14:25 〜 14:40
[O07-03] 天文学とアートとのコラボレーション最前線
★招待講演
キーワード:天文学、アート、サイエンスコミュニケーション、画像、アーティスト・イン・レジデンス、星景写真
1. 「はじめに」
今や光や重力波を使った天文学は、目で見える世界から目では見えない世界まで、幅広い「知覚」を獲得し、より人類の本質的な疑問、例えば「私たちがなぜここにいるか、私たちがどこからきたか?」という問いに直接答えつつある。近代科学が始まる前には、天文学や芸術は、わたしたちの世界や自分の存在の意味を理解・確認する「知の手法」として分かちがたいものであった。しかし、その後の急速な科学技術の進展により、両者の共通点は遥かに遠くなってしまった。しかし今、天文学における「知覚」の急激な進展が、先ほど述べた私たちの起源を科学的に探究する(例えば、宇宙の起源、系外惑星や宇宙生命の研究)という、より人間の根源的な疑問を研究対象に出来るようになってきた。このことより、再び、天文学と芸術とのつながりを模索する意義がでてきた。
ここでは、著者が天文学と芸術の繋がりの探求として行なった、「志賀高原ロマン美術館」の2015年夏企画展「宇宙を見る眼、アートと天文学のコラボレーション」を紹介する。さらに、天文学におけるビジュアルによるサイエンスコミュニケーションの例として、惑星探査機での画像発信の成功例や、ハッブル宇宙望遠鏡や国立天文台すばる望遠鏡、アルマ望遠鏡などの例を紹介する。
2. 「宇宙をみる眼」
志賀高原ロマン美術館では、2015年夏に「宇宙をみる眼」をテーマに、天文学とアートの企画展を開催した[1]。このプレイベントとして、「アーティスト イン レジデンス in 野辺山」を2015年5月に実施した[2]。「アーティスト・イン・レジデンス」とは、アーティストが実際に開催地などに滞在し、そこでの体験から作品を制作する企画である。アートの世界では、国内外を問わず頻繁に実施されているが、天文研究機関での実施は、国内において初めての試みであった。長野県ゆかりのアーティスト5名が参加した。国立天文台野辺山の見学、研究者の談話会への参加、観測所長や研究者・技術者へのインタビューなど、アーティストの方々が、観測や研究の最前線を体感できるプログラムを提供し、この滞在中に得たインスピレーションをもとに制作された作品を美術館で展示した。
この試みは、「科学と科学技術を活用したアート」ではなく、「宇宙とはなにか」を多角的に提示するものであった。国立天文台野辺山でのレジデンスでは、アーティストと天文学者の「face to face」の交流が、アートと天文学の新しいコラボレーションへと結実した。このような出会い交流する場を作る、活動をサポートする企画の自体が、アート表現の一つであり、また、新しい天文教育の可能性を広げる場となるだろう。
3. 天文学における画像の力
天文学のアウトリーチでは、以前より画像の力を利用してきた。この中でも、科学成果以上に市民にインパクトを与えた画像がある。古くは、ボイジャー1号が1990年に太陽系を俯瞰した”Pale Blue Dot”、日本では、日本の月探査機「かぐや」に搭載さえたハイビジョンカメラによる「月面の上の青い地球」であろう。最近では、NASAの木星探査機「ジュノー」に、市民天文学用に搭載されたジュノーカム(JunoCam)カメラの画像が注目されている。これらが、科学探査機への理解度を著しく向上させている。
4. 天文学のアウトリーチ用の星景写真集
系外惑星系の命名キャンペーンを国際天文学連合(IAU)が行なった際に、著者は、命名された系外惑星系を、より多くの人々が親しみを持ってもらうための星と風景の中での系外惑星を持つ恒星を写しこんだ「星景写真」セットを制作公表した。
以上のように、天文学の於ける画像の力と市民科学の可能性についても言及しよう。
「宇宙をみる眼」は、志賀高原ロマン美術館の学芸員、鈴木幸野氏の企画である。また、アーティスト・イン・レジデンスでは、国立天文台野辺山の全面的な協力で行なわれた国立天文台の衣笠健三氏、齋藤正雄准教授らの協力により行なわれた[2]。
文 献
[1] 志賀高原ロマン美術館HP http://www.s-roman.sakura.ne.jp/
[2] 日本天文学会2015年秋季年会記者発表「天文学とアートのコラボレーション」http://www.nro.nao.ac.jp/news/2015/pr0908/0908-astro_and_art.html
今や光や重力波を使った天文学は、目で見える世界から目では見えない世界まで、幅広い「知覚」を獲得し、より人類の本質的な疑問、例えば「私たちがなぜここにいるか、私たちがどこからきたか?」という問いに直接答えつつある。近代科学が始まる前には、天文学や芸術は、わたしたちの世界や自分の存在の意味を理解・確認する「知の手法」として分かちがたいものであった。しかし、その後の急速な科学技術の進展により、両者の共通点は遥かに遠くなってしまった。しかし今、天文学における「知覚」の急激な進展が、先ほど述べた私たちの起源を科学的に探究する(例えば、宇宙の起源、系外惑星や宇宙生命の研究)という、より人間の根源的な疑問を研究対象に出来るようになってきた。このことより、再び、天文学と芸術とのつながりを模索する意義がでてきた。
ここでは、著者が天文学と芸術の繋がりの探求として行なった、「志賀高原ロマン美術館」の2015年夏企画展「宇宙を見る眼、アートと天文学のコラボレーション」を紹介する。さらに、天文学におけるビジュアルによるサイエンスコミュニケーションの例として、惑星探査機での画像発信の成功例や、ハッブル宇宙望遠鏡や国立天文台すばる望遠鏡、アルマ望遠鏡などの例を紹介する。
2. 「宇宙をみる眼」
志賀高原ロマン美術館では、2015年夏に「宇宙をみる眼」をテーマに、天文学とアートの企画展を開催した[1]。このプレイベントとして、「アーティスト イン レジデンス in 野辺山」を2015年5月に実施した[2]。「アーティスト・イン・レジデンス」とは、アーティストが実際に開催地などに滞在し、そこでの体験から作品を制作する企画である。アートの世界では、国内外を問わず頻繁に実施されているが、天文研究機関での実施は、国内において初めての試みであった。長野県ゆかりのアーティスト5名が参加した。国立天文台野辺山の見学、研究者の談話会への参加、観測所長や研究者・技術者へのインタビューなど、アーティストの方々が、観測や研究の最前線を体感できるプログラムを提供し、この滞在中に得たインスピレーションをもとに制作された作品を美術館で展示した。
この試みは、「科学と科学技術を活用したアート」ではなく、「宇宙とはなにか」を多角的に提示するものであった。国立天文台野辺山でのレジデンスでは、アーティストと天文学者の「face to face」の交流が、アートと天文学の新しいコラボレーションへと結実した。このような出会い交流する場を作る、活動をサポートする企画の自体が、アート表現の一つであり、また、新しい天文教育の可能性を広げる場となるだろう。
3. 天文学における画像の力
天文学のアウトリーチでは、以前より画像の力を利用してきた。この中でも、科学成果以上に市民にインパクトを与えた画像がある。古くは、ボイジャー1号が1990年に太陽系を俯瞰した”Pale Blue Dot”、日本では、日本の月探査機「かぐや」に搭載さえたハイビジョンカメラによる「月面の上の青い地球」であろう。最近では、NASAの木星探査機「ジュノー」に、市民天文学用に搭載されたジュノーカム(JunoCam)カメラの画像が注目されている。これらが、科学探査機への理解度を著しく向上させている。
4. 天文学のアウトリーチ用の星景写真集
系外惑星系の命名キャンペーンを国際天文学連合(IAU)が行なった際に、著者は、命名された系外惑星系を、より多くの人々が親しみを持ってもらうための星と風景の中での系外惑星を持つ恒星を写しこんだ「星景写真」セットを制作公表した。
以上のように、天文学の於ける画像の力と市民科学の可能性についても言及しよう。
「宇宙をみる眼」は、志賀高原ロマン美術館の学芸員、鈴木幸野氏の企画である。また、アーティスト・イン・レジデンスでは、国立天文台野辺山の全面的な協力で行なわれた国立天文台の衣笠健三氏、齋藤正雄准教授らの協力により行なわれた[2]。
文 献
[1] 志賀高原ロマン美術館HP http://www.s-roman.sakura.ne.jp/
[2] 日本天文学会2015年秋季年会記者発表「天文学とアートのコラボレーション」http://www.nro.nao.ac.jp/news/2015/pr0908/0908-astro_and_art.html