[O02-P38] 2017年12月11日茨城県沖で発生したジェットの形態と成因
キーワード:高高度発光現象、巨大ジェット
1.動機・目的
2007年から静岡県磐田市の本校校舎にてTLEs(高高度発光現象・Transient Luminous Events)の観測を開始した.2017年12月11日22時47分13秒に本校から北東方向に設置したカメラによりTLEsの一種であるジェットを観測した(図1参照).ジェットは非常に発生頻度の低い現象であり,本校の過去の観測では2010年12月9日以来だった.そこで,このジェットの形態や成因を他の高高度発光現象や気象条件と関連させて解明することにした.
2.TLEとは
TLEとは,中間圏・熱圏下部で発生する放電発光現象の総称である.発光形態の違いにより,スプライトやエルブス等の種類がある.ジェットもこの一種で,下端は高度約20km,上端は70~90kmの逆円錐型の発光現象である.他のTLEの殆どが地表付近の落雷に伴って発生するのに対し,ジェットは落雷を伴わずに発生する事が多い.観測例が極めて少ないため,発生メカニズムに関しては不明な点が多い.
3.観測方法
TLEの観測には,高感度CCDカメラ(WAT10N)を使用した.カメラの画像はパーソナルコンピュータにより自動で常時監視され,動体を検知した場合その前後3秒を含めた動画を記録する.パーソナルコンピュータの内部時計は,GPS時計により1/100秒の精度で同期されており,精確な観測時刻を記録する.
4.結果
4-1.ジェット発生地点と高度
本校で観測したこのジェットは,神奈川県相模原市の青山学院大学坂本研究室の段毛毛氏により,同研究室に設置されたカメラにより同時観測されていた.この2地点の観測記録を三角測量の原理を用いて分析した結果,このジェットは茨城県沖の北緯35.57°,東経139.40°で発生し,その上端高度は66.3kmであることが分かった(図2参照).
4-2.ジェットの上昇速度
神奈川県相模原市から観測されたジェットは4コマにわたって撮影されていた.動画をコマ送りにして切り取り,ジェットの発光の上昇速度を計算した.その結果,このジェットは0.1秒間に52.4km上昇しており,上昇速度は523.9km/sであることが分かった(図1参照).
5.各種観測記録との比較
気象観測記録は日本気象協会のホームページに掲載されていた天気図,衛星画像,レーダーによる雨雲画像,アメダスの記録,落雷観測記録はフランクリンジャパンの落雷発生時刻を参照した.スプライト発生地点・時刻はSonotaCo.comの掲示板から入手した.
この結果,同日9時~15時で寒冷前線が通過したこと,18時から22時の間に太平洋上空で雨雲が急速に発達したことが分かった.しかし,落雷はジェット発生地点より半径50km以内で同日21時17分から23時17分の間では,21時22分9秒に発生した1件のみだった.また,スプライトは同日20時47分から翌日0時52分の間に関東沖で12件発生していた.このうち発生地点が特定できた4件のスプライトは,ジェットの発生地点より約150km北東で発生していた.
6.考察
過去のジェットの事例を参照すると,ジェットが発生する前に寒冷前線が通過していることが多い.今回のジェットも寒冷前線が発生時刻の数時間前に通過していることから,寒冷前線の通過がジェット発生のトリガーになっていること予想される.
また,赤外衛星画像やレーダーによる雨雲画像では雨雲は存在していたが,落雷情報によると落雷は殆ど無かったことやジェット発生地点に最も近い水戸のアメダスの記録によると降水が全くなかった.
以上から,寒冷前線が通過したものの,落雷や降水による電荷の解消が起こらなかったことが予想される.このために上空に電荷が蓄積して,これがジェットを発生させた原因だと考えられる.
7.結論
2017年12月11日22時47分13秒に茨城県沖の北緯35.57°,東経139.40°の海上付近から最高度66.3kmで発生したジェットを観測した.このジェットの上昇速度は523.9km/sであった.このジェットの発生前には寒冷前線が通過していたが,発生地点の近傍や発生時刻の前後には,TLEや落雷の発生がなかったことから,対流圏における電荷の蓄積が原因と考えられる.
8.今後の課題
今後もTLEの観測を継続してジェットの観測例を蓄積し,ジェットの発生メカニズムの解明を行いたい.
謝辞
本研究を進めるにあたり,観測記録の提供について青山学院大学段毛毛氏,SonotaCo氏,ITO氏にご協力を賜りました.厚く御礼を申し上げます.
参考文献・ホームページ
東京大学出版会「雷の化学」高橋劭2009
http://www.tenki.jp/past/
http://sonotaco.jp/forum/viewtopic.php?t=4072
2007年から静岡県磐田市の本校校舎にてTLEs(高高度発光現象・Transient Luminous Events)の観測を開始した.2017年12月11日22時47分13秒に本校から北東方向に設置したカメラによりTLEsの一種であるジェットを観測した(図1参照).ジェットは非常に発生頻度の低い現象であり,本校の過去の観測では2010年12月9日以来だった.そこで,このジェットの形態や成因を他の高高度発光現象や気象条件と関連させて解明することにした.
2.TLEとは
TLEとは,中間圏・熱圏下部で発生する放電発光現象の総称である.発光形態の違いにより,スプライトやエルブス等の種類がある.ジェットもこの一種で,下端は高度約20km,上端は70~90kmの逆円錐型の発光現象である.他のTLEの殆どが地表付近の落雷に伴って発生するのに対し,ジェットは落雷を伴わずに発生する事が多い.観測例が極めて少ないため,発生メカニズムに関しては不明な点が多い.
3.観測方法
TLEの観測には,高感度CCDカメラ(WAT10N)を使用した.カメラの画像はパーソナルコンピュータにより自動で常時監視され,動体を検知した場合その前後3秒を含めた動画を記録する.パーソナルコンピュータの内部時計は,GPS時計により1/100秒の精度で同期されており,精確な観測時刻を記録する.
4.結果
4-1.ジェット発生地点と高度
本校で観測したこのジェットは,神奈川県相模原市の青山学院大学坂本研究室の段毛毛氏により,同研究室に設置されたカメラにより同時観測されていた.この2地点の観測記録を三角測量の原理を用いて分析した結果,このジェットは茨城県沖の北緯35.57°,東経139.40°で発生し,その上端高度は66.3kmであることが分かった(図2参照).
4-2.ジェットの上昇速度
神奈川県相模原市から観測されたジェットは4コマにわたって撮影されていた.動画をコマ送りにして切り取り,ジェットの発光の上昇速度を計算した.その結果,このジェットは0.1秒間に52.4km上昇しており,上昇速度は523.9km/sであることが分かった(図1参照).
5.各種観測記録との比較
気象観測記録は日本気象協会のホームページに掲載されていた天気図,衛星画像,レーダーによる雨雲画像,アメダスの記録,落雷観測記録はフランクリンジャパンの落雷発生時刻を参照した.スプライト発生地点・時刻はSonotaCo.comの掲示板から入手した.
この結果,同日9時~15時で寒冷前線が通過したこと,18時から22時の間に太平洋上空で雨雲が急速に発達したことが分かった.しかし,落雷はジェット発生地点より半径50km以内で同日21時17分から23時17分の間では,21時22分9秒に発生した1件のみだった.また,スプライトは同日20時47分から翌日0時52分の間に関東沖で12件発生していた.このうち発生地点が特定できた4件のスプライトは,ジェットの発生地点より約150km北東で発生していた.
6.考察
過去のジェットの事例を参照すると,ジェットが発生する前に寒冷前線が通過していることが多い.今回のジェットも寒冷前線が発生時刻の数時間前に通過していることから,寒冷前線の通過がジェット発生のトリガーになっていること予想される.
また,赤外衛星画像やレーダーによる雨雲画像では雨雲は存在していたが,落雷情報によると落雷は殆ど無かったことやジェット発生地点に最も近い水戸のアメダスの記録によると降水が全くなかった.
以上から,寒冷前線が通過したものの,落雷や降水による電荷の解消が起こらなかったことが予想される.このために上空に電荷が蓄積して,これがジェットを発生させた原因だと考えられる.
7.結論
2017年12月11日22時47分13秒に茨城県沖の北緯35.57°,東経139.40°の海上付近から最高度66.3kmで発生したジェットを観測した.このジェットの上昇速度は523.9km/sであった.このジェットの発生前には寒冷前線が通過していたが,発生地点の近傍や発生時刻の前後には,TLEや落雷の発生がなかったことから,対流圏における電荷の蓄積が原因と考えられる.
8.今後の課題
今後もTLEの観測を継続してジェットの観測例を蓄積し,ジェットの発生メカニズムの解明を行いたい.
謝辞
本研究を進めるにあたり,観測記録の提供について青山学院大学段毛毛氏,SonotaCo氏,ITO氏にご協力を賜りました.厚く御礼を申し上げます.
参考文献・ホームページ
東京大学出版会「雷の化学」高橋劭2009
http://www.tenki.jp/past/
http://sonotaco.jp/forum/viewtopic.php?t=4072