日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] 口頭発表

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[O-05] キッチン地球科学 -手を動かして頭脳を刺激する実験-

2018年5月20日(日) 09:00 〜 10:30 コンベンションホールA(CH-A) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:熊谷 一郎(明星大学理工学部)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)、栗田 敬、座長:熊谷 一郎(明星大学理工学部)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)

09:05 〜 09:20

[O05-01] 液状化実験を活用した防災教育

*手塚 寛1熊谷 裕太2新谷 直己1関 亜美3Muhammad Salman2宮鍋 慶介4久利 美和5 (1.東北大学大学院理学研究科、2. 東北大学大学院工学研究科、3. 東北大学大学院環境科学研究科、4.東北大学大学院情報科学研究科、5.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:防災教育、液状化、地震、津波

1. 背景

液状化現象は、地震動によって地面が液体のように振る舞うことを指す。東日本大震災においては、液状化現象が道路の機能不全などを引き起こして避難行動や救助活動を阻み、間接的に人的被害をもたらした。しかしながら、液状化現象が引き起こす被害は、揺れや津波による被害と比べるとあまり知られていないのが現状である。本報告では、異なる年齢層を対象に実施した、液状化実験を活用する防災教育の事例を紹介し、液状化実験を利用した効果的な防災教育手法について検討する。



2. 液状化実験の手法

 液状化実験は卓上で実験可能な2種類の装置を用いて実施した。1つ目は「エッキー」[防災科学技術研究所(2016)]である。砂と水、マップピンを入れたペットボトルを一度逆さにして元に戻し、砂が沈殿するのを待った上で、ペットボトルを指で叩くと、砂に埋れていたマップピンが浮かんでくる。2つ目は長谷川ほか(2017)によるもので、まず水槽に敷き詰めた砂に水を十分に含ませ、その上に3Dプリンターで作成した建物の模型を置く。水槽を置いた机を叩いて振動を加えると、模型が砂の中に沈み、水槽の中は水浸しになるという実験である。



3.  液状化実験を利用した防災教育の実践

 仙台市で開催されたサイエンスイベントの来場者(主として小学生以下の子どもとその保護者)、および高知市での出張授業に参加した中学生を対象として、液状化実験を活用した防災教育を実施した。

 小学生以下の子どもとその保護者に対しては、液状化現象とその被害について理解を深めてもらうことを目的として防災教育を行った。実験を通して液状化現象を体感してもらうとともに、実験結果について親子で会話することによって理解を深めてもらいたいという狙いから、実験中心の内容で防災教育を行った。参加者に2種類の装置で実験してもらいながら、液状化現象が地震によって発生しうることや発生した場合の被害について我々が簡単に解説した。子どもたちは、自ら実験を行い、液状化現象を間近で見ることで、「何故起きるのか?」「どうすれば防ぐことができるのか?」などと興味を示していた。また、液状化現象が起きる原因について「実はよくは知らなかった」という反応をする保護者も少なくなく、親子それぞれの液状化現象への興味・関心を高めることができたと考えられる。

 高知市内の中学校で実施した出張授業は、液状化現象とその被害を理解してもらうことに加えて、液状化被害を踏まえた上での津波からの避難行動を考えてもらうことを目的として実施した。中学生が対象であることから自分自身の頭で考えてもらうようにするべく、実験に加えて講義形式やグループワークを織り交ぜた。はじめに、地震によって引き起こされる被害や液状化現象の仕組みと起こりやすい条件、高知市内で液状化現象が発生しやすい理由について解説した。次に、水槽と模型を用いた液状化実験を生徒の代表に実施してもらい、液状化現象が発生するプロセスと被害への理解を深めてもらった。さらにグループワークとして、液状化可能性予測図(高知県作成)と津波浸水予測範囲・時間を記載している津波避難マップ(高知市作成)を参考にしてもらいつつ、津波から「どこへ・どのような手段で・どのようなルートで・何に気をつけつつ」逃げるかを考えてもらった。液状化実験やグループワークは大変盛り上がり、避難時に気をつける点や避難ルートの設定について、「瓦礫やガラスなどに気をつける」「橋を通らないようにする」「液状化しているところを通らないようにする」といった発言が見られるなど、避難行動について活発な議論を行うことができた。



4.  液状化実験を利用した効果的な防災教育手法の検討

液状化実験の効能として、参加者が自ら実施することで興味をもって楽しみながら学んでもらえること、実現象を手元で再現することによって現象や被害についての直感的な理解の助けとなることが挙げられる。上述の事例からも、これらの効能は参加者の年齢や性別によらず効果があるものであり、液状化実験は幅広い層に有効なコンテンツであると考えられる。

中学生への実施例から、実験で関心を高めた上でグループワークを実施することで、防災意識向上への効果が高くなることが示唆された。そのため、実験とグループワークを組み合わせ、自ら考えながら手を動かす時間を作ることで、自分や周りの人の安全のためにとる行動を考える機会を充実させることができると思われる。



引用文献

長谷川翔・石澤尭史・磯崎匡・伊藤大樹・昆周作・佐々木隼相・平田萌々子・松岡祐也・山田修司, 2017, 安全・安心の社会的実装に向けた学際的調査と提案―福島県いわき市沿岸地域に根付く防災・減災. 東北大学グローバル安全学トップリーダー育成プログラム 学生自主企画活動報告書, 第3章, pp. 32-83.

防災科学技術研究所, 2016, 感性でとらえる地盤液状化の科学おもちゃ エッキー. http://www.bosai.go.jp/activity_general/ekky/ekky.pdf.