日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 古気候・古海洋変動

2018年5月24日(木) 13:45 〜 15:15 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室、共同)、佐野 雅規(早稲田大学人間科学学術院)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、座長:岡 顕

14:52 〜 15:15

[MIS10-28] 最終氷期最盛期の黒潮を対象とした数値シミュレーション

★招待講演

*郭 新宇1,2武藤 玲央1宮澤 泰正2 (1.愛媛大学沿岸環境科学研究センター、2.独立行政法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ)

キーワード:黒潮、最終氷期最盛期、数値モデル

日本周辺海域を流れる黒潮は日本や東アジアの気候形成に重要な役割を果たしている. 現代では,黒潮そのものは概ね安定的に存在しており,気候システムの維持に貢献している.しかし,黒潮は最終氷期最盛期(LGM)では現在と異なる流路を取っていたと考えられている.LGMと言われる約2万年前は現代と環境が大きく異なっていたことが知られており,氷床の発達により海水準低下が引き起こされ,偏西風が南下していたことが示唆されている(Yanase and Abe-Ohuchi, 2007).さらに日射量の変化から大気海洋間の熱フラックスも変化していたと考えられる.そのため,当時の黒潮を推定する際は,上記の3要素を併せて考慮する必要がある.
 先行研究では,特に東シナ海におけるLGM中の黒潮流路について,海底堆積物コアを用いた古海洋学分野の研究から数値シミュレーションを用いた海洋物理学分野の研究まで幅広く行われているが、当時の黒潮流路を完全に復元できているわけではない.前者は限られた観測データから得られた断片的なものであるため黒潮の全体像を捉えられているとは言い難い.後者は,黒潮の上流から下流にかけて全体像を把握することができるが,どれも海水準低下のみの考慮となっており,LGMの環境を完全に考慮した黒潮のシミュレーションではない.
 そこで,本研究ではLGMの環境に関する3要素を導入した海洋大循環モデルを用いて,LGM中の黒潮流路や流速を調べ,さらにシミュレーション結果と先行研究の比較を行うことで個々の結果から得られている断片的な海流像を統合することを目指している.
 海洋大循環モデルはJAMSTECで開発された北太平洋海洋大循環モデル(Miyazawa et al, 2009)を使用した.外力として風応力および海表面熱フラックスを与えて駆動している.計算期間は40年間であり,解析および先行研究との比較には40年目の結果を使用した.現代とLGMの違いおよび何に影響を受けているのかを特定するため,全6ケース(表1)の計算を行った.case1は現代を想定したケースであり,case2はLGMの環境を導入したケースである.case3は物理環境(海水準低下と偏西風の南下)を導入し熱フラックスの影響を調べた.case4はUjiie et al.(1991)で示されている台湾-与那国島間に存在していたとされる陸橋(land-bridge)の影響の調べるために行った.case5とcase6は風と海水準低下をそれぞれ導入することで,両要素が黒潮に与える影響を調べた.海水準低下は海洋大循環モデル内の水深を変化させることで対応した.LGMの風応力および海表面熱フラックスは,古気候モデルであるPSL-CM5(Dufresne et al, 2013)のデータを使用することで対応した.現代については, National Centers for Environmental Prediction(NCEP)のデータを使用した.
 日本周辺海域における現代と本シミュレーション結果から推定されたLGMの黒潮流路に着目すると,case1とcase2ともに,北赤道海流から分岐後,西岸に沿って北上し東シナ海に流入していた.しかし東シナ海内での流れが異なりcase2では黒潮の半分はケラマギャップから再循環流として流出していた.日本南岸および黒潮続流域に着目すると,case2の黒潮が複数の分岐流路を取っており,どの流路もcase1より南側を流れていた.LGMに黒潮が東シナ海に流入するという結果は, Kubota et al.(2017)の沖縄トラフ上の海洋堆積物コアに含まれる底生有孔虫化石を用いた研究結果と一致している.日本南岸において現代より南側を流れるという結果は,尾田・嶽本(1992)が西南日本沖4海域で得られた海洋堆積物コアに含まれる浮遊性有孔虫化石群集の鉛直分布から推論した20000~16000年前の黒潮流路と概ね一致する.さらにモデル結果中の黒潮続流域の南下は,Kawahata and Ohshima(2002)が海洋堆積物コアに含まれる花粉の種類から推測したLGMの黒潮続流が3度程度南下と一致している.これらの結果から,LGMと現代では特に東シナ海~日本南岸における黒潮流路が大きく異なっていたことがわかる.東シナ海の流路変化に関しては海水準低下による海底地形変化が関係していると考えられる。また,日本南岸や黒潮続流の南下は,風場と熱フラックスの影響が考えられる.黒潮の流速は現代より弱くなっており,その原因は北赤道海流が弱くなったことに関係すると考えられる.