[MIS18-P04] 火星大気小規模重力波が水・物質鉛直輸送に与える影響
キーワード:火星、水、重力波
火星は過去に温暖湿潤な環境が存在していたと考えられており、現在の乾燥寒冷な環境への劇的な気候変動を明らかにすることは、過去そして現在の火星の生命生存可能性の理解において重要である。火星の劇的な気候変動は、大気の宇宙空間への流出によって引き起こされた可能性が高く、その物理機構の解明が急務となっている。近年のMEX・MAVEN衛星観測によって、水を起源とするHの宇宙への散逸量が数週間のうちに大きく変動することが発見された[Chaffin+14; Clarke+17]。これはモデルによって予測されるタイムスケールではありえず、下層からHの源となるH2Oを直接高高度に供給するメカニズムが必要である。一方で、我々の予想を超えた高高度(40~80km)にピークをもつH2Oが存在することがMEX/SPICAMにより発見された[Maltagriati+13]。この高度まで持ち上がることができれば数週間のうちに散逸することが理論的に確かめられており[Chaffin+17]、上記の水の散逸と関連づけることができる。これはH2の光解離・拡散から生じる散逸とは全く異なる新しい水の「散逸パス」であり、従来の散逸量の見積もり、つまり過去の火星の水量の推定に大きな変更を強いる可能性がある。水の散逸量がダストストームの時期に増大している点・H2O鉛直分布とエアロゾル分布に関連性が示唆されていることから、下層大気現象が大気散逸に重要な役割を担っていることを示唆している。しかし、いつどこでどのようにH2Oが上層輸送され散逸につながるのか未解明である。本研究は、最新のNASA探査衛星MAVENによる観測データをもとに、近年新たに発見された「水の宇宙散逸の短時間変動」と「水分子の上層大気への鉛直輸送」に着目し、新しい水の散逸パスを明らかにする。本発表では特に、下層大気と超高層大気をつなぎ合わせるメカニズムとして「大気重力波」に着目する。大気重力波は超高層大気において循環場・温度場・組成比に大きな影響を及ぼす重要な役割を担っており、火星大気においてもその重要性は先行研究によって示唆されている[Medvedev et al., 2011]。その時空間変動を調べることで、大気重力波がどのように水・物質の上層大気への鉛直輸送に影響を与えているのかについて考察する。
本研究においてMAVEN観測データを用いて中間圏から下部熱圏(高度30-150km)における温度鉛直分布を調べたところ、鉛直波長10-20km・振幅10-20%程度の波状構造がみつかった。この大気重力波による変動と背景場を合算した気温の高度勾配が大きく、その結果、大気安定度が低い領域が作られていた。その領域で、重力波自身が不安定現象を起こして砕破し、大気乱流層を生成していると考えることができる。これは地球の中間圏においてもみられる現象である。
同MAVEN観測データを用いて、温度分布と均質圏界面高度を同時に求め、大気重力波に起因する不安定現象が乱流を生み出し、背景場に与える影響を調べた。その結果、近日点付近において大気の不安定現象が高度40-100kmに広く頻繁にみられた。これは遠日点付近においてはみられない傾向である。特に、近日点において夏半球である南半球に向かって振幅が増大しており、北半球のそれより3倍程度大きい。近日点南半球でみられた温度振幅は、我々の火星大気大循環モデル[Medvedev and Hartogh, 2007]による予測を上回る大きさであり、モデルに加味されていない大気重力波励起もしくは上方伝搬時における減衰が加わっているのかもしれない。一方で、同じ観測で見積もられた均質圏界面高度は、波状構造の振幅増大とともに高度下限値が上がっている様子がみられた。また、均質圏界面高度の上昇とともに中間圏(高度40-80km)におけるエアロゾル光学的厚さが増大している。
つまり、大気重力波によって波状振幅が増大することで不安定現象が発生、乱流層が生成されることで大気がかき混ぜられる。それによって均質圏界面高度が上昇するのにともなって、エアロゾル等の物質鉛直輸送が引き起こされていると解釈できる。多角的な検証を要するが、高高度水蒸気・水の散逸増大がみられる近日点夏半球において大振幅の大気重力波がみつかり、それによる超高層大気への物質鉛直輸送を駆動する役割が示唆されたことは興味深い。今後、水蒸気プロファイルを含む衛星グローバル観測データを総合的に解析し、「水分子の上層大気への鉛直輸送」を解明することは、大気微量成分の拡散に重要な役割を果たす大気乱流の分布の研究にもつながり、火星の水循環を明らかにする上で重要である。
本研究においてMAVEN観測データを用いて中間圏から下部熱圏(高度30-150km)における温度鉛直分布を調べたところ、鉛直波長10-20km・振幅10-20%程度の波状構造がみつかった。この大気重力波による変動と背景場を合算した気温の高度勾配が大きく、その結果、大気安定度が低い領域が作られていた。その領域で、重力波自身が不安定現象を起こして砕破し、大気乱流層を生成していると考えることができる。これは地球の中間圏においてもみられる現象である。
同MAVEN観測データを用いて、温度分布と均質圏界面高度を同時に求め、大気重力波に起因する不安定現象が乱流を生み出し、背景場に与える影響を調べた。その結果、近日点付近において大気の不安定現象が高度40-100kmに広く頻繁にみられた。これは遠日点付近においてはみられない傾向である。特に、近日点において夏半球である南半球に向かって振幅が増大しており、北半球のそれより3倍程度大きい。近日点南半球でみられた温度振幅は、我々の火星大気大循環モデル[Medvedev and Hartogh, 2007]による予測を上回る大きさであり、モデルに加味されていない大気重力波励起もしくは上方伝搬時における減衰が加わっているのかもしれない。一方で、同じ観測で見積もられた均質圏界面高度は、波状構造の振幅増大とともに高度下限値が上がっている様子がみられた。また、均質圏界面高度の上昇とともに中間圏(高度40-80km)におけるエアロゾル光学的厚さが増大している。
つまり、大気重力波によって波状振幅が増大することで不安定現象が発生、乱流層が生成されることで大気がかき混ぜられる。それによって均質圏界面高度が上昇するのにともなって、エアロゾル等の物質鉛直輸送が引き起こされていると解釈できる。多角的な検証を要するが、高高度水蒸気・水の散逸増大がみられる近日点夏半球において大振幅の大気重力波がみつかり、それによる超高層大気への物質鉛直輸送を駆動する役割が示唆されたことは興味深い。今後、水蒸気プロファイルを含む衛星グローバル観測データを総合的に解析し、「水分子の上層大気への鉛直輸送」を解明することは、大気微量成分の拡散に重要な役割を果たす大気乱流の分布の研究にもつながり、火星の水循環を明らかにする上で重要である。