効性を実証できた。