日本地球惑星科学連合2018年大会

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[O-02] 高校生によるポスター発表

2018年5月20日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

[O02-P37] 静岡県太田川に沿う西向遺跡で発見された洪水堆積物の特徴と年代推定

*鈴木 海渡1近藤 大1鈴木 大介1蔦原 敬登1伊奈 朋弥1 (1.静岡県立磐田南高等学校)

キーワード:洪水堆積物、西向遺跡、太田川低地

1.動機・目的

磐田市の太田川に沿う西向遺跡の露頭で,藤原ほか(2012)によって明らかにされた津波堆積物とよく似た特徴を持つ粗粒な砂からなるイベント堆積物を発見した.しかし,露頭は太田川の近くにあるため,太田川の洪水堆積物の可能性もある.そこで,このイベント堆積物は津波によるものか,それとも洪水によるものなのか,を明らかにすることを目的に研究を行った.



2.方法

 西向遺跡の3ヶ所の露頭で柱状図の作成と,5cm間隔でイベント堆積物の試料を採集した.また,露頭に液体接着剤を塗り,接着乾燥後,剥ぎ取って「剥ぎ取り標本」を作成し堆積構造を観察した.次にこれらのイベント堆積物の粒度組成分析と鉱物組成分析を行った. 

粒度組成分析は,イベント堆積物3.00gを水と混ぜ,長さ2mの沈降管に入れ,沈降速度が粒径によって異なることを利用して,一定時間で堆積する体積を測定した.

鉱物組成分析は超音波洗浄器を用いて粒子を分散し,微粒子を取り除いた後,堆積物を無作為に抽出し,双眼実体顕微鏡により1試料につき最低200個以上の粒子の鉱物の種類を鑑定した.鉱物は石英,長石,岩片,重鉱物,その他に分類し,百分率を求めた.

さらに,イベント堆積物の起源を推定するための比較対象として,太田川上流の深山橋にて河床堆積物,遠州灘鮫島海岸にて海浜堆積物も採取した.最後に,古地理図や遺跡発掘報告書との比較により,堆積年代を推定した.                              



3.結果

3-1 堆積構造

イベント堆積物には,リプルマークやクロスラミナなどの堆積構造が見られた.これらの堆積構造は水の流れにより形成されるため,洪水や津波などによって形成されたことが推定される.しかし,鈴木ほか(2012)の先行研究で明らかにした,津波堆積物特有のマッドドレイプやリップアップクラストはイベント堆積物中には発見できなかった.

3-2 層厚の変化

 作成した柱状図よりイベント堆積物の層厚は,現太田川に面する東側の地点1では86cm,中央南側の地点3では58cm,西側の地点2では10cmである.イベント堆積物の厚さが太田川の上流から下流方向に,東から西の側方方向に薄くなる.

3-3 粒度組成

イベント堆積物の平均粒径は東側の地点1が0.27mm,中央南側の地点3が0.20mm,西側の地点2が0.17mmであった.調査した3地点の位置関係より,東から西にかけて砂が細粒化していることが分かる.これは西側ほど薄層化するという層厚変化の結果とよく対応している.

3-4 鉱物組成

イベント堆積物と太田川の河床堆積物の鉱物組成を比較すると,岩片の割合がイベント堆積物で80%,太田川河床堆積物では88%と近似した高い値を示した.しかし,遠州灘海浜堆積物の岩片は67%と低く,逆に石英や長石の割合が高い.これは太田川の上流は四万十帯の砂岩や泥岩が分布しているのに対して,遠州灘の海浜砂を供給した天竜川上流には領家帯の花崗岩地帯であることによる.これより,イベント堆積物の鉱物組成は,遠州灘海浜砂ではなく,太田川河床堆積物に近似していた.



3-5 津波堆積物と洪水堆積物との比較

以上の結果より,イベント堆積物では,津波堆積物特有の堆積構造であるマッドドレイプやリップアップクラストは見られなかった.また,イベント堆積物の薄層化や細粒化が太田川の上流から下流方向,かつ側方方向である.さらに,鉱物組成は遠州灘の海浜砂に多く見られる石英や長石に乏しく,太田川河床砂の特徴である岩片が多い.よって,イベント堆積物は太田川の洪水により形成された洪水堆積物である.



4.年代推定

この洪水堆積物の堆積年代を推定した.埋蔵文化財調査報告書「西向遺跡」(2011)から,採集地点に最も近い地点TP3-16の柱状図を参考にした.標高2.00m付近の3層直上の砂層が,今回の洪水堆積物に対応しており,3層の下位のX層からは12世紀後半を示す土器が発掘されている.さらに,別地点の3層直上の層準からは江戸時代を示す陶磁器が発見されている.以上より,3層直上は江戸時代であり,この洪水堆積物は江戸時代に発生した太田川の洪水により堆積したことが推定される.



5.結論

イベント堆積物は,粒度組成,鉱物組成より遠州灘ではなく太田川から供給された堆積物であり,堆積構造,層厚の変化から洪水堆積物である.また文献などから,江戸時代に発生した太田川の洪水によるものであることが推定される.



引用文献

・静岡県埋蔵文化財調査研究所,2011,埋蔵文化財調査報告書「西向遺跡」,静岡県埋蔵文化財調査報告,236,1-48

・藤原ほか,2012,静岡県磐田市の元島遺跡とその周辺で見られる2枚の歴史津波堆積物 (演旨),日本地球惑星科学連合大会予稿集,MIS25-09

キーワード:洪水堆積物,西向遺跡,太田川低地